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25話 俺様王子が悪役令嬢とマジで復縁してるじゃん 下

「ロレンシウス!」


 俺の名を高らかに上げながら殴りこんできた四人を、今更説明するまでもないだろう。


 火のアルヴァーロ、水のレオナルド、風のディル、そして土のサルバドール。


 リーナ逆ハー四人衆の登場だ。その後ろにちゃっかりリーナさんもいる。


「雁首揃えて、何用だ」


「よくもぬけぬけと言えたものだね。リーナがお前に拒絶されて、泣き崩れているのを見た。それ以上の理由が必要か?」


 先頭のレオの言葉を受けて、俺はサルバドールを見る。彼は一番後ろで、小さく肩を竦めていた。どうやら、全員を上手く乗せることに成功したらしい。


「致し方ないことだ。俺はサーニャを選んだ。サーニャただ一人に決めたのだ。ならば、リーナのことは受け入れられるはずもあるまい」


「そのことで、リーナが傷つかないと思うのかよ。リーナが傷ついて、俺たちが泣き寝入りするとでも思ったかよ」


 ギラギラと目を怒らせて突っかかってくるのは、アルヴァーロだ。俺はそれを受け流す。


「お前たちが黙っていないだろうな、とは予想した。だが、抗議する以上の何が出来る。俺は王太子で、親の取り決め通り婚約者と仲睦まじく過ごしているだけだ。お前たちは自らの婚約者には振り返りもせず、リーナに夢中になっている」


「それでもっ、僕らは黙っているわけにはいかないんです! だって僕らだって、殿下同様、こうと決めているんですから」


 強く自らの意志を示したのはディルだ。乳兄弟で、信頼している彼から睨まれるのは中々くるものがある。だが、俺とてここでは退けないのだ。


「そうか。それで、どうするというのだ。俺の意志は曲がらない。リーナを受け入れることは出来ない。お前らの下にも帰るつもりはない」


「おいおい、そう結論を急ぐなよ、ロレンシウス。ボクらだって、まさか手ぶらで来たわけじゃない。ちゃんとお前の気持ちを変え得るものを用意してきたつもりだ」


 前に歩み出てきたのはサルバドールだ。本当にこう言う状況になってこんなやり取りが発生したら、嫌な相手だっただろう。


「アレクサンドラがリーナをいじめていた、と言う話は覚えているね?」


 周囲に群がる観衆たちのざわめきが大きくなる。もとはと言えば、それが原因でリーナ側への同情心が出来上がっている節がある。


「そうだったな。危うく嘘に踊らされて、婚約破棄をするところだった」


「何を言うんだ! 事実だよ。実際に見たという声を、リスト化して集めた。これは匿名だけれどね。やろうと思えば、実名付きで署名でも集められる。それとも、そうしようか?」


 よくもそんなものが用意できるものだ。サルバドールが提示した羊皮紙には、ズラズラと目撃証言が並べられていた。


「『アレクサンドラ様が裏庭でリーナさんの髪を引っ張っているのを見ました』『アレクサンドラ様にリーナさんに身分差を分からせなさいと命令されました』『リーナさんがずぶ濡れになる姿を見て、アレクサンドラ様は高らかにお笑いになりました』」


 ペラペラとサルバドールはサーニャのありもしない罪を並び立てる。それにくすくすと笑うのは、意地悪い顔をしている令嬢たちだ。匿名という事で安心させ、彼女らに言わせたというところだろう。


