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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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3話 合同作戦

 領主様とお話しした翌朝、朝食を取り支度を済ませ、ビーゼ村の近衛兵団に向けて馬を歩かせ始める。ビーゼ村の人々とは別れを伝えてあるので、今から戻るのは複雑な気分でもある。近衛兵団の出張所は中心地からは少し外れているので、村人に会うことはないと思うが……


 近衛兵団の出張所には夕方に着いた。馬を守衛に預け、ラーク所長とメルク副所長との面会を依頼する。幸い2人とも帰宅しておらず、すぐに所長室で会えることとなった。所長室でお2人と挨拶を交わし、ジウト領主様の手紙をお渡しする。ラーク所長は作戦への参加を快諾された。近衛兵団は森の北西から探索を始めることとなった。そしてラーク所長から提案をされる。



「グリム、お主が今回の作戦の総指揮官を務めろ!」


「ラーク所長、いくら何でも私には、まだ、荷が重いです」


「3領地の者でない方が、いろいろと都合が良いのだ。引き受けてくれ、グリム」


「分かりました。謹んでお受けいたします。ただラーク所長、1つお願いがあります。私はウラク領にもウラク領主様の城にも行ったことがありません。地図と目的地までの道順を教えていただきたいです」


「メルク副所長、グリムと同行してくれ。ウラク領兵団との事前打ち合わせもできるだろう」


「了解しました。打ち合わせをしても、夕方には戻れると思いますので、作戦にも支障はないでしょう」


「では、明日は2人とも、よろしく頼む」



 打ち合わせを終え、ラーク所長は帰宅されたが、メルク副所長は明朝早くの出発でもあり、宿直室に俺と泊まることとなった。




 翌朝は日の出とともに出発した。ウラク領からジウト領までの距離の方が長いらしく、俺を気遣ってくれてのことだ。道中は順調で、予定通りウラク領主の城へ着いた。メルク副所長は守衛と顔見知りらしく、軽い会釈で城門内へ通してくれた。城の入り口ではカナメ兵団長がわざわざ出迎えてくれた。どうやらジウト領から俺が向かうと連絡が先に届いていたようだ。


 3人は会議室のような部屋に通された。部屋には大きくて詳細な地図が張られており、カナメ兵団長の今回の作戦への本気度がうかがえる。挨拶もそこそこに、作戦の具体的な内容を詰める。ウラク領兵団は東側から探索を開始する。信号弾の取り扱いと俺が総指揮官を務めることも了承してくれた。さらにカナメ兵団長は有益な情報を提供してくれた。魔獣を束ねる敵の情報だ。今までに王国内では報告の無い魔獣で、突然変異が予想されているようだ。体は2メートルを優に超えて、さらに体に不釣り合いなほどの大剣を振り回して攻撃してくるらしい。ウラク領兵団でも1度だけの戦闘のようだが、死者2名、負傷者5名と大惨事だったらしい。この敵には、発見した兵団の強者が対峙し攻撃よりも防御優先で時間を稼ぎ、他の兵団の強者が揃ったところで攻撃を行うこととした。また、負傷者は各自自領へ連れ帰るが、緊急を要する場合は、最も近い領地へ運ぶことも取り決めた。また、作戦開始は明朝8時とし、青い信号弾を上げた後行動を開始する。


 有意義な打ち合わせが終わったところで、領主様から昼食をとりながらの報告を求められる。3人は食堂へ向かった。領主様はすでに席について我々を待っていた。急ぎ我々も席について、食事が始まる。領主様の話しでは2週間ほど前にウラク領内の村が壊滅したらしい。やはり領地境の森が住みかとにらんでいるようだが、他領に踏み入る訳にもいかず困っていたようだ。よって今回の申し出には感謝をされた。食事が終わると領主様の御前から下がり、各領地へ戻ることとなる。3人は固く手を握り合い、明日の健闘を称えあって解散した。




 俺はジウト領に戻ると、すぐに領兵団の詰め所に向かい、ウコワ兵団長と打ち合わせをすることにした。ウコワ兵団長と顔を合わせたところで、明朝8時から作戦開始であることと、敵の大将が相当手強いことを伝えた。そして明日の作戦に参加する兵たちにも伝えるように指示していた。ウコワ兵団長は俺のことも気遣ってくれて、領主様への報告を引き受けてくれて、俺には早く休むように言ってくれた。お言葉に甘えることにした。俺は退室の礼をして、客間に向かった。

 客間へ着くと、すぐにシキさんとアスカも入ってきた。シキさんは食事の前にお風呂へと勧めてくれたので、言われたとおりに風呂を先にいただく。旅の疲れがとれていく心地よさだった。客間へ戻ると、シキさんが食事の支度をしていてくれた。せっかくなのでシキさんもご一緒にとお願いすると、ご自分の分の料理も用意して3人で食事をすることになった。



「シキさん、留守中にアスカの面倒を見ていただき、ありがとうございました。明日が本番なので、引き続きよろしくお願いします」


「父も明日は激しい戦闘になると話していました。お気をつけて無事にお戻りください」


「ありがとうございます。ところで、アスカの様子はいかがでしたか?」


「グリムさんとはゆっくりお話しする時間もなかったので、今のうちにお伝えしますね。まず、お買い物はお洋服2着と肌着類を4着、寝間着1着、靴を1足購入しました。グリムさんのリュックにいれると思って、アスカさんのリュックは購入しませんでした。アスカさんについては、食事はしっかり食べられていました。睡眠もしっかりされていましたが、寝る前に少し慰める時間が必要でした。グリムさんが出発したからなのか、少し落ち着いてきたからなのか、ご両親を亡くされたことを徐々に実感されているようです。本を読むことに興味があるようなので、字は早めに教えてあげてください。それとお父様からいただいた剣を振りたがっていましたが、それはお父様とやりなさいと止めておきました」


「シキさん、いろいろご配慮をありがとうございます。ご両親のことは私も不思議に思っていました。あまり悲しんでいない様子だったので。まだ状況の変化についていけてないだけで、心の傷はしっかり残っているのですね。私も気に掛けるようにします」




 食事を終えると、シキさんはお茶お入れてくれ、そのかたわら、テキパキと食器を片付けていた。久しぶりに戻ってきたので親子で過ごせるように配慮してくれているのだろう。そして、片付けが終わると、そそくさと、「おやすみなさいませ」と言い残し出て行った。俺は疲れていることもあり、早々にベッドに横になった。アスカもついてくるようにベッドへ上がってきた。俺はアスカの頭を撫でながら、



「明日、もう1日だけアスカを1人にさせてしまう。でも、明後日からはずっと一緒だ。我慢してくれ」


「お父様、アスカは寂しくありません。シキさんも優しくしてくれます」



 とは言ったものの、アスカは俺にしっかり抱きつきしがみついている。



「アスカは甘えん坊だな、よしよし」



 俺はアスカの頭をできるだけ優しく撫でてやった。



「アスカ、後何日かすると、また、父と馬で旅をすることになる。馬に乗るのは好きか?」


「うん、お馬さんの上は高くて、景色がとってもきれい!」


「アスカが景色を見るのが好きなら、帰りは寄り道してきれいな湖を見て帰るか?」


「うん、楽しみ!」



 その一言を最後にアスカは眠ってしまったようだ。俺も寝るとしよう。


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