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11話 逆ハーメンバーくん調子乗って悪役令嬢脅かしたら……すぞ?

 もしかしたら、もう破滅の危機はないんじゃないか?


 俺は小テストを悠々解き終えて物思いにふけっている中、ハッとそのことに気がついてしまった。


 事実、婚約破棄の文脈はとうに破綻している。リーナはサーニャの可愛さ引き出し講座を受けてメロメロだし、隣国の王の歓迎会とやらもちょっと前に終わったとか何とか。


 となると、俺はもう破滅の危機におびえる必要はないのかもしれない。ないよな? 多分ないはず。きっとない! 今俺が決めた!


 ということで、テストから解放された俺は、さてサーニャと戯れるぞ、とルンルン気分で歩いているところ、妙な場面に出くわしてしまった。


「おい、面貸せよ」


「……一体、何の用ですか」


 そこに居たのは、逆立つ赤毛の少年と、我が愛しのツンデレ悪役令嬢ことサーニャだった。俺は何だ、と思い少年を凝視し、その正体を看破する。


 サーニャに問いかける少年。彼はアルヴァーロ、アルヴァーロ・ヴァノンだ。ブリタニア軍の大将にして侯爵家であるヴァノン侯爵の息子。


 例のごとく、逆ハーメンバーの一人である。得意属性は火。火のアルヴァーロくんだ。髪も火みたいな感じの形してる。分かりやすい。


 そんな彼がサーニャに詰め寄っているとなれば、俺は眉をひそめざるを得ないのが実情だ。だが、アルヴァーロは友人として接する分にはいい奴なので、一旦見に回る。回りつつ、何かあったら瞬時に駆け付けて切り捨てられる体勢を取る。冷静じゃないな俺。


「だから、面を貸せってんだ。三度目はねぇぞ」


「……分かりました。お話を聞きましょう」


 あくまでも氷の仮面を外さずに、サーニャは返答した。ロングスカートの下からのぞく足が僅かに震えている。そろそろ切り捨てた方がいいかな。まだ我慢した方がいいかな。


 彼らが移動したので、俺も移動の構えだ。光魔法で「眼に飛び込む光よ、我が姿を誰の目にも映すな」と姿を消し、抜刀して常にアルの首筋に剣を突き付けながらついて行く。


「……な、何だ……? ものすげぇ殺気を感じる……」


 ある程度武術に覚えがあるアルだが、婚約破棄メイン馬鹿王子の俺に比べれば一段劣る。しかも俺は前世の記憶の知識を活用して、光魔法をこの世界の人間では思いつかない運用をする。生半可な奴には負けないつもりだ。


 つまりアル。お前は一つ失言をしただけで、首と胴体が泣き別れすることをよく覚悟して行動しろ。いいな?


「な、何を言っているのですか?」


「い、いや……。死、死ぬ……? この俺が……? 何だ、これは。死が、死がとても近い……」


 戦闘センス抜群◎のアルは、俺の殺気を強く感じ取って戦慄しながらも正気を保とうとしている。震えがサーニャのそれを超えたので、ひとまずこれ以上の殺気を向けるのはやめることにした。うん! これで公平だね!


「お、俺はまだるっこしいことは嫌いだ。だから、率直に聞かせてもらう。―――魔」


 魔女とかクソみてぇなこと抜かしたら殺すぞ。


「失礼。口が滑りました。アレクサンドラ。お前、ロレンシウスに何をした?」


 謝罪は顔色を真っ白にして、だがそれでも本題に切り出すときは震えすら見せず、アルはサーニャに質問してのけた。逞しい奴だ。俺は今、リーナさん以外の面々なら全員気絶するほどの殺気を放っているというのに。


「何を……とは何ですか。私は、ロレンシウス様に特別何かをした覚えがありません」


「なっ、てめ」


 ものを叩いたりして恫喝めいたことをしたら殺す。


「……お、お前、よくも白々しくそんなことを言えたな」


 振るおうとした手は寸前でゆっくりになり、壁をトンと軽く叩くだけに終わった。サーニャはその動きに首を傾げつつ、「白々しいとは何ですか。私はただ、事実を述べているだけです」と真っ向からアルを見つめる。


