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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
2章 世界最強の剣士編
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2話 親子となる

 ジウト領主様の城下町へ入ったのは夜も更ける頃、アスカは馬上でうつらうつらしていた。可哀そうだがもう少しの辛抱だ。


 一旦、領兵団の詰め所に全員が集まったが、夜も遅いこともあり、明朝集合で解散となった。俺はウコワ兵団長に、宿はないかと尋ねたが、詰め所の兵団長宿直室で休んで欲しいと言われた。簡単だが温かい食事も用意すると言われたので、お言葉に甘えることにした。ウコワ兵団長は若い兵士に、何やら耳打ちした後、宿直室に案内してくれた。広めのベッドなのでアスカと2人で寝ても問題ないだろう。そのうち、先ほどの若い兵士がスープとパンと炙ったベーコンを持ってきてくれた。


 ウコワ兵団長は、「今夜はゆっくり休んでください」と言い残し、部屋を出て行った。


 アスカは眠そうだが、ベーコンの香ばしい香りに誘われて、眠い目をこすりながら食事をしていた。そして食事を終えると、2人ともベッドに入りあっという間に眠りについた。




 翌朝、目を覚まし、隣で眠るアスカも揺り起こし支度を整える。しばらくして、昨夜食事を運んできてくれた兵士がドアをノックし、朝食の支度ができたと声をかけてくれる。俺とアスカは食堂へ向かい食事をご馳走になる。食事をしているとウコワ兵団長が食堂に現れて、食事がすみ次第、城へ向かうと告げられた。アスカについては城の侍女が面倒をみてくれるとのこと。俺はアスカのことで侍女と話しをしたいと伝えると、領主様に会う前に時間があるとのことだった。


 ウコワ兵団長もお茶を飲み始めたので、昨日の襲撃について聞いてみた。グランの居た村が襲われて以降、見回りを強化していたが、ジウト領では魔獣発見の報告は無かったらしい。ただ、隣の領地で1つの村が襲われたとの噂は聞いていたそうだ。。そして昨日の村も、見回りの兵がたまたま襲撃現場近くにいたため、信号弾を上げることができたらしい。しかし、それでも村は壊滅し、領兵団の兵も数名負傷したそうだ。




 食事を終えて、さっそく城へ向かう。城へはウコワ兵団長と俺とアスカの3人、2頭の馬で向かった。門を通り、城の入り口に着くと、1人の女性が出迎えてくれた。



「お初にお目にかかります、城で侍女をしております、シキと申します。父がお世話になったそうで、ありがとうございました」



 俺はそのお礼が何のことだか理解できていなかった。



「グリム殿、シキは儂の娘です。アスカさんのことは安心して預けてください」


「なるほど、シキさんアスカをよろしくお願いします。それと、アスカは着の身着のまま逃げてきたもので、何も持ち合わせていません。私が留守の間に旅支度を整えてやってください」



 俺はシキさんにいくばくかの金を渡し、アスカをシキさんに預けた。



「娘さんの面倒はしっかりみますので、心置きなく任務に励んでください」



 娘と言われて少々面食らうが、今は気にしないことにしておく。




 その後、ウコワ兵団長と俺は領主様の執務室に招かれた。挨拶もそこそこに、早速状況報告と今後の魔獣討伐について話しをした。俺はジウト領兵団、ビーゼ村近衛兵団、隣接する領地の領兵団の3兵団での包囲殲滅作成を提案した。領主様とウコワ兵団長もその意見に賛成されて、領主様の手紙を携えて、俺がビーゼ村と隣接する領地を訪れることとした。そして作戦決行は3日後の朝。各々が青い信号弾を上げることで作戦開始と終了。各々が黄色い信号弾を上げることで作戦中と現在位置の通知。黄色い信号弾は一定時間で現在位置を知らせ、また、位置を地図へ記入していくことで、探索した場所も把握する。大規模な戦闘が開始された兵団が赤い信号弾を上げて、他の兵団が駆け付ける手はずとなった。


 作戦についての打ち合わせを終えたのはもう夜となっていた。領主様はまだ手紙の用意をされるそうだが、ウコワ兵団長と俺は城で食事を取るよう指示される。また、今夜は俺とアスカは城の客間で過ごすよう言われた。執務室を出てそのまま食堂へ向かった。




 一方のアスカは、1日シキさんのお世話になっていたようだ。まず、お風呂に入れられた。体と髪をきれいに洗われたあと、シキさんと湯船に入る。



「グリムさんはアスカさんのお父さんではないの?」


「うん、お父さんとお母さんは村で魔獣にやられちゃった」


「そう……それは寂しいわね」


「でも、グリムさんが来てくれて守ってくれた」


「グリムさんがお父さんになってくれると言ったらどうする?」


「グリムさんはお父さんじゃないもの」


「そうね、お父さんはアスカさんを大切に育ててくれた優しい人。グリムさんはアスカさんを守ってくれる強くて頼りになる人」


「うん」


「それなら、グリムさんのことはお父さんではなく、お父様って呼んでみたら?」


「お父さんじゃなくて、お父様……」


「そう、お父さんはアスカさんを守って亡くなってしまったけど、お父様はこれからもアスカさんを守ってくれる頼もしい人」


「うん、お父様って呼ぶ」


「そうね、グリムさんもきっと喜んでくれるわよ」



 それから2人でお風呂からあがり、街へ買い物へ出かけ、服や靴、寝間着や肌着を買ってもらった。お城へ戻って昼食を済ませると、疲れが出たのか、昼寝をしてしまったらしい。




 ウコワ兵団長と俺が食堂に入ると、シキさんが配膳をしながらアスカの面倒を見ていてくれていた。そして席に着き、4人で食事を始める。



「シキさん、今日は1日アスカの面倒を見ていただいてありがとうございます。ただ、明日からも領地外へ出てしまうので、3、4日はお世話になります」


「気になさらないでください。それが私のお役目ですから。それにアスカさんといるのは楽しいですよ」


「そう言っていただけると助かります。アスカはちゃんとシキさんの言うことを聞くんだぞ」


「はい、お父様!」



 お父様?今、お父様って呼ばれたか?俺がお父様と呼ばれていいのか?アスカと初めて会ったときから、こうなりそうな気がしていた。きっと運命の出会いというやつだ。アグリさんとグランの出会いのように……驚いた顔をしている俺を見て、ウコワ兵団長とシキさんは笑っていた。




 食事を終えてアスカと2人で客間に案内される。そして2人で部屋へ入る。



「アスカ、俺がアスカのお父様でいいのか?ずっと俺と一緒にいることになるぞ?」


「はい、お父様。お父様とずっと一緒にいます」


「分かった。では父からアスカにお守りを渡しておく」



 俺は腰に着けていた短剣を外し、アスカの腰につけてやる。



「これは皇太子様からいただいた、とても大切な短剣だ。きっとアスカのことを守ってくれるから持っていなさい」


「はい、お父様」



 こうして親子?となった2人は並んで眠るのでした……


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