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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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5話 出発準備

 食堂でアスカと朝食を食べていると、シキさんに声をかけられた。



「街には午前中にご案内でよろしいですか?」


「はい、お願いします」


「では、支度が整ったらお部屋にお迎えにあがります」




 アスカに新しい服を着せた。先日、シキさんと買い物に行ったときに購入したものだ。



「この服はアスカが気に入って買ってもらったのか?」


「うん、2つ買ってもらった」


「アスカ、よく似合っているよ」


「お父様、ありがとう」



 嬉しそうにニコニコしているアスカを見ていると、昨日魔獣と戦ったのが嘘のように思える。そもそもこの討伐がもう少し早ければ、アスカは俺と暮らすこともなかったのだが……難しい顔をしていた俺の袖をくいくい引っ張るアスカ。



「お父様、どこか痛いの?」


「いや、どこも痛くないよ。ちょっと考え事をしていただけだ」




 部屋がノックされる。ドアを開けるとシキさんが立っていた。俺とアスカが廊下に出る。シキさんはアスカの新しい洋服を見てにっこり微笑む。



「アスカさん、お父様に着せてもらったの?」


「うん、でもお父様は下手くそ。シキさんはお上手」


「どうしてお父様は下手なの?」


「お父様だと腕やお顔が痛いの!」


「シキさんに服の着せ方を習った方が良いようです……」


「……(笑)」




 城を出てしばらく歩くと、街の中心を表す池があった。池の周りは広場のようになっていて、それを取り囲むように店が並ぶ。城下町としては一般的な区画割がされている。



「グリムさん、今日はどのような物をご所望ですか?」


「携帯食と水筒とアスカ用の外套です」


「それなら万屋さんで揃います。子供用の外套があるかは不明なので行って聞いてみましょう」


「ずいぶんとお詳しいですね」


「それはもう、父の旅支度を整えるのに協力させられていましたから!」



 確かに言われるとおりです(笑)




 買い物はあっさり済んでしまった。せっかく街に出たので、領兵団の詰め所へ寄ることにした。明朝出発することを伝えるためだ。



「シキさんも領兵団の詰め所には行かれていたのでしょ?」


「はい、父の食事や着替えを持って行くのが、子供の頃の私の仕事でした」


「ウコワ兵団長は現場での指揮も見事でしたし、皆と共に戦っておられました。立派な領兵団長だと思います」


「ありがとうございます。父は私の誇りです。グリムさんもアスカさんが誇れるお父様になってくださいね」




 詰め所に着いた。一緒に戦ったこともあり、もうすっかり仲間扱いをしてもらえる。たまたまウコワ兵団長も外で指示を出されていたので、呼び出してもらう手間が省けた。



「ウコワ兵団長、少々お時間よろしいでしょうか?」


「おおっ、グリム殿、皆お揃いでどうしたのかな?」


「明朝出発するので、ご挨拶に伺いました」


「昨日遠征したばかりで、もう明日には出発か!しばらくはのんびりしていけばよいではないか?」


「ありがとうございます。ただ、私は国王陛下の任務中でもありますので、先を急がせていただきます」


「なるほど、それでは仕方がないな。グリム殿に助っ人にきていただき助かった。兵の見本になるほどの素晴らしい戦いぶりだった。心から感謝している」


「こちらこそ、ウコワ兵団長をはじめ、シキさんには娘までお世話になり、感謝しております。領兵団の皆さまにもよろしくお伝えください」


「達者でな、アスカも元気で良い子にな」



 こうして領兵団との挨拶を済ませた。城へ戻るとしよう。




 城へ戻ると昼食の時間だった。そのまま食堂へ向かい3人で食事をすることとなった。俺はアスカと2人分のトレイを持ったので、シキさんがアスカを連れて行ってくれた。アスカはすっかりシキさんに懐いている。明日からしばらくは寂しい思いをするかな?


