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20話 俺様王子が陰謀を計画してるって本当ですか?

 俺は最近、思うことがある。


 内容は言うまでもなくサーニャのことなのだが、最近サーニャの評判の悪さがぶり返しているのではないか、という疑問を抱いたのだ。


 きっかけは先日、サーニャの陰口を聞いてしまったことに起因する。根も葉もないうわさ、というものが蔓延る瞬間を目撃してしまって、俺も思うところがあったのだ。


「ということで、今回はサーニャの悪評を根絶しよう会議にお集まりいただき、大変ありがとうございます。はい拍手!」


「わー!」と拍手喝采のリーナ。


「これ系、私必ず呼ばれることになってません?」とやる気のなさそうなルーデル。


「何でこれボクも呼ばれたんだ……?」と眉を顰めるサルバドール。


「……?」そして疑惑の表情で俺のすぐそばに座るサーニャである。


 カオス。


 例のごとくルーデルに合わせて屋外だ。その辺を歩いていたサルバドールの腕をわしづかみにしてここまで連れてきて、メンツは完成である。


「ちなみに人選は『サーニャについて親身になってくれそうな人』もしくは『サーニャのコミュニケーション能力に確かな不安を覚える人』、及び『本人』で構成されているぞ」


「本人……」とサーニャはすっと視線を下げる。


 一方、反論があるらしく立ち上がるものが一人。土と色男のサルバドールくんだ。


「ぐっ。ロレンシウス! お前が最初から最後まで巻き込んだだけだろう!」


「だがサルバドール。将来国母となる者がこのコミュニケーション能力でいいのか? 外交の場なんて絶対出せないぞ。見ろこの困惑顔を。状況がろくに理解できていないだろう」


「や、やめてください。頬を挟んで変な顔にさせようとするのはやめてください」


「……まずいかもしれないな……」


「サルバドール!?」


 サーニャは驚愕の顔で見るが、サルバドールの意見は翻らない。むしろ深める結果となりつつある。


 と、そこでルーデルが手を挙げた。「はいルーデル」と俺は指名する。


「以前の会議で結論出てませんか? つまり、サーニャを学園のマスコットにすることで、評判の回復を目指す、って奴です」


「君たちそんな結論出してたのか?」とサルバドール。


「私もそれで良いものと思っていたのですが、それではいけなかったのでしょうか」


 リーナさんからも首を傾げられたので、俺は経緯を説明する。つまり、陰口が復活していたこと。そしてサーニャのコミュ力が低すぎること。


「要するに、マスコット計画を進めるにはサーニャは自然体過ぎたのだな。当初は時間がある想定だったから、とりあえずそこから直していけばいい、と考えていた。だが、状況を見るにそこまで時間がないらしい、と分かったのだ」


「なるほど……納得です」


 リーナさんはうんうんと頷く。そこでサーニャが言った。


「その、殿下。前に言いませんでしたか? この手の問題は、私一人で解決します。余計な手出しは無用です」


「却下します。さてでは早速議題に入って行こうか」


 俺に即決で意見を退けられて、ショックそうな顔になって項垂れるサーニャ。リーナが近寄ってよしよししている。この二人の絡みもいいよな。癒される。


「今回の要件は、『迅速に効果があること』『上からの強制力でなく、サーニャが将来の国母として認められること』。この二つを課題としたい」


「中々困難な課題を決めたね。ボクには思いつかないが」


「サルバ兄さんは、そもそも考える気がないだけでは?」


「そう言わないでおくれよ、ルーデル。文句を言わずここに座っているだけでいいじゃないか」


 男二人がじゃれ合うな気持ち悪い。


 そこで頼りになるリーナさんが「問題を小分けにしませんか?」と提案してくる。確実だなぁこの人も。


「『迅速な効果』、と『強制力でなく~』、というのは、一見矛盾して見えます。ですから、そのまま考えようとすると分からなくなるかと。私はまず『サーニャ様が将来の国母として認められる』ために、何が必要なのかを細かく定義したいと思うのですが」


 マジで頭いいねリーナさん。ルーデルはかなり優秀なので「まぁそんなとこですかね」とか言ってるが、サルバドールももちろんサーニャも目をぱちぱちしている。


「で、私としてはサーニャ様が周囲に認められるために必要な条件として、仮定で『私へのいじめの主犯格であったという誤解の解除』『ロレンシウス様がサーニャ様を明確に愛しているという事実の名言』『サーニャ様への応援、忠誠心の醸成』を提案したいです」