 つまりは、格好の餌という事だ。俺は、視線でサルバドールに合図を出す。


「―――と、こんなところか。どうかな? まだ君の後ろで怯えたふりをする、性根の腐った女狐を庇うつもりか?」


 俺は挑発の言葉を受けて、貴族の誰もが身に着けている白手袋を外し、サルバドールに、ひいては四人に投げつけた。


 観衆たちが息をのむ。ホール全体が静まり返る。


「……ロレンシウス……? これは、一体何の真似だ」


 サルバドールは僅かに震えた声で言った。お前も役者だよ。後ろの三人も同様に、目を剥いて俺の投げつけた手袋を凝視している。


「何の真似だと……? 見たら分かるだろうが」


 俺は、犬歯を剥きだして唸った。


「決闘だ。貴様ら四人は、我が婚約者の名誉を汚し、侮辱した。その罪、その口、裁判にかけるまでもない。この手で黙らせてやろう」


 強い歩調で、俺は一歩を踏み出した。四人は揃って一歩ずつ気圧され後退する。俺が剣の柄を握るのを見て、誰ともなく小さな悲鳴が上がった。


 そこで「はいはーい。じゃあここからは、私が預かります」と出てくるものがいる。


 ルーデル。弟が、拍手を打ってこの場の注目を一身に集めた。


「こんなダンスホールで、王太子の兄上、大貴族の皆さんが抜刀騒ぎなんて、洒落になってません。そのため、今回は無関係で中立の私が預かります」


「おっ、おい! お前とて王族だろうが、ルーデル! お前に任せたらロレンシウスが有利になるだろ!」


 抗議したのはアルヴァーロだ。流石全体視に優れた指揮の才能を持っているだけあって、不利な状況になりうる要素を見逃さない。


 だが、ルーデルはそれを却下した。


「そもそも兄上は皆さん全員と一人でやり合うと言っているのです。その前提で『互角にやろう』だなんて、間違っていると思いませんか? あと私は、兄上のこと好きですけどムカつくので、ひいきなんかしませんよ」


 ルーデルお前、俺のことをそんな風に思ってたのか……。俺もお前の事全く同じ認識でいるわ。好きだけどムカつく。分かる。


「ということで、まず兄上と四人は離れてください。ではそうですね……。この決闘を預かったものとして、宣言します。本決闘は明日、午前十時より開催とさせていただきます」


 これ以上、ルーデルの仕切りを遮るものはいなかった。


「試合形式は、一対一の連戦。先にケガを負ったものの敗北とします。兄上が勝利した場合、四人はサーニャに行った侮辱の撤回及び謝罪、そしてふさわしい罰を。四人が勝った場合は、同一価値のものを要求することが出来ます。何を望みますか?」


「……ならば、ロレンシウスとアレクサンドラの接触禁止を望もう」


 俺とサーニャの仲の良さを目の当たりにしていただろう面々が、動揺にどよめいた。マジで? そんな重いところに落ち着けんの? という目で見ると、だってお前は勝つんだろう? と言いたげな視線が返ってくる。サルバドール、お前……。


「分かりました。では、四人が勝ったら兄上とサーニャの接触禁止を。両者、それで構いませんね?」


 戸惑いがちにそれぞれ首肯する四人。俺も同様に「異論ない」と返答する。


「では、以上をもって、本決闘は私、ルーデル・ベガ・ブリタニア預かりとします。両者、決闘に先んじて行動に出ることのないよう。では、皆様お騒がせしました。引き続きパーティをお楽しみください」


 緊張が解け、周囲にざわめきが戻った。先ほどまでとは打って変わって、焦燥と熱気を孕んだ雰囲気が会場を支配する。


 俺はひとしきり四人をにらみつけ、それからサーニャの手を取った。寸前で、サルバドールがウィンクをし、リーナさんが小さく舌を出す。上手くいったねの合図だ。俺たちは僅かに頷いて、二人で奥へと引っ込んでいく。


「ここからが、正念場だな」


「はい。申し訳ございません。ロレンシウス様ばかりに、ご負担を……」


「何、もとはと言えば俺から言い出したことだ。お前が気にする必要はない」


 顔を伏せるサーニャの手を、少しだけ強く握った。サーニャはそれでも顔を晴らしてはくれなかったが、「はい……どうか、ご武運を」と祈ってくれる。


 明日より行われる決闘参加者で、仕込み人は俺とサルバドールのみ。残る三人。ディル、アルヴァーロ、そしてレオナルドは一人としてこの決闘が仕組まれているなどとは思っていない。


 彼らは巻き込まれた形になるが―――元々、俺の変化にうっぷんをため込んでいた面々だ。彼らの受け皿になれれば、という意図もある。


 ともあれ、勝負は明日に決まった。あとは、為すべきことを為すのみだ。


 サーニャ。


「お前が幸せに笑ってくれていれば、それでいい」


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