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1. ブチ切れる

私が彼と出会ったのは、7歳の時だった。


7歳の誕生日、私は父の友人だという隣領の領主の邸を両親に連れられて訪れた。

そこで紹介されたのは、ふわふわの金髪にペリドットのような鮮やかな緑色の瞳をしたとても可愛らしい男の子だった。


婚約者だよと紹介された彼、シフィルを一目見たとき、私は天使が現れたのかと一瞬思った。


シフィルに一目惚れした私は彼にずっとついて回り、好き、大好きと毎日告白していた。


彼は同じように好きとは返してくれなかったけれど、私を遠ざけることはなく、私は遠慮なく愛を伝えていた。


しかし、出会ってから3年が経ったある日、私にこう言った。


「・・・ごめん。もう付き纏わないでくれ・・・我慢の限界なんだ」


不機嫌そうに眉をぐっと寄せ、それだけ言うと立ち去ってしまった。


当の私は、しつこくし過ぎてついに嫌われてしまったという事実に頭が真っ白になり、専属侍女のアネッサが心配して迎えに来てくれるまでその場に立ち尽くしていた。



その後、彼のいう通り付き纏うのをやめた私だが。


「・・・・なんなのよ!? 付き纏うなと言いたいことだけ言って、その後すぐ騎士団に入団したと思ったら

5年間も音沙汰なしなんて・・・・!!」


彼は言いたいことだけ一言私に言って、すぐに騎士団に入団したのだ。

あれから5年経った今でも彼からはなんの音沙汰もない。一度、シフィルの実家の伯爵家にも何か連絡はあるか尋ねたが、入団してから一度も家に帰省していないし、連絡もないとあっけらかんと言われた私はついにブチ切れた。


婚約者に手紙の一つもない上、家族にさえ何もないだなんて、どうかしている。


「今まで辛抱していたけど、もう我慢ならない!! 騎士団に突撃してやるわ!!」


そう宣言した私に何故か両親が必死に止めようとしてくる。

なんかやばいことでもあるの?



私は今、王都の邸から王城に向かっている。騎士見習いは別棟での訓練らしいが、正式な騎士となれば王城内の騎士団訓練場でやるらしい。

ちなみに王城への立ち入りは通常禁止だが、例外として王城で働いている者と、貴族ならばその婚約者にも許可証が与えられるため、私は立ち入りOKだ。


「アリスティア様、本当によろしいのですか? 旦那様と奥様は何度も止められていましたが・・・・」


アネッサが尋ねてくる。


「いいの。そもそもほとんど事情を話しもせず私を無視する方がいけないのよ!」


私は何回もシフィルに手紙を送っていた。それでも返事はこない。

これは私情だけではなく、婚約者としての義務も果たしていないことになる。

でも両親にそれを訴えると、のらりくらりとはぐらかされる。わけがわからない。


私は見た目はかなり可愛い方だと自負している。サラサラの黒髪も大きな黒い瞳も私の自慢だ。


馬車がガタッと止まる音がする。どうやら着いたらしい。


門番に許可証を提示し、入っていく。

しかし、何度も訪れたことのないこのだだっ広い王城では迷ってしまう。

そのままフラフラと訓練場を探していると、後ろから誰かに声をかけられた。


「お嬢さん、お困りですか?」


振り返ると、銀髪に紫の瞳の青年が立っていた。ニコニコと愛想の良さそうな笑みを浮かべている。


「いえ、騎士団の訓練場がどこか探しているんですが、ちょっと迷ってしまっただけですので・・・・」


急なことだったので、つい口ごもってしまう。


「よかったら案内しましょうか?」


見知らぬ男性について行くのは気が引けるけれど、このまま彷徨っていてもおそらく迷ったままだろう。

案内してくれるというならついて行くことにしよう。


しかしその時、ぐいっと力強く手を引かれた。懐かしい匂いが強く鼻を掠める。


「ねえ。なに勝手に連れて行こうとしてんの?」


頭上から降ってくる低い声。聞き覚えのない声だけれど、本能が誰なのか訴えている。振り向こうとするが、後ろから抱きしめられていて、頭が動かせない。


「私はただ単に彼女の目的先へ案内しようと思っただけですよ。そんなに警戒しないでください」

「・・・・そう。ならもう大丈夫だから貴方は戻って良いよ」

「そうですか。余計なお世話でしたね。・・・・失礼します、お二人とも」


そういうと、最後ににこりと笑ってその青年は行ってしまった。


しかし、回された腕の抱擁はなかなか解かれない。


「・・・ッねえ、いい加減に、してよ!! 何でここにいるの? いま訓練中じゃなかったの!?」


腕から抜け出そうともがくが、思いのほか力強く抱きしめられていて抜け出せない。


「・・・・ティアこそ、なんでここにいるの?」


不機嫌そうなその一言に、私は回された腕に思い切り噛み付く。その拍子にバッと腕が離れていった。シフィルは噛まれた腕を押さえている。


「っ」

「それはこっちのセリフよ!!! なんであれっきりなんの連絡もなかったくせに今頃現れて、挙句に抱き締めるなんてッ・・・・何考えてるのよ!? なんで事情を話してくれないの!? なんか私に隠し事でもあるの!? シフィル!!」


溜まっていた疑問が爆発してしまった。

しかし私はシフィルが隠し事という言葉に一瞬たじろいだのを見てしまった。


「・・・・そう、そうなの。隠し事をしているのなら、それは別にいいわ。私があなたのこと好きだっていうのは当然知ってるでしょう? でもその心を弄ぶつもりなら私はこれから一切、あなたと関わらないわ」


こんなつもりではなかった。だけど、無視するだけ無視しといて、近づくなと言ったのは向こうなのに急に現れ抱きしめるなんて、あまりにも身勝手だ。

私の恋心をなんだと思っているの?


「ま、待って、誤解だから!! ティアッ!」


後ろでシフィルが待ってくれと叫んでいるが、私はそのまま翻して元来た通路を戻って行く。




しばらく距離を置きましょう、シフィル。

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