「ふむ。妥当だな。勘違いを排除し、俺がサーニャへの愛を叫び、そしてサーニャの可愛さを知らしめるわけだ」


「……」


 サーニャは無言で照れている。リーナはそれを見てほっこりしている。


 そこでルーデルが挙手をした。俺は手で先を促す。


「イジメの主犯格である、っていう誤解の解除はすでに行っていますよ。兄上がサーニャのいじめを行っていた令嬢たちに送った手紙でその辺りは広まってます。でも、それでもサーニャを良く思わない人間が『信じたがっていない』って言うのが面倒なところですかね」


「信じたがらない……か。厄介だね。諸悪の根源だ。子猫ちゃんにもよくいるよ。『私はバカだから、授業のことはよく分かんなくていいの』『女の子だからバカでいいもん』『可愛いお嫁さんになって、優しい旦那様に愛されれば』」


 サルバドールの言葉には、直に触れた者特有の生々しさがあった。サーニャはそれに冷たい顔になり、リーナも珍しくすました顔になる。


「となると、正攻法ではダメだな。何か仕掛けが必要だ。まさか『神の過ち』を指摘するために、学園に『血の雨』を降らす訳にも行くまい」


「兄上たまに怖いですよね……」


「手段として成立する最も過激な案を一旦上げておくのは、議論をスムーズに進める上で効果的だ。そこから『それは過激すぎるから、いいところに落ち着けよう』と全会一致が取れる」


「ボクも酷薄な自覚があるが、ロレンシウスほどじゃないと思うね」


 あんまり褒めるな馬鹿ども。女性陣が怯える。


「となれば、どうするか。もう少し穏便な形を取るならば」


「前々から言ってるじゃないですか。この学園内においては、兄上以上の権力者なんていません。兄上が大号令を出せば終わりです。手紙なんてこそこそした方法ではなく、『次に余計なことを言ったやつから潰していく』とみんなの前で言うだけです」


「それは下手をすれば血の雨が降る案だぞ、ルーデル」


「……あ、確かにそうか。すいません、浅慮でした」


 難しいな、と思案を始めるルーデル。そこで、サーニャがおずおずと手を挙げた。


「議論そのものを不必要とする意見は即時却下するぞ」


「それくらい私にも分かります。―――血の雨のという比喩は正直怖いのですが、一つそれを聞いて気付いたと言いますか」


 サーニャは、躊躇いがちに続ける。


「要は、血の雨が降ったように見えることが重要なのかなと思うのですが、どうでしょうか? つまり、本当に血の雨が降っている必要はない、と」


「「「「……」」」」


 サーニャ以外の俺たち四人は黙りこくる。それから、言った。


「サーニャ、お前もしかして天才か?」


「サーニャ様、私は信じてましたよ! サーニャ様はやればできる子だって!」


「いや、核心を突かれましたね。それで行きませんか兄上。方法はいくらでもありますよ」


「アレクサンドラ。君のことを侮った事を詫びよう。ボクらもこの会議も要らなかったね」


 なら、と会議は加速していく。


「偽の血の雨が降ればいい。それを見れば『宗教家ども』も怯えて、『神は正しい』なんて言えなくなるさ」


「信じさせる、ということが大事なのだな。となれば、演出が必要だ」


「演出! いいですね! ドラマティックにいきましょう」


「また兄上お得意の劇場型ですか? 今度は誰を巻き込む気ですか」


「全員だ。全員巻き込もう。学園の全員を証人とする」


「つまりは、婚約破棄の焼き直しってことかい。真逆のことを、同じやり方でやる」


「キャー! 楽しみになってきました! ってことはもちろん?」


「もちろんだ。俺は愛を叫び、そしてサーニャの可愛さを全校に知らしめよう」


「あの……勘弁してもらえませんか……?」


「ダメだ」「ダメです」


「トホホ……」


「ならば、必要なのは敵だ。演出には分かりやすさがいる。敵を打倒しなければならない」


「誰を倒すというんですか兄上」


「ちょうどいいのが四人くらいいるだろう」


「えっ、勘弁してくれないか?」


「ダメだ」


「トホホ……」


 議論は過熱に加熱を重ね、ものすごい勢いで煮詰まっていく。昼頃始めたのに、全てが決まった時にはもう夕暮れも終わり、夕闇に差し掛かっていた。


 俺は会議の最後に、号令を出す。


「では諸君。この度は集まっていただき、誠に感謝する。さぁ、プロパガンダの時間だ。盛大な自作自演の開始だ。盛り上がっていこうじゃないか」


 おおー! と全員の声が上がる。そうして、学園全員を欺く大自演が始まった。


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