89話 奥の手
「グリムさん、私は魔法の実験をします。先に行きますので、グリムさんはご自分のペースでお願いします」
そう宣言した私は、100メートルほど先と思われる太い木を目標にしました。手を大きくして太い木に向かった魔法の手を伸ばします。そして手で太い木を握りました。私はその場で軽くジャンプすると手を一気に縮めました。一瞬の内に太い木にたどり着きましたが、思いのほか風の抵抗を受けました。
心配になりグランを見ると……喜んでいました(笑)
魔力は思ったより使った気分でした。感覚でしかないですが、2割ほど使用した気分です。私は左手に杖を持って、杖と魔力を共有。そして、同時に杖には大地からの魔力を吸収させました。
グリムさんが慌てて走ってきました。
「アグリさん、あまりに無謀ではありませんか!」
「ごめんなさい、私もやり過ぎたと反省していたところです。もう少し速度を落とさないと、私の身が持ちません」
「魔法の手の方は無謀とは考えられていないのですね……」
「急激な動きで魔力消費も激しかったのです。もう少し魔力消費を抑えてみます」
懲りずに2度目のチャレンジです。目標の木を見定めて、手をのばします。今度はとても細い手にしました。そして目標の木を握りました。今度は飛び跳ねるのではなく、腕で体を持ち上げました。そしてグリムさんが走るくらいの速度で手を縮めました。
そしてグランを確認……特に興味なしのようです。
魔力の確認では1割くらい消費の気分です。このくらいの消費なら問題はないですが、もう少し抑えたいところです。そしてひらめいたのは、『白魔法なんて、魔力の消費の大きい魔法を使うから!』でした。私は魔法の手を土から作るイメージを頭の中に描き、地面の土に魔力を込めました。そして魔力が貯まったところで土を手の形に右肩から出して、前回と同じように移動開始です。
移動の終了後はグランを確認……特に興味なし。というより眠そうです。
魔力の消費は、気分的には使っていない感じです。杖のサポートも大きくて、魔力を集めるのもとても速いです。さすが黒魔法。私は体内の魔力を回復させながら、グリムさんを待ちました。グリムさんはもう慌てることもなく、マイペースで私に追いついてくれました。
「アグリさん、今回は黒い手でしたね。何か変えたのですか?」
「はい、土を使って手を作りました!」
「……」
「この森を抜けるまではこれで行けそうです。そうなると、グリムさんのサポートもしたいですね」
私はしばらく考えて、以前に使ったことを思い出しました。
「グリムさん、私の左肩にしっかりつかまってください」
私はグリムさんに向かって、「フロート」と詠唱。そしてかなり離れた木を目標に魔法の手の移動を開始しました。そして目標の木に到着。
そしてグランを確認……もう眠くて意識もうろうとしてます。
魔力の確認でも消費は感じません。
グリムさんを確認すると……まだ浮いてました(笑)
「グリムさん、どこか異常はありませんか?」
「自分が浮いているということを除けば、異常はないです」
「では、このまま森を抜けてしまいます」
何度かの魔法の手の移動で、無事に森を抜けました。
森を抜けると山のふもとです。少し登ったところが目的地です。私では到底登れそうにありません。自分をフロートで浮かせることはできますが、地面を蹴れないと前に進めませんし……魔法の手で地面を蹴ってみる?いやいや、それなら地面を掴むようにして引っ張る方が自然かな?
私は少し手前に魔法の手をついて、引っ掻くように踏ん張って、手を縮めてみました……ゆっくり進むことができました。私が進むとグリムさんもついてきてくれました。
「グリムさんの歩くペースに私が合わせます」
「了解です。では自分のペースで歩きます」
手を踏ん張れれば、グリムさんのペースに合わせることは簡単でした。それに地面のでっぱりやくぼみは手をかけやすいので、積極的に使いました。そして、自分が浮いていて軽いので、細い木や丈夫な草なら、掴んでしまうこともできました。森の移動方法より、こちらの移動方法の方が自然でなめらかです。
こうして最初の目的地に無事?に到着しました。目的の薬草のタババはすぐに見つかりました。回復薬の材料の1つです。静養所から近い割に、大量に群生しています。誰も取りに来ないのかしら?
「グリムさん、この辺の薬草を取りに来る人はいないのですか?」
「はい、国王陛下の静養所ですから、街道からこちら側は許可なく立ち入りできません。商人は許可されているので立ち入れますが、見つかったらお咎めを受ける命がけの採取はしないでしょう」
「では、私の取り放題ということですね。取りつくさないよう気をつけねば!」
そんなことを言ったものの、薬草など大量に持ち帰ることはできません。何か方法を考えないと。今日のところは3つだけいただいていきます。
グリムさんに、「この先はどうしますか?」と聞かれました。
魔法のおかげで、体力的には問題がありません。グリムさんと地図を確認すると、この山はこの先に鉱石が取れるだけで、他に足は延ばせないようです。
「行ってしまいましょう。鉱石によっては、今後この先へ行く必要がなくなるかもしれません」
「はい、分かりました。そうなるとしばらくは山登りです。今のままの感じで進んで行きましょう」
そして再び移動を開始しました。