「……」


 サーニャ。そんな奴見つめるの時間の無駄じゃないか? 俺がこいつ切り捨てたら俺のこと見つめてくれるか? ダメ? 分かった意味もなくアルのこと殺すのやめる……。


 という俺のションボリした気持ちは誰にも気づかれず、話は進む。


「だ、だってよ。あの変わりようだぞ? リーナとも別れたと聞いた。そのせいでかリーナもよく分からない感じになってるし……。何故かリーナの部屋にお前の絵が飾られてるし」


「それは本当に私も分かりません。何でそんなことになってるんですか」


 え、サーニャの絵なんてあんの? 俺も欲しい。


「俺は、仲のいいメンツでリーナを囲っているのが好きだったんだ。5股だなんて理解してる。俺とキスをした口で、リーナが他の奴とキスしているのも分かってる。それでも、仲間が一人減るのは、何か嫌なんだよ」


 熱い奴である。俺は恋人を誰かと共有とか絶対ヤダ。サーニャは誰にも渡さない。独占欲◎。


「そ、それはものすごい覚悟ですが……、それでも、私は知りません。……むしろ、私が教えて欲しいくらいです。何ですかあの豹変っぷりは」


「あの豹変っぷりって、何だ。お前何を隠してる」


 言って、アルはサーニャに詰め寄る。あ、それ以上一歩でも踏み出したらチョンパな? よしよし止まったな。それでいい。


 問い詰められ、サーニャは「え、で、ですから……」と顔を赤くし始める。


「二人っきりになると、ず、ずっと見つめてくるところとか。こっ、ことっ、事ある、ごとに、愛を囁いてくる、ところ、とか。私が意地張ってるのを全部見通して、上手く解きほぐしてくれるところ、とか。素直になれない私を素直になれるように仕向けて、『やっと笑ったな』とか、言う、ところ、とか……!」


 と、とにかくたくさんです! と〆るサーニャ。本当に人のこと良く見てるな。俺の意図まで見抜いているとは。ちょっと侮っていたかもしれない。


 一方アルはと言うと。


「……砂糖吐くかと思った」


 いい表現だ。今日は殺さないでおいてやろう。


「じゃ、じゃあ、何だ? アレクサンドラも分からない原因で、あの俺様王子はアレだけお前にぞっこんになっちまったって言うのか?」


「そ、そうです! 私だって、私だって困っているのです。その原因は何だ、と問い詰められても、私にも分かりません。あんな、あんな……」


 言いながら、かつて俺がした様々なアプローチを思い出して、両手を頬に当てながら赤面し俯いてしまうサーニャ。ひたすらに可愛い。持ち帰って食べてしまいたい。熊のように。


「……困ってるん、だな?」


 そこで、アルは妙なことを言い始めた。


「え? は、はい……。な、何ですか?」


「何、困っているなら、目的は同じだってことだ。元のロレンシウスがいい。そういう事だろ?」


 それサーニャに言われたら俺マジ泣きしちゃうかもしれん。


「え、あ、え? あの……?」


「なぁ、なら協力しないか? 俺は前のロレンシウスがいい。お前も同じ。なら、一緒に原因を探るのがいい。違うか? そうすれば、きっと奴に何があって、それをどうすれば解消できるのかが分かる」


「えっ、いや、その」


「よし! じゃあそういう事でな! よろしく頼むぞ!」


 勝手に勝手な約束をして、アルは走り去っていった。勝手な奴だ。次会ったら殺そう。


 そんなわけで、サーニャはぽつんと一人置いてけぼりにされてしまう。承諾もしていない約束を押しつけられて。


 その内容を頭の中で繰り返すように、声もなく彼女は口を動かした。元のロレンシウス様。そして、複雑そうな顔でぽつり口にする。


「……私は、今の方がいいです」


 俺は死んだ。サーニャが可愛すぎたことによる悶死である。


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