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【幕間挿話】その後のアグリとグラン1

 その後の私とグラン。グリムさんが王都に戻られてから、グランは私の負担を減らすように歩きが達者になった。私の後ろをちょこちょこついてきてくれて、抱っこの負担がなくなる。街への行き帰りは魔法を使った。さすがに人前で使うことはしなかったが、フロートと魔法の手を目立たぬ?ように使用して買い物も困ることはなかった。グランは最初怖がって泣いたが、慣れると遊び感覚で楽しむようになった。


 心配していた生活費は潤沢である。王妃様がハンカチの費用を定期的に送ってくださり、この費用だけで生活にはあり余るほどのお金を得た。なので結婚式のドレスや薬の調合は、手間賃だけをいただくことにした。衣料品店のカノンさんとは親友のようなお付き合いになっている。グランの服や肌着の工夫を一緒にする中で、赤ちゃんの服や肌着も作ることになり、2人で新しい商売にすることにした。ラクサさんは私たちのことをとても気遣ってくれて、生活に支障がないようにサポートしてくれている。ラムカさんは注文や配達の度に、グランの遊び相手までしてくれていた。




 静養所に来て1年となる頃、突然、キツカお兄様が静養所に顔を出された。私は驚くと同時に嬉し涙が溢れ、キツカお兄様に抱きついてしまった。キツカお兄様はビーゼ村の魔法陣と魔道具の調査に来られたそうだが、実際はグランのご両親の遺品についての調査報告をしにきてくれたようです。キツカお兄様にグランを紹介し居間へ案内する。お茶を入れて、改めて挨拶を交わす。グリス侯爵家の皆さまの近況も教えていただいた。キツカお兄様には夕飯をぜひとお願いして、グランと一緒に先にお風呂に入ってもらった。私はその間に料理を始める。最近思いついた圧力をかける魔法を使うと、煮込む料理も素早くできることを知って、その調理方法をフル活用した。コンソメスープだけは間に合わないが、明日の朝食用に作っておくことにした。


 2人がお風呂から上がったので、テラスの席で涼んでもらう。私は冷たい紅茶に紅茶で作った氷を浮かべたアイスティーを2人に出す。キツカお兄様は驚きながらも喜んでくれた。この時期に氷はありえない物だからだ。それも紅茶で作った氷!


 食事の支度が整って、2人に食堂へ来てもらう。私とキツカお兄様はワインも開けてお酒を飲みながらのお食事。もうグランも1人で食事ができるので様子を見る程度で十分になっていた。キツカお兄様はお酒に酔う前にと、グランの遺品を返してくれた。残念ながら価値も効果もあまりないものだったそうだ。それとお母様からグランにと私と同じ白結晶石のブレスレットを頂戴した。キツカお兄様へは私からも贈り物をした。素材を取りに行く途中で見つけた黄色い石だ。外部記憶装置では何の石かは分からなかった。ただ、私の予想では思念の増幅に使えるとみている。


 食事は終わったが、もう1本ワインを開ける。私は大きな鏡の前にイスとサイドテーブルを置いて、キツカお兄様にも腰かけてもらう。そして私はお酒を飲みつつ、3人のデッサンを始める。同じ構図の3枚の絵を描き終える頃、ワインも空になっていた。2枚の絵をキツカお兄様にお渡しして今夜はお開きとなった。



 翌朝、3人で朝食をとると、キツカお兄様は急ぎ出発の準備をされていた。王都へ戻る一団がキツカお兄様の戻るのを待たれているそうだ。私とキツカお兄様はしっかりと手を取り合い、またお会いしましょうと言って別れた。だが、この別れがグリス侯爵家の人との最後の再会となった。




 グランは5才で初めて魔法をつかった。素材集めに鉱石を取りに行ったときだった。黒い鉱石は粉にしてインクの材料として使っていた。グランが大きな黒い鉱石を見つけたものの、中には茶色い石の筋が混じっており、インクには不向きだった。茶色い石が混じっていなければ良かったのに!と悔しがっていたグランは異変に気付く。右手に持っていた元々の石は少し小ぶりになったものの、純粋な真っ黒の石となり、左手には茶色の粉や細かい砂利のようなものが握られていた。私はご両親の遺言の移動魔法は自分が移動するものと思っていたが、物質を移動させる魔法なのだと理解した。それに粉のような物は分解魔法によって砕かれ取り除かれたのではないかとも考えた。それと私はもう1つ、ある可能性をグランに試してもらった。



「グラン、この黒い石は、横の岩肌の一部が欠けた物だったの。あの岩肌から、この右手で持っている真っ黒な石を、左手にも集めてくるイメージを思い描いてみてくれる?」


「はい、母さん。それではやってみるよ」



 グランは目を閉じ、意識を集中している様子。私はグランの肩に左手を乗せて、グランの体内の魔力の流れを感じることにした。グランの体内から魔力が生み出されているのを感じる。『この子はちゃんと魔法士になれそうね』それが私の確信となった。ただ、どうグランを導いてあげればいいかしら?私の魔力で誘導してあげたら理解できるかしら?私は疑問に思うならやってみましょうとなり、グランに向けて魔力を流してみる。その魔力をブレスレットに向けて流れるようにしてみた。するとブレスレットの白結晶石が初めて透明になり、魔力のやり取りも行われているようだ。そして左手には右手の石とうり二つの黒い石が握られていた。



「母さんの魔力が僕の中に流れてきたよ。魔力の流れは自分で意識的に動かせるんだね」


「ねえ、グラン。この魔法は私と2人の時だけ使うと約束して。もしも他人にこの魔法のことを知られたら、グランは一生囚われの身となってしまうかもしれない……だから誰にも見せないと約束して」


「分かったよ、母さん」


「それと、ブレスレットの石が透明になったの気付いた?」


「ううん、でも石から魔力が流れてきたり僕の魔力が吸い取られたりする感覚はした。母さんと同じ?」


「そう、私と同じ。家に帰ったらエコに登録してあげるからね。これからはグランの魔法の勉強も本格的に始められる!」



 こうしてグランは魔法士として歩き始めた。


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