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23話 俺様王子が悪役令嬢とマジで復縁してるじゃん 上

 布石を打ち終えた週末、俺は燕尾服をキメて学園の中でも大きな屋敷を訪れていた。ミッドラン公爵家の有する、学園内にある屋敷。公爵家のみに許された特権領域だ。


 何故そんな場所に来ているかと言えば、それはサーニャの誕生日であるから。


 俺の誕生日に数多くの面々が集まったように、サーニャも公爵家の令嬢。仲の良しあしに関わらず、彼女の誕生日は大々的に祝われる。


 そしてここは、俺たちが自演をする会場と定めた、一つ目の場所でもあった。


「さぁ……気を引き締めていかないとな」


 俺は会場に入る。さぁ、すべきことをこなしていこう。






 パーティはすでに始まっていて、すでに開催の挨拶は済んでいるようだった。


 本当ならその時点で見ていたかったのだが、基本的に自分よりも下の身分の人間が開催したパーティは、開催の挨拶には遅れていくもの、という慣例がある。つまり王族は常に遅れて登場することになるのだ。うざい。


 しかしサーニャも「適切ではありません」と首を横に振ったので、俺は渋々ながら重役参加だ。俺が現れると、誰もが道を譲るのは少し気分がいいが、それはさておき。


 パーティの流れとしては、すでにプレゼントの贈呈タイムに突入しているらしかった。奥に人だかりが出来ていて、それぞれがサーニャにプレゼントを送っている、と言う状況だ。


 いくら友達がいないとて、サーニャも公爵令嬢。こういう場面でサーニャにプレゼントを贈らない、という選択肢は、親に直接迷惑をかけることになるため、侯爵以下の貴族子女にはありえない。


 そのため椅子に座って、プレゼントを受け取っては後ろの使用人に渡す作業者と化しているサーニャがそこに居た。身内が一人もいないので、氷の表情で淡々と礼を言っては受け取り受け渡している。ロボじゃん。


 ま、助け舟ではないが、俺も行こうか。


「サーニャ」


「あ……! ロレンシウス様っ」


 表情をほころばせて、サーニャは俺を出迎えてくれた。それだけのことで、俺は嬉しくなる。


「誕生日おめでとう、サーニャ。また一つ大人になったな」


 俺の祝福に、サーニャはクスッと笑って言う。


「ありがとうございます。まるでお父様のようなことをおっしゃいますね、ロレンシウス様は」


「……忘れてくれ」


「えっ」


 いや、前世と今世合わせるとさ、ほら、合算年齢がね……。地味にダメージを負ってしまった。


「そら、プレゼントだ。前にも送ったが、今回のもすごいぞ」


「何が入っているんですか?」


「開けてのお楽しみだ」


「ふふっ、はい。楽しみにしています」


 このプレゼントだけ、サーニャは使用人に渡さず抱えたままだった。俺は「ではまた後でな」と告げて、一旦その場を去る。


 さて、とここで一旦、パーティの流れを確認しておこう。


 王族に近い上位の貴族であるサーニャの誕生日パーティーは、一連の流れに沿って行う必要がある。開催の挨拶、プレゼント贈呈タイム、ダンスなど自由に楽しむ時間、そして閉会の挨拶だ。


 今はプレゼント贈呈タイムだった。使用人が参加者のチェックリストでざっと全員分のプレゼントを受け取ったな、と確認できたタイミングで、流れで自由時間に移行する。


 ちなみに、すでにプレゼントを贈った面々はとっくに自由に過ごしていた。食事を楽しむなり、歓談するなり。ただしダンスのみ、プレゼントタイムが終わった後で行われる。


「兄上、遅かったですね」


 話しかけてきたのは弟のルーデルだ。


「遅かったとは何だ。これでも王族に許されるギリギリを攻めたつもりだったが」


「え? ああ、慣例のことですか。別にあんなの気にしなくっていいと思いますが。私は普通に挨拶見てましたし」


 は? 何だそれ。俺も見たかったんだが。


「損した気分だ」


「あはは。本当にサーニャにぞっこんですね兄上。別に、サーニャだって兄上の前でもなきゃ緊張なんてしませんよ。そつなく挨拶するだけでしたし、いいのでは?」


「そう……なのか?」


「むしろ、兄上が見てたら緊張してしまうから来ないで欲しい、ってとこじゃないですか」


 俺は目を閉ざして眉間を押さえた。しんどいわ。その可愛さはしんどいってサーニャ。


 と、俺が静かに限界化していると、「ロレンシウス様!」と声をかけてくるものがもう一人。


「ああ、リーナさんか」


「はい! リーナさんです」元気だなぁリーナさん。


「リーナにさん付けするの兄上だけなんですけど、どういう心境なんですかそれ」


「尊敬」


「そ、そうですか……」


 リーナさんは「照れちゃいます」なんて言うが、割と平然と受け止めている感が強い。流石リーナさん。パネェっす。


 先日ずっとサーニャとデートした甲斐があって、俺とリーナが揃うだけで周囲の目が集まるのが分かった。王族と言うのもあってジロジロとみられることはないが、それでも様子を伺われていると肌で感じる。


「今日はいよいよですね! 私、ワクワクしてきちゃいます―――っと。こんな仲睦まじく話してたらダメですね。これも布石の内なんですから」


 ごほん、とリーナさんは咳払いをして、仕切り直しの構えだ。俯き、深呼吸。そうして上に向けられた顔には、心底苦しそうな涙が浮かんでいた。


 すっげ。


「ロレンシウス様……本当に私から心が離れてしまったのですか……?」


 少し大きめの声が響く。これをきっかけに、周囲から明確に注目が集まった。役者だよリーナさん。あなたを敵に回さなくて、本当に良かった。


「くどい。その話は、もう終わったはずだ」


「待ってください! 正妃などと高望みは致しません。ただ私は、あなたの、あなたの隣にいたいだけなのです」


 ポロポロと涙をこぼしながら俺に縋りつくリーナさんを、俺はそっと押しのける。


「―――……リーナ。お前を愛し通すことが出来ず、すまなかった」


 俺はそのまま、彼女から離れていった。ルーデルがフォローの体で、リーナを慰める役回りに回る。リーナは俺の歩き去る背後で、声もなく崩れ落ちていた。


 ……いやマジですげぇよリーナさん。本当に尊敬する。


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