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77話 魔獣に襲撃された村と赤ちゃん

 生まれ育った村で過ごした後の旅は、村へ泊めていただいたり、大きな街で宿に泊まって食料を調達したりと、旅程を順調に消化していきました。


 ただ、宿でお洗濯を頼むと高い!お風呂に入るのが高い!と私はもったいないの庶民根性が爆発しました。私とグリムさんは街道から少しそれて、人里離れた小川へ行き、川の水と魔法で洗濯と脱水と乾燥で洗濯を済ませました。


 しまいには、「グリムさん、絶対見ないでくださいね」と言って、魔法でお湯を浴びて、自分の体も乾燥でお風呂は完了です。


 もちろん私も向こうを向きつつ、グリムさんにお湯をかけて、体を乾燥してのお風呂に協力しました。



「アグリさんとの旅は快適ですね、ぜひ近衛兵団に入隊してもらって、行軍の際に活躍していただきたい」



 そう冗談なのか本気なのか分からないことを言われました。次回はグリムさんにお湯ではなく冷水をかけてさしあげます!




 だんだんと珍道中になりながらも、旅程は残り2日となりました。のんびり街道を進んでいると、グリムさんが辺りを気にし始めました。



「アグリさん、近くではないのですが、異変が起こっているようです。護衛騎士としては無視するのが正しいのですが、人が困っている可能性もあります。いかがしましょう?」


「何事もなければ寄り道をしたと思えば良いだけです。行ってみましょう」



 そして森の方へ馬を向けて走り出しました。 しばらく駆け森を抜けると、はっきり見えてきました。煙があがっています。確実に異変です。さらに煙を目指して進んで行くと、小さな村の家が何軒か燃えていました。グリムさんは速度を落とすことなく近づいて行きましたが、村の入り口辺りで馬を止めました。



「アグリさんはここにいてください。私は村の様子を見て、すぐに戻ってきます」



 そしてグリムさんは馬を降りると、すさまじい速度で走り出し、止まっては様子を伺い、そしてまた走りを何度か繰り返していました。




 私も何かできないかと思いエコに聞いてみることにしました。



『エコ、災害現場で生存者を探す方法があれば教えて!』……『1ページ該当しました。見終える時は終了と送ってください』



 頭の中にページの絵が浮かんできます。過去の災害現場での報告書のようです。白魔法のサーチを熱について使用したと書かれています。詳しくは36度から38度までの温度を白、その他の温度を黒で表現して、白い影を捜索したと書かれていました。


 サーチを詠唱するのは簡単ですが、温度を認識するのが難しそう。まあ、やってみて調整していきましょう。「サーチ!」と詠唱。そして頭の中を真っ暗に変えました。ここから該当部分を白くするには……まずは自分の手を見えるようにしましょう!私は左手を目の前に持ってきました。『これは見たい!』と念じると、左手の手の甲が白い影のように見えました。私の地肌が見えるようにすれば、ある程度使えるかな?私は服の中を覗き込んで見ると、体は見えませんでした。きっと服の中の肌は温度が高いのですね。そして胸元を意識して、『これは見たい!』と念じます。胸元やお腹が白い影のように見えるようになりました。試しに左手を見ると左手の甲は今でも見えていました。見える範囲を追加していく感じかな?これで何とか使えそうです。


 この状態で村の方を見てみると、遠くにぼんやり白く光りが見える部分がありました。実物を確認したいけど、魔法はこのままかけておきたい、うーん……うん!魔力放出を弱めればいいのかな?私は少しずつ、使っている魔力をゆっくり抑えるイメージを思い描きました。すると、魔力の量が細くなったようで、普通に目で見える光景に戻りました。


 気になっていた部分を確認すると、物置のような小さな小屋でした。薪でも置いておくような村ではよくある家の横の小屋です。


 再び魔力の流れを増やすと、ぼんやりとした光と真っ暗な世界が広がりました。今度はもっと手前に見えるよう注視するイメージで見てみます。すると小さな点のような白い光が見えるのです。でも丸くて小さく人とは思えない……何だろう?


