82話 静養所に到着
村から静養所までの道は1本道で、緩やかな上り坂が続きます。馬で10分ほどで着いたので、人なら20分くらいかかるのかな?グランを抱っこして荷物を持っては無理かもしれません。私も乗馬を覚えようかしら?
グリムさんが厩舎に馬を連れていき、いよいよ私たちが静養所に向かいます。私が静養所のドアまで行きドアノブに手をかけると、ドアノブがびくともしません。どうやって入るのでしょう?ドアに鍵もありません。困っていると、グリムさんが封筒の中からネックレスを取り出し、私に手渡してくれました。
「このネックレスをしている人が屋敷の主と認識されるそうです。皇太子様からお預かりしてきました。主に許可を与えられた人だけが自由に出入りできます。また、アグリさんが屋敷にいるときだけ自由に出入りができる許可も可能なようです」
どう許可を与えるのかな?思念を送ればいいのかな?まずは試してみますね!
『グリムさんとグランは屋敷の出入りを許可します』……『登録しました』
やはりエコのような仕掛けでした。
「グリムさんとグランには許可を与えてみました。入れるか試してみてください」
グリムさんが恐る恐る扉のドアノブに手をかけると、普通に使用することができました。
私とグリムさんが玄関先で相談して、まず屋敷内を見て回ることとしました。荷物を玄関に置いて1階右側廊下から確認開始です。部屋は、リビング、食堂、厨房、倉庫……これは規模の小さい侯爵家と言った感じです。玄関へ戻ると今度は左側の廊下。広い部屋……こんながらんとした広いお部屋を何に使うのかな?、お風呂やトイレの水回り関連、洗濯場、倉庫。こちらは侯爵家の作りとは違いました。
今度は階段です。地下はないので、2階に上がります。2階には左右を見まわしても個室がずらりと並んでいました。そのまま素通りして3階へ。3階右側の廊下は、豪華なお部屋、豪華なお部屋……そして最後も豪華なお部屋。こちらは国王家の皆さんのお部屋のようです。特に奥のお部屋は生活道具が一式揃えられていて、ここで私が生活することを想定して準備がされているようです。お隣もベッドの準備はされていたので、グリムさん用に準備されたのでしょう。左側の廊下はがらんとした大きなお部屋が多く、荷物をいれておくお部屋なのかもしれません。
3階階段まで戻ると、グリムさんがひと言。
「豪華なお部屋にお仕度がされていましたね。きっとベッドもふかふかですよ!」
「はい、ふかふかベッドは楽しみです。それでは私は奥のお部屋を使います。グリムさんはお隣のお部屋ですね」
「はい、まずは荷物を片付けてしまいましょう」
グリムさんは1階に戻ってリュックを取ってきてくれて、私の荷物の入った布袋を渡してくれました。部屋へ入って、洋服をかけようと洋服ダンスを開けると、洋服ダンスの半分は服が準備されていました。季節ごとに着れるような服がまとまっておかれていて、私の好みのシンプルで清楚な雰囲気で統一されていました。きっとフィーネさんのアドバイスで選ばれたのでしょう!
私はもう半分に自分が持ってきた服をかけました。そして隣の整理ダンス。引き出しを開けると上から、肌着、靴下やハンカチなどの小物、シャツ、部屋着の上着、部屋着のスカートやパンツ。びっしり詰まっていました。自分で準備した物をそれぞれに押し込んで、部屋着を取り出し、部屋着にきがえました。ようやくリラックスです。
私はグランをスリングごと抱えて、1階へ降り、厨房を目指しました。
厨房もこじんまりとした侯爵家の厨房のような雰囲気で使い慣れていて助かりました。厨房から外へ出られる扉があって、外へ出ると、壁には薪が積み上げられていました。近くには井戸もあって、料理には便利な作りになっています。
私は薪の束を両手で持って厨房へ戻り、かまどに薪をいれました。早速、「ファイア!」を詠唱して薪に火をつけます。ポットに魔法でお湯を入れかまどに置きます。そしてもう1つのかまどには、大きな寸胴鍋を置いて、こちらも魔法で鍋にお湯をみたします。
棚を確認するとお野菜や燻製のお肉があったので、今日は取り急ぎのスープを作ることにしました。 ざっくりと大きめに野菜と燻製のお肉を切って……いけない!グランのことを考えなないとね。方針変更で野菜もお肉もグランのひと口大に小さく切りました。大人には物足りないですが、グランが大きくなるまでは、グランに合わせるしかないです。味付けもさっぱり塩コショウで済ませてグラン向け、大人は自分で後から調味料を好みで追加です。これでしばらくはこのまま放置です。
私は厨房内の棚と倉庫の棚を確認してみました。日持ちのする食品や調味料は厨房にも倉庫にも置かれていました。野菜は厨房だけです。生の肉や魚はなく、これはラムカさんにお願いして持ってきてもらう想定のようです。
私は倉庫からパンとチーズを持って来て、厨房で切り分け、それぞれかごに入れました。これでグリムさんが小腹が空いてもつまみ食いができるでしょう(笑)かごは1番目立つ取りやすい場所に置きました。
夕食は直前にソーセージを茹でれば良いでしょう。
そして最後に厨房でとても気になっていた物を確認することにしました。それは1つの流しに設置されているつまみと水が出てきそうな口。試しにつまみを回してみると……水が出ました!つまみを戻すと水が止まります。またつまみを回すと水がでます!魔道具なのでしょうか?でもこの器具につながる金属の管のようなものが続いているので、水は管を通ってここにきているのでしょう。そしてつまみによって栓がされているのでしょう。水がどこからきているのかはグリムさんに確認です。
私はふと気づきました。この不思議な水の出る機械、お風呂場にもあるでしょ!私は気になって、お風呂場へ向かいました。すると浴槽にも先ほどの機械が2つ……2つ?……2つ!お湯と水が出るのですね。ただ、私には不要ですけど。せっかくお風呂場に来たので、「ボイル!」と詠唱して、浴槽をお湯でみたしました。
脱衣所の方も確認すると、棚にはタオルがぎっしり置かれていました。タオルなんて高級品が!ふかふかタオルにくるまれたらグランも喜ぶでしょう。お風呂場に再び戻り、石鹸箱を置いて、お風呂の支度も完了です。今夜は長旅の護衛をご苦労様でしたということで、グリムさんに先にお風呂に入っていただきましょう。




