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 いつも通りの日常であるが、気がつくとルイスのことを考えていた。

 もう起きてるかな? お昼御飯ちゃんと食べたかな? 今頃服を作っているのだろうか? 今日はどこへ配達に行くのだろうか?

 そう言えば、彼は結婚しているのだろうか?! 恋人は?!


 彼が結婚しているかもと考えると、涙が出そうになるので、考えるのは放棄した。




 エレインから、ロイのことの謝罪と、誰か紹介しようかという手紙が届いた。


 気が進まないが、そんなことを言っている余裕はない。20才までには出来れば婚約まではこぎつけたい。とりあえずもう少しあがいてみようと決めた。

 エレインの夫が2、3人心当たりがあるらしい。


 


 エレインの夫が紹介してくれた人は、一人目は全く合いそうになかったので、すぐお断りした。


 2人目のラッセルとは、いい雰囲気になり、3回目も会うことになった。彼は私より1才年上だった。


 周りも今度こそは結婚かと期待しているようであり、私もまあそういうものかと思っていた。



 町に他国からサーカスというのが来ていて大変な話題になっていた。動物が芸をしたり、人がボールの上に乗って移動したりするらしい。


 ラッセルにサーカスに誘われ、私は楽しみでずっとワクワクしていた。妹のマリアンナも明日、婚約者と見に行くらしい。



 当日、ラッセルが迎えに来てくれた。

 町外れのサーカスのテントの周りには人が大勢いた。少し離れた所には馬車が沢山停まっている。テント近くで馬車からおろされると、番号札を渡された。馬車にも同じ番号が渡されており、帰り際に大混乱にならないよう順番に出口につけてくれるようだ。

 乗り合い馬車も次々に到着してそこから人が降りてくる。


 案内された席は正面の前の方で、大変いい席だった。


「素晴らしい席ね。どうもありがとう」


「オリビアさんが喜んでくれたら、頑張ったかいがあるよ」


 ラッセルは嬉しそうに笑った。


 大きなテントの中にはすでに人がいっぱいで、ザワザワとしている。

 なんとなく会場を見回していて、ある一点に釘付けになった。


 ルイスがいた。隣に座っている女性に盛んに話しかけられているルイスは、とても楽しそうに笑っていた。

 なぜか指先が冷たく感じられた。


「オリビアさん、知り合いがいるの?」


 声をかけられ我に返る。


「えっ? あの、見たことある人がいるなあと思って」


「なんだか顔色が悪いけど大丈夫?」


「え? ええ大丈夫。何でもないわ。早く始まらないかしら」


 ラッセルと話しながら、さっき見た光景で頭の中はいっぱいだった。ルイスの奥さんか彼女だろうか?


 サーカスが始まった。顔を真っ白に塗った派手な服の怪しい人が出てきて、皆を笑わせた。


 次々と演目が進む中、チラリとルイスを見ると、隣の女性と彼は顔を近づけて話していた。

 慌てて前を向き、両手を握りしめた。そうしていないと体が震えそうだった。見たくないのにルイスが気になってしょうがない。しかし、ラッセルに失礼なので一生懸命サーカスに集中する。


 ライオンなど本の絵でしか見たことない生き物が出てきて、本当に驚いた。あんな恐ろしそうな生き物をどうやって従わせるのか不思議だった。


 ありがたいことに、サーカスはビックリするような演目が多くて、驚いているときはルイスのことを考えずにいられた。一つ演目が終わるたびに、ラッセルが話しかけてくる。演目について感想を話していると次が始まり、またドキドキしながらサーカスに釘付けになった。

 サーカスは盛大な拍手の中終了した。


 特別席の人達は、番号順に馬車に案内するので、出口に自分達の番号が出るまで席に座っているように言われ、しばらく話しながら座って待つ。


「本当にすごかったなあ。何が楽しかった?」


 ラッセルは興奮冷めやらぬ様子だ。


「そうねえ。ライオンはすごい迫力だったし、ナイフ投げも怖くてドキドキしたけどすごかったし、綱渡りなんてドキドキしっぱなしだったわ」


「ハハハ、ずっとドキドキしてたんだね」


 ラッセルは声をあげて笑った。


 ルイスなら、「全部ドキドキかよ。語彙力ないなあ」と馬鹿にしそうだ。


 恐る恐るルイスの方をみると、立ち上がって女性と帰るところだった。相変わらず仲良さそうだ。見なければ良かった。ルイスが急にこちらを見て、目が合ったような気がした。私が固まっているうちにルイスは、人の波に飲まれてしまった。



「やっぱり知り合いだったの?」


「え? ええ。うちにも出入りしてるお店の従業員だったわ」


 ラッセルに聞かれて答えながら、なぜかとても後ろめたい気分だった。 




 帰りの馬車で、私は気がつけば上の空で、ともすれば溜め息をつきそうになった。


「体調が悪いの? 大丈夫?」


「えっ? いや大丈夫よ」


「……」


 私はボーッとしていて、ラッセルの表情に気づかなかった。



 しばらくしてまたラッセルが、強張った顔で話しかけてきた。


「会場に居た人が気になるの?」


「えっ…………」


 その言葉に絶句した。


「何か困ったことがあるなら相談に乗るよ」


 ラッセルが真剣なまなざしを向ける。


「いえ、何も問題はないわ」


 その答えにラッセルは顔を歪める。


「そういう風には見えないよ。きみの力になりたいんだ。それとも頼りないかなあ?」


「そんなことないわ」


 慌てて言う。


「何か嫌なことされたの? まさか脅されてる?」


「彼はそんな人じゃないわ! あっ…………」


 ついむきになって答えてしまった。手で口を押さえたけれど、出た言葉は変えられない。


 ラッセルがしばらくして口を開いた。


「もしかしてその人が好きなの?」


 ストレートな言葉に、声が出ない。


「図星なんだね……半分冗談のつもりだったんだけど……そうか、好きな人がいたんだ……」


「あっ、あの……」


「好きな人がいるのに僕と会ってたの?」


 ラッセルの言葉が胸に刺さる。


「彼のことは考えないようにしてたので……だけど……ごめんなさい」


「僕のことは真面目に考えてくれてたの?」


「ええ、もちろん」


 それだけは伝えたくて力を込めて答える。そんな私にラッセルは寂しそうに微笑んだ。

 

「さすがに、こんな状態のきみを見て、それでもまだ付き合いを続けようとは思えない。家に送って行くよ」


 ラッセルは御者台に繋がる小窓を開けて、行き先を我が家に変更するよう伝えた。この後食事に行くことになっていたのだ。


 後日ラッセルには、謝罪の手紙を書いた。ラッセルは『きみの恋が実るといいね』と優しい言葉を返してくれた。

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