 すると今度ははっきりと鮮明な人型の白い光が近寄ってきます。これはグリムさん!私は魔力を絞って、グリムさんの話しを聞きました。



「アグリさん、ざっと見た限り、村は全滅です。ただ、もう魔獣はいないので、このまま生存者を確認したいと思います。馬で移動しますが、アグリさんが見て不愉快になるものもあるかもしれません。ですので、私の指示に従うと約束してください」


「はい、グリムさんに従います」


「ありがとうございます。ではまず信号弾をあげて近くの騎士を呼びます」



 グリムさんは黄色い信号弾をあげました。そして馬に乗りました。



「では、アグリさん進みます」



 馬をゆっくり進めていくグリムさん。私はグリムさんに魔法の話しをしました。そして気になった点を確認することになりました。私は再び黒い世界を見つめます。



「グリムさん、今の私は魔法の目をつかうと位置関係は分からなくなります。障害物を避けながら、私の指示する方向を目指して進んでください」



 そして、1直線ではないものの、私が指さす方向にだんだんと近づいていきました。そろそろかな?と思ったところで、グリムさんに声をかけられました。



「アグリさん、お見苦しいものです。いかがしますか?」


「見苦しいとはどのようなものですか?」


「人の死体です。まだ時間は経っていないので、腐ったりはしていませんが……」


「怖かったら目をつむります」



 私はそう言って、少しずつ目を開けました。


 すると恐ろしい光景が目の前にありました。一番下に女性、女性をかばうように男性が敵と対峙、その男性と刺し違えたと思われる魔獣の羽?怖さはもちろんありましたが、もう一度魔法の目で見てみました。確かに女性の下に白い影があります。



「グリムさん、女性の下に何かありませんか?」



 グリムさんは男性を抱き上げて地面に降ろし、女性をそっと起こしました。するといました、赤ちゃんです。



「アグリさん、赤ん坊がいました。ただ相当衰弱しているようです」



 私は赤ちゃんに近寄り「ヒール!」と詠唱しました。すると赤ちゃんは泣き始め、なんとか一命はとりとめました。


 グリムさんが女性を起こしてくれている間に、私は赤ちゃんを抱きよせました。赤ちゃんは泣き続けていまいたが、今は生き残ることが先決なのでしばらく我慢してもらいます。グリムさんは現場を確認しつつ、赤ちゃんのことが分かりそうな物をさがしてくれました。そしてお母さんがつけていたスリングからメモのような物が出てきました。私はグリムさんにお願いして、お母さんからスリングを取ってもらって、私に着けてもらいました、これで赤ちゃんも少しは落ち着いてくれるでしょう。


 そして肝心のメモですが、半分は戦闘で切り裂かれてしまっていました。メモの最初の方でたぶん名前やご両親についてが書かれていたようですが読めるような状態ではありません。ですが、後半の残りの部分は判読できました!


 ご両親は白魔法士にも黒魔法士にも属さない、異端?のユニーク魔法士のご夫婦のようです。旦那さんは家宝のリュック?があって一族の者で血を染み込ませることで使えるようになるそうです?旦那さんは分解魔法を使えて、奥さんの方は移動魔法?を使えると書かれていました。どちらも聞いたことがない魔法です。そしてこれらのことを子供に伝えて欲しいと書かれていました。相当な乱文乱筆で、魔物の襲撃を知ってから書いたと思われます。


 その後もグリムさんが家の中を探してくれましたが、貧しい生活だったのか、形見にしてあげられるような物もなく、母親がつけていた髪留めだけいただくことにしました。そして父親が書いていたリュックは玄関のそばに置いてありました。


 グリムさんは魔獣についても調べていて、訓練を積んだ騎士ならば、仕留めることができる程度の魔物ですが、一般の人では全く太刀打ちできない強さのようです。赤ちゃんを命がけで守ったのでしょう。


 ご両親の願いが届いて、赤ちゃんは無事にお救いしましたからね。お2人は安心してお眠りください。


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