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【幕間挿話】その後のアグリとグラン2

 グランが魔法を使用したことで、すでに教えていた読み書きや計算は大急ぎで終え、魔法学校で教わったことを教えることにした。ただ、私は魔法学校で白魔法についての授業しか受けていないので、ユニークな魔法についての知識はない。外部記憶装置で調べながら教えることにした。また、グランの父親から受け継いだリュックについても登録することにした。グランの親指に針を刺し、小さな血の玉を指先ににじみ出させ、そのままリュックのタグに押し付けさせた。するとタグに付けた血は吸い込まれてしまい跡形もなくなった。グランにリュックの中の物を確認させると、不思議なことを言い出した。



「母さん、リュックの中には何もない。でも、たくさんのものが詰まっている」


「どういうこと?物が詰まっていて、でも手に触れられないってこと?」


「ううん、欲しいと思ったものが手に掴ませられる感じ。試しに赤いリンゴが欲しいと念じると……」



 グランは1つの赤いリンゴを掴んでリュックから取り出した。



「この中には5種類のリンゴがいれてある。薄い緑色やひょうたんのような形とか」


「どのくらいの物が入っているの?」


「数がどのくらいなんて分からない。だからどれが欲しいか念じると、該当する物のいくつかが頭に浮かんでくる。その中から選ぶ感じ」


「今まで私と材料の調達に行って、その材料がここに入ってなかった物はあった?」


「うーん、それは調べてみないと分からない。でも何を調べればいいか分からないと調べようもない」


「分かった。まずは倉庫に行って、入っていない物はすべてこの中に入れましょう!」



 こうして私たちは日常的に、リュックに入っていないものは入れる癖をつけた。そのため、グリムさんに教えてもらった素材採取のすべての場所に、もう1度行って確認することもした。村へ行っても、無い物は購入していれた。さらに鉱石などはグランの魔法を使い、より品質が良く大きい物に入れ替えもした。私はこのリュックの充実が、グランの、そしてグランが親となり、その子供たちへの役に立つと信じて行動していた。




 ――私が自分の体の異変に気付いたのは、グランが15才の秋だった。すでにこの頃には魔力の回復にとても時間がかかるようになっていた。私の場合は黒魔法の応用で外から魔力を取り込むことや杖からの魔力の取り込みでカバーすることはできた。ただ、思念の伝達も弱くなり、外部記憶装置のエコが反応しないこともあった。


 白魔法士は短命というのは迷信ではなく事実のようだ。自らの体内で大量の魔力を生成する白魔法士は、命を削って魔力を生み出しているようなもので、魔法の詠唱回数に寿命が大きく影響すると考えている。私の場合は魔法ありきで生きてきたので、自分としては長生きした方だと思う。だが、心残りはやはりグランだった。再び身寄りのない孤独な人になってしまう。フィーネさんにお縋りでもしない限り、私の死によってこの静養所に住むことも難しいだろう。それに、それでは住まいだけは残せても、ここでの生活の糧を得るのは難しいだろう。


 私の死後も、安心してグランを任せられる人……私には1人しか思い浮かばない。グリムさんだ。都合がいいお願いなのは十分承知している。それでも私が何の憂いもなくグランを託せるのは、グリムさんの他には思い浮かばなかった。グランをグリムさんへ託す決心をして、私はその日を迎える準備を始めることにした。




 まず最も懸念されるのが突然の魔力消失による体へのダメージ。私がフィーネさんを助けた時のように、数日の意識不明な状態は避けられないだろう。せめてグランに薬を渡しておいて、対処をお願いしておかなければ。それに魔法を使うようなことは早めに済ませておく必要がある。私はそう判断すると、翌日には教会へ行くことにした。


 翌日、グランを連れて村へ行く。村長が執務室にいると聞いたので、私は村長と会うことにした。その間、グランには買い物を頼んでおいた。村長には私の寿命がもう長くないことを伝え、私の死後はグランを王都へ行かせ、静養所は国王陛下にお返しする考えでいると伝えた。私の死はグランによって書面で届けさせ、その書面によって村からの支援は終了としてもらうことにした。村長は無理せず、少しでも長生きして欲しいと言ってくれた。グランのためにもと。ありがたかった。


 その後、グランとはラクサさんの店で合流し、2人で教会に向かう。私は神父様にお願いして守護の祈りのメダルの提供をお願いした。神父様はすぐにメダルの用意をしてくれた。私はありったけの思念をメダルに込め、グリムさんの武勇と無事をお祈りした。神父様は立派な箱にメダルを入れて私にわたしてくれた。私も感謝の気持ちを込めて、多くの寄付金を渡して教会を後にした。


 教会から家に戻り、私は魔法の薬を作るための調合を始める。私の死によって私の私物を消失させる薬で、白魔法士は死を意識すると当たり前のように準備すると魔法学校で習った。私は正式な白魔法士ではないが、災いとなるよりはやっておいた方がいいだろう。生前に処分してしまうもの、静養所にそのまま残すもの、グランに渡すもの、そして私と共に消滅するものと選別した。処分する物については無理のない範囲でグランに分解の魔法で消してもらった。グランの分解の魔法は私にも解明ができなかった。後は自分で頑張ってもらおう。そして私と共に消滅する物には、薬を塗っていく。私が魔法の研究に書き留めていた資料や、試しに作った魔道具がほとんどだ。これらの知識は白魔法士として別の方法でグランへ伝える。ただ、受け取れるかどうかはグラン次第ではある。


 そして私の生前にやっておく最も大切なこと。フィーネさんに死が近いことを伝えることだ。私はブレスレットに思念を送るが、エコはもう応えてくれなかった。しかたなく、魔道具のエコを持ち出して、私の事務机に乗せる。直接手に触れながら思念を送るが、それでも反応してくれない。杖を握ろうが、魔力が回復する薬を飲もうが、エコが反応してくれることはなかった。途方にくれている私を助けてくれたのはグランだった。私の背後から私をしっかり抱きしめながら、エコに置く手にもグランが手を乗せてくれた。グランの魔力と思念が私の中に流れ込んでくる。私はエコに声をかける。



『エコ、聞こえる?アグリです』……『はい、聞こえます』


『エコ、グリスのフィーネさんにメッセージを送りたいの』……『はい、送りたいメッセージを送ってください。送り終えたら終了と送ってください』


『フィーネさん、私はもう死が近いです。このメッセージが最後になります。一生親友でいてくれたことを、心から感謝します。終了』……『はい、メッセージを送りました』


『エコ、ちゃんと送れた?』……『はい、送れました』


『エコ、長い間助けてくれてありがとう。これからはグランを助けてあげてください』……『?』



 こうして私は魔法を使ってやるべきことをやり終えた。そして数日後には倒れることとなった。


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