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83話 旅の終わり

 お風呂の準備を終え、リビングへ戻るとグリムさんがお茶の用意をして待っていてくれました。



「お待たせしてしまって、ごめんなさい」


「いえいえ、お料理をされていたようですね」


「はい、仕込みだけはしておかないと、夕飯に間に合わないので」



 私はグリムさんとの会話の最中に、リビングの壁側に大きな機織り機を見つけました。



「グリムさん、あそこの大きな機織り機は、王妃様からの賜りものですか?」


「はい、そのように聞いています」



 私は機織り機に近づいてみました。ドレスの生地も織れるほどの大きな機織り機で、作りも立派なものでした。驚いている私に、さらに追い打ちをかけるグリムさん。



「アグリさん、廊下側の壁も確認してください」



 私は言われるまま、廊下側の壁を見ると、大きなタンスのような引き出しがぎっしりつめられていました。私は左端のタンスから引き出しを開けてみると、糸がびっしりです。おまけにこのタンスには白い糸が上から下まで詰まっていました。次のタンスには引き出しを開けると色のついた刺しゅう糸です。それも引き出しの中は1色がびっしり。このタンスは引き出し毎に色が違う刺しゅう糸が詰まっていました。次の列の引き出しは白い生地が詰まっていて、最後の左端の列の引き出しは、引き出し毎に色が違う生地がびっしりでした。


 王妃様はハンカチを作って送れと言ってくださったのは、この準備がされていたからだったのですね。


 私への配慮に心から感謝です……しっかりハンカチをお作りして、お送りいたします!




 ようやく興奮が落ち着いた私は、先ほど見かけた機械?についてグリムさんに聞いてみることにしました。



「グリムさんにお聞きしたいことがあります。厨房の流しに水の出る機械があったのですが、あの機械の水はどこからきているのか知りたいのです」



 グリムさんは最初、何だろうと理解できていない様子でしたが、あれかと思い出されたようです。



「水道のことですね。アグリさんが言われている機械は蛇口と言います。ひねると水が出るものです。川から水を引いているのは間違いないですが、水を貯めるタンクもあるはずです。明日にでも確認しておきます。台所にあるなら、きっとお風呂にもついていますよ」


「お風呂にもついていました。私は魔法なので使わないと思いますけど……そうそう、お風呂のお仕度はしておきました。グリムさんは先に入ってくださいませ。グランはまだ粗相をするでしょうから、私と後にはいります(笑)」



 こうして、グリムさんと静養所に着いて、お茶を飲みおしゃべりをしたことで、ようやく旅が終わったことを実感しました。


 立派なお屋敷も、新しく出会ったグランも、出発の時には想像もしていませんでした。でも、今はこうして現実の出来事です。人生なんて一寸先のことですら想像もできないことが起こるのだと思いました。




 食事の支度をしている間に、グリムさんにはお風呂に行ってもらいました。そして、グリムさんが食堂へ来られたところで夕食です。


 グリムさんがグランを抱えて座らせ、私がグランの口へ食べ物を運んで食べさせます。グランだけがニコニコ嬉しそうに食べていました。しばらく食事をさせていると、グランは空腹より眠気が勝ってきて、終いには眠ってしまいました。私はお風呂場から何枚かのタオルとかごを持ってきて、即席かごベッドを作って、その中へグランを寝かせました。幸せそうな寝顔でした(笑)これでようやく私とグリムさんの夕食が始まりました。



「グリムさん、まずは無事に静養所までお連れくださり、ありがとうございました」


「そんな、お気になさらずに。私は国王陛下のご命令でお連れしたのですから」


「この道すがら、グランと出会えたのは運命のように思えています。私が1人にならないように神様のお情けかもしれません」


「そんな風に思わないでください。アグリさんは戻りたくなれば、いつでも戻れる場所がたくさんあるのですから」


「そうですね、皆さんが本気でそう言ってくれているのは、私も理解をしています。それだけに、自分の力でできるところまで頑張ってみたいと思います。そしてここで暮らして、ここでもしっかり生きていけますと皆さんにお伝えできるようになりたいです。ですので、グリムさんにはもう少し、ここで私が生きていけるようお力を与えていただきたいのです」


「はい、そのつもりで来ています。私はアグリさんがもう大丈夫と思えるまでここから離れません。そうでなければ、王都に戻って皆さんに安心していただけませんから」


「当面は山で素材を集められるようになりたいと思います。でも山に入るからには、いろいろなことを学ばないといけませんね」


「はい、普通に行って帰ってくるのは誰にでもできます。でも不測の事態に陥ったときにどう対処するのかがとても大切なのです。それをお伝えできればと思います」


「はい、よろしくご指導ください」



 こうして初日の夕食を終えました。生活のリズムが整ったら、もう少しちゃんとお料理もしたいです。




「食事の後片付けは私に任せて、グランとお風呂に行ってください」



 私はグリムさんのお言葉に甘えることにしました。


 お風呂場に行って、魔法を使えば体をきれいにするのはあっという間に終わりました。ただグランとのんびり湯船に浸かるのも楽しいかなと思って、お風呂に浸かりました。グランはもぞもぞ動いてから、私のおっぱいをチューチュー吸い始めました。



「ごめんね、グラン。私はおっぱいはでないの」



 私は自然と微笑みましたが、グランの姿が不憫にも見えました。


 甘えたいお母さんはもういないのです。私にできることなら何でもしてあげるけど、足りなかったらごめんね。私もお母さんを知らないから……


 そんなことを考えていたら、グランは眠っていました。ゆっくりお風呂から上がって、私もグランも魔法で体を乾かして、グランを即席かごベッドへ寝かせました。このベッドは便利です!そして私もグランも寝間着に着替えれば今日はもうやることはありません。


 グリムさんのいる居間へ行って、お風呂を上がったと伝えて、皆で3階に向かいました。グリムさんに、「おやすみなさい」と伝えへ部屋に入り、グランと2人でベッドに入りました。


 私はブレスレッドに思念を送って、フィーネさんにメッセージ。


『無事に静養所に着きました。道中で孤児の赤ちゃんと出会って、私が育てることにしました。詳しくは明日お伝えします。おやすみなさい』とメッセージを送りました。


 こうして旅は無事に終了しました。旅は楽しかったけど、やはり疲れました……


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