表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/29

8話 悪役令嬢の誤解を防ぐための追及の誤魔化し方ってありますか? 前

 翌日の朝、俺たちは瞑想をしていた。


「「……」」


 早朝五時。まだ日も昇るかどうか、と言う時間帯に、俺たちは高台に集合して、静かに呼吸を整えていた。


 していることは大したことではない。胡坐をかいて座り、呼吸の回数を数えるだけだ。だがそれに集中できるようになると、どんなことにでも同じく集中することが出来るようになる。


 いわば、集中力の筋トレ。それが瞑想だった。


「う、うう、ううぅ……」


 そしてサーニャは瞑想が全然できないタイプだった。


「サーニャ、呻くな」


「で、ですが、ロレンシウス様……」


「ですがではない。集中しろ。気を静かに保つんだ」


「う、うぅ……すー、はー……」


 苦しげにサーニャは深呼吸を繰り返す。いや、瞑想って結構きついんだよ本当。十分寝て起きた朝などにやると、寝るという逃げ道をふさがれ、慣れていないと焦燥感のようなものが体を掻き立てる。呼吸に集中する、ということが出来ないと、その衝動には抗いがたい。


 そして、日が昇った。俺が「やめっ」と言うと、サーニャは「や、やっと終わりました……」と後ろに倒れてしまう。


「め、瞑想って、大変なんですね……」


「ああ、大変だぞ。だが、これができるようになれば、それこそ何でもできるようになる。苦手な分野の勉強でも長時間続けられるし、辛い訓練でも同様だ」


 俺が言うと、サーニャはハッとした顔になる。


「せ、成績も、上がりますか」


「瞑想と勉強、どちらも欠かさなければな」


「……私、頑張ります」


「ああ、共に頑張ろう」


 強い笑みでそう言ったサーニャを、俺は温かく迎え入れた。










「いや、どういう関係性なんですか」


 ルーデルに近況を報告すると、えぇ、という顔になられた。何故。


「瞑想友達だ」


「婚約者では?」


「それもある」


「いや、メインでしょうに」


 例のごとく花壇である。ルーデルは王族らしくなく、作業着で土いじりをしている。


「よーし、元気に育てよ~……」


「お前も大概花が好きだな」


「花に限りません。野菜も果物も好きです。あと珍しいのはより一層好きです」


「どういうのがある」


「サボテンとかですかね……。あ、食虫植物もいいですよ。何かこう、ゾクゾクします」


「……」


 何か性癖に根差した感じがあるな。あんまり突っ込むのはやめておこう。


「それで、まぁまぁサーニャとの仲は良好になりつつあるってとこですか?」


「そう、か? そうかもしれん。分からん。だが共通の趣味に目覚めさせることが出来たので、そういう意味では良好だ」


「しかし、瞑想か……。あの兄上が、ふふ。最近の兄上は面白いなぁ」


 クスクス笑うルーデルに、俺は肩を竦めておく。


「ところで、リーナたちとはどうなんですか?」


「どう、とは?」


 そこでルーデルは、小声になって俺に言ってきた。


「(リーナと恐らくもう一人接近中です。そのつもりで答えてください)」


 マジかよ。


「そうだな。最近は調査が忙しくて会えていないな。少し寂しくもあるが……何とか機会がないか伺ってはいるのだがな」


「そうなんですか?」


「おやおや、流石の殿下とはいえ、リーナと離れ離れと言うのは流石に堪えたようだね」


 現れて嬉しげに笑うのはリーナ。そして含みのある笑みを浮かべるのは、レオナルドだ。


 レオナルド・ギャスパル・クレール・ブーロー。ブリタニア宰相の息子で、水属性の魔法を得意とする逆ハーレムメンバーの一人だ。水のレオナルドくんである。


「おお、二人とも。よく俺の場所が分かったな」


「僕にかかればその程度、造作もありませんよ。ディル君に頼みましたからね」


 それお前の力じゃねーじゃん。


 でも風の魔法は汎用性が高くて重宝するのも確かなのだ。人探しは風魔法、と相場が決まっている。


 なので俺は「そうか」と受け流すだけにして、ひとまずリーナに「久しぶりだな、会いたかったぞ」と告げる。


「はい、私もロレンシウス様にお逢いしたかったです……!」


 うるんだ瞳で朗らかに彼女はそう言う。悪意がないって分かると、以前よりも可愛く見えてしまうのだから男と言うのも単純だ。でもこの子が破滅を招くのは確定なのでちょっとね。俺にはサーニャがいるから。


「わざわざこんな学園の端っこまで、お二人は足を運んでくれたんですか?」


 口を挟むのはルーデルだ。「ああ、そうだとも」とレオナルドことレオは答える。


「僕はリーナに一番愛される座を、この機にロレンシウスから奪ってやろうかと思ったのだがね。流石に一言も入れずにそれでは、義に反するというものだ。分かるね? これは宣戦布告というものだよ。リーナの一番の座は、時期に僕のものになるというね!」


