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4話 悪役令嬢をいじめる奴らを特定するためのワナはこんなもんでいいですか?

「おい、少し手伝ってくれないか」


 俺が声をかけると、その少年は「分かりました。ご用件は何ですか、殿下」と立ち上がる。


 少年の名は、ディルといった。ディル・ブランディア。逆ハーレムメンバー仲間にして、俺の乳兄弟でもある。


 乳兄弟というのは、同じ乳母によって育てられた仲、ということだ。実の兄弟ではないが、それに近しい関係性と言っていい。ディルは俺にとっての乳母の実の息子で、俺の一番の家臣でもある。得意属性は風。風のディルくんである。


「サーニャが何か企んでいそうだった。分かるだろう。先日のパーティーの件だ」


 俺が言うと、ディルは跳ねるように反応した。それから、首を傾げる。


「サー、ニャ……?」


「間違えた。サーニャだ」


「殿下、何も変わってないです」


「サーニャ」


「違います」


「アレクサンドラ」


「そうです」


 そうですじゃないが。いや、三連続で言い間違えた俺が言えることじゃないけど。


「アレクサンドラ様が、先日殿下が婚約破棄を躊躇ったことの原因であると……?」


 お、いいな。俺が誘導したい方向に一発でかかってくれた。


「その可能性がある。先ほど奴と食事をとったのは、その調査のためだ」


「理解しました。何事かと思いましたが、そういった理由だったのですね。であれば、任せてください。私がアレクサンドラ様の不審な動きの全てをご報告いたします」


 一つ首肯して、ディルは「風よ、我が身を渦の中に隠したまえ」と詠唱し、その姿を消した。姿を消して隠密という事だろう。


「これで布石を一つ目、と。さて、次はどうしたものか」


 俺は次の手を考えながら、その場を離れる。













 俺の作戦はこうだ。


 サーニャをいじめる犯人を特定することで、リーナを退けさせるための足掛かりとする。そのため、サーニャをいじめる犯人が尻尾を出すような状況を作り出す。


 その「尻尾を出すような状況」に対し、俺は以下の条件を設けた。


1.俺など王族関係者の監視の目がない、悪事を働きやすい状態

2.物質的に証拠の残る、後々になって裁きの下しやすい状態

3.サーニャが傷つくようなことのない状態


 1と2は主目的に直結する条件だ。逆に3は、1,2の条件をメインに置くことで、ないがしろにされてしまいやすい要素として設定した。


 だってサーニャがイジメられて裏で泣いてたりしたら嫌じゃん。可哀そうになってしまう。可哀そうなのは良くない。何万回か死んだ猫もそう言ってる。


 なので俺は、サーニャを訪ねた。


「おい、アレクサンドラ。少し付き合え」


 別教室で授業を終えたサーニャの下に赴き、俺はそう声をかけた。授業は一通り終わり、放課後の時間だ。


 あれから、数日が経っていた。何度か昼食を共にして、ぎこちないながらも関係性の修復が一定の段階にまとまったと見ての行動だ。


「キャー! ロレンシウス様だわ!」


「でも、珍しいですわね。ロレンシウス様は、リーナさんにお熱じゃありませんでしたこと?」


「そうですわね……。アレクサンドラ、様に用事があるなんて、本当に珍しい……」


 おい聴衆。今トップレベルに偉い公爵令嬢を呼び捨てようとしたな? お前の爵位を上から数えてみろこの野郎。


 とは思いながらも口に出さず、俺はまっすぐにサーニャを見た。教科書をカバンの中に詰めようとしていたサーニャは、周囲のざわめきに包まれながら、目を丸くして俺のことを見つめている。


「な、ななな、何の、ご用ですか?」


 やはり少し顔を赤くして、上目遣いにこちらを見てくるサーニャ。夕日の赤が銀髪を柔らかく照らしていて、ひどく美しく見えた。俺は一瞬見惚れてから、我に返ってこう返す。


「用? 用などない。それとも婚約者をデートに誘うのに理由が必要か?」


「こっ、ここここっ」


 サーニャにわとりみたいになってんね。


「……ありま、せん」


 ぷしゅー、と蒸気を上げ、カバンで顔を隠しながらも肯定してくれるサーニャだ。うーんこの可愛さみんなに伝えたい。伝えたい一方で独占したい。俺だけのものにしたい。ハッ、これが独占欲◎……!


 ともあれ、デートのお誘いは快く受けてもらえたと見るべきか。俺は口の中で「導きの光よ。我が眼を前に隠れる者の姿を暴け」と呟き、俺の目にのみ、魔法で隠れる人物の姿を見えるようにする。


 そこには、動揺した様子の我が乳兄弟、ディルがいた。俺はニヤリ笑って彼と目を合わせる。彼は何度かパチパチまばたきしたが、目が合っていると理解して、無言の中に自らを指さす。


 俺は静かに首肯。後にトントン、と二回サーニャの机を指で叩いた。監視しろ、という命令だ。


 ディルが頷いたのを確認して、サーニャに視線を戻す。


「では行くぞ。ついてこい」


「え、あ、待ってください。カバンが」


「そんなもの従者に任せればいい。それが彼らの仕事だ。奪ってやるな」


 俺の言葉に、またもやポカンと口を開けて、それからしばらくした後に「……はい」とサーニャは大人しくなった。また俺なんか言ったみたいだな。


「何か引っかかるところでも?」


「……ロレンシウス様は、本当にお変わりになられたのだ、と思っただけです」


「それは、どういう意味だ? 喜ばしいというものか、それとも嘆かわしいというものか」


「私には……分かりかねます」


 後ろをちらと見やる。サーニャは、思いつめたように下唇を噛んで、時折教室を気にしながらも、俯いてじっと考えながら俺に追従していた。


 俺は思う。うら若き少女にこんなしっぶい顔をさせるとは、俺もまだまだだなぁと。


 だから、率直に伝えてみた。


「そんな顔をするな。俺は、お前の笑顔が見たいだけなのだ」


「ッ――――~~~~!」


 赤面し瞠目するサーニャに「ああ、あと今のような赤面もな」とクスリ笑うと、「ロレンシウス様は、本当に意地悪になられました……!」とそっぽを向いてしまう。


 まぁいい。先ほどのような思いつめた顔よりはマシだ。それに、サーニャの心配には見当がついているし、それにも手は打ってある。


 ひとまず、俺はサーニャとのデートを楽しんでおけばいい。あとは、教室に戻ったとき、ワナにかかった狸がいるかどうか、だ。


 俺は、サーニャから顔を背け、ほの暗く笑う。


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