 3人で食事をしていると、シキさんがアスカを褒めていた。



「アスカさんは食事の仕方がとてもきれいです。几帳面な性格で、手先も器用だと思いますよ」


「将来のために針仕事でも教えた方がいいでしょうか?」


「どうでしょう?お父様の強さに憧れてもいるようですし。いろいろ体験させて好きな道を選ばせてあげてください」


「剣の道ならいくらでも手ほどきできるのですが、女性のこととなるとからっきしで……」


「悪くないと思いますよ、お父様から剣の道の手ほどきをうけるのも。将来、剣の道で生きていくかはアスカさんが考えることですし」


「そうですね、まずは自分が教えられることから伝えてやります」



 アスカに剣の手ほどきか……まずは子供用の木剣でも買ってやって、朝の訓練に誘ってみるか!




 食事を終えたところで領主様からお呼びがあった。そのまま3人で来るようにとのことだ。執務室に入ると、ソファーをすすめられた。3人でソファーに腰かける。



「今回の魔獣討伐では世話になった。グリムがあっという間に敵の大将を討ち取ったことで、被害がほとんど出ずに作戦が完了できたと報告を受けた。礼を申す」


「もったいないお言葉です。今回の作戦は3領地が力を合わせた結果で、国王陛下にも王都の近衛兵団にも良い前例として報告しておきます」


「それは助かる。ところでもう明朝には出発と聞いた。急ぐ必要があるのか?」


「はい、国王陛下の任務中ですので、先を急ぎたいと思っております」


「国王陛下の任務中では致し方無い。ただ、グリムの功績に何もこたえてやれないな……シキ、せめてお主の得意な料理で2人をもてなして送り出してくれ」


「かしこまりました」


「では、グリム、アスカ達者でな。近くへ来たらまた寄ってくれ」


「ありがとうございます」



 こうして領主様とのご挨拶も済ませ、もうやり残したことはなくなった。




「これからグリムさんとアスカさんは2人でのんびりお風呂に行ってください。私は夕飯の準備とお2人の旅の準備にかかります。夕飯は3人でお部屋でとります」



 シキさんの仕切りに圧倒されながら、アスカと2人でお風呂に向かった。アスカと風呂に入るのは初めてだった。風呂に入り、体と頭を洗ってやり、お湯をザバーっとかける。きっとシキさんのようにはやれていないだろう。だが、アスカは文句も言わなかった。2人が体を洗い終えて、並んで湯船に浸かる。



「アスカ、父の洗い方は嫌か?」


「お父様は下手くそ。シキさんはお上手」


「あはは、またそれか。すまないな、父は何をしても下手くそで」


「お父様は一所懸命やって下手くそ。だから我慢する」


「そうか、アスカが娘でなかったら、父は父親失格だったな」


「いいの、お父様は強いのですから。お父様が強いから、昨日もみんなが助かったと、シキさんが教えてくれました」



 アスカとなら王都に戻ってもやっていけるか?自分にもこれからの生活がどうなるかなど想像もできないのだが……




 夕飯は部屋で3人で食べた。シキさんが郷土料理を用意してくれた。俺にとっては珍しい料理だが、アスカにとっては最後の故郷の味になるかもしれない……

 食事を済ませてところでシキさんに伝える。



「明朝は日の出と共に出発します。ですから見送りは結構です。親子共々大変お世話になりました」


「こちらこそ、父をお助けくださり、感謝をしております。明朝は私だけでもお見送りをさせてください。アスカさんにもお別れを伝えたいですし」



 こうして夕食が終わり、アスカと2人で早めに就寝となった。




 翌朝、アスカと2人でこっそり城の外へ向かう。しかしシキさんは待っていてくれた。



「お荷物になりますけど、朝食と夕食のお弁当です。道中で食べてください」


「ありがとうございます。シキさんには何から何まで本当にお世話になり、感謝しております」


「ぜひ、またお2人でお越しくださいね。アスカさんの成長を楽しみにしておりますので」


「シキさん、バイバイ」


「アスカさんも元気で。お父様を助けてあげてくださいね」



 こうして俺とアスカはジウト領を後にした……


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