 こいつもおもしれーなぁ。馬鹿で。


「お前はその前に学業にでも打ち込んだ方がいいのではないか? それこそリーナから愛想をつかされるぞ」


「うぐっ、そ、それを言われると弱い……」


「レオ様、気にしなくっていいと思いますよ。ロレンシウス様の成績がおかしいんです。全教科満点って異常ですよ異常」


「異常ではないが」


「でも兄上、たまに満点超えるじゃないですか」


「異常かもしれないな……」


 加点問題難しくて面白いんだよな。頑張って解いちゃう。結果百点満点で百二十点とかになる。


 そう、馬鹿王子ことロレンシウスこと俺は、何と言うか物覚えがいいし、頭の回転が速いのだ。前世だったら熟考の必要な問題が、すんなりと解けてしまう。探し物が常に目の前にある感じ。多分頭脳スペックがシンプルに高いんだと思う。


 ただそれ故に、自分が間違っているのでは、と疑う能力が低かったんだよな。一度信じてしまったら盲目と言うか。それで婚約破棄直前にまで至ってしまった。怖いわーマジ。反骨精神とスペックの高さを拗らせてたんだなぁと過去を評価する。


「勉学に励むのは悪くないぞ。どのくらい悪くないかと言うと、現実で直面した問題で『ここ学校で勉強したところだ!』と役に立つことがある」


「ベネッ……、何か宣伝っぽい物言いですね、ロレンシウス様」今リーナ言いかけたな?


「実際にそういうことがあったのかい? ロレンシウス」


「……ないかもしれん」


「ないんですか兄上……」


 図らずしも嘘をついてしまった。いや、前世にはあるんだけどさ、今世ではないから説明が出来なかったんだよ。


 そこでリーナに目を向けると、彼女はちょっと恥ずかしそうにこう言った。


「私はただ、その、ロレンシウス様と久しぶりに話がしたいなって、そう思いまして……」


「そうだな」


 一瞬癖で『俺もお前に会えなくて寂しかった』的にリップサービスをしそうになったが、それをサーニャに見られたら事だ。見られてないよな? そういうありがちなケンカの種、嫌だぞ俺は。


 と思ったので、光の魔法で周囲の人影を探した。反応は五人。俺、ルーデル、リーナにレオ、そしてサーニャ。


 いるじゃん。柱の物陰でこっちのこと伺ってるじゃん。


 光魔法は風魔法に比べて範囲が狭い代わりに、光を司るだけあって視覚情報の収集に強い。だから俺は、サーニャがとても心配そうな顔で柱の物陰からチラチラこちらを伺っていることが容易に分かった。可愛いムーブやめろ。


 どうするよこれ。逆ハーメンバー内ではサーニャが変なことをしてたからその追加調査扱いでサーニャと戯れてんだぞ俺。その建前をこっちで言ったらそれが本心としてサーニャに伝わってしまう。それアレじゃん漫画で定番の奴じゃん詰みじゃん嫌だ。


 俺はリーナが俺に愛を囁いているのを適当にうんうん聞き流しながら、必死に頭を捻ってどうすればいいかを考えた。「調査どうなんですか?」みたいな話で俺が「順調だ」とか言ったらサーニャの心がブロークンハートしてしまう。頭痛が痛い。


 そこで俺はハッとする。そうか、その話題にならなければいいのか。ならば俺お得意、話を逸らすをやればいいだけの事。


「何で今ハッとしたんですか?」


 突っ込んでくるリーナさん。やっぱリーナさん勘が良くて怖いわ……。


「いや、前回のテストの加点問題、もっとスマートに解く方法があったな、と思い出してな」


「まさかの百点越えのさらに先を行こうとしていたとは……」とルーデル。


「聞くか?」


「私は土いじりで忙しいので」上手く避けるじゃん弟よ。


「僕も結構だ。頭痛が痛くなる」それ俺がさっき思いついたボケ。


「私は聞きたいです! 是非聞かせてください」リーナさんやめて。適当言っただけだからやめて。


「……」サーニャ! 何まじめに受け取ってメモ取り出してんだお前!


 ダメだ。男の価値基準で絶対流れるような言い訳したのに、まじめな女性陣が流してくれない。


 だがここで、一見面倒なこのシーンが、実はかなりいい状況であると理解する。何故なら、ここで適当な勉強話をすれば、サーニャの話題に移らずに済むからだ。


 ならば、せいぜいまともに話そうじゃないか。禍福はあざなえるなんちゃら……と思いながら俺が口を開いたところで、レオが言った。


「それで? アレクサンドラとはどうなってるんだ」


 このバカがよ。余計なことしやがって。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