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76話 育ててもらった村で2

 私の負傷についてジャスミン姉さんに話しをしていると、ベン兄さんが家に帰ってきました。ベン兄さんは私を見かけると、昔と同じように頭を少し雑に撫でてくれました。



「アグリ、いろいろ聞かされていたけど、アグリの無事な姿を見て、まずはホッとした。よく村に戻ってきたな」


「はい、兄さん。これから住む場所に向かう途中で、グリム様にお願いして村へ立ち寄ってもらったのです」


「妹分のアグリが大変お世話になっているそうで、ありがとうございます」


「私はアグリさんの護衛騎士のグリムと申します。今後ともよろしくお願いします」


「アグリを護衛騎士様が守っているのですか?」


「はい、アグリさんをお守りせよと、国王陛下からのご命令です」



 この言葉に、ベン兄さんもジャスミン姉さんも目が点になるほど驚かれていました。



「王国の宝を守った功績を、国王陛下も大変評価されています。次のお住まいも王族のご静養所となっています」


「グリム様もそんなたいそうなご説明では、兄さんと姉さんが驚いてしまいます。私は静養所の所長として派遣されただけです」


「国王陛下のご厚意でお仕事をいただけたんだな。ありがたいことだな、アグリ」


「はい、兄さん。私は幸せ者なんですよ」




 しばらくすると村人にドアがノックされた。



「ベン、そろそろアグリの歓迎会が始まるそうだ。支度して広場へ出ておいで」


「はい、ありがとう」



 そろそろお暇するころとなったので、私はグリムさんにお願いして、ハンカチを2枚だしてもらいました。



「姉さん、これはあまり数がなくて村の皆さんにとは言えないの。姉さんとクミンにだけお渡しします」


「アグリ、こんな高価な物は受け取れないよ」


「いいえ、姉さん。これは私が自分で作ったものだから、気にせず受け取ってください」


「これをアグリが作った……片手でどうやって?」


「皆さんにお見せするつもりはなかったのですけど」



 私はそう言って、ジャスミン姉さんの前で魔法の手を出して見せた。



「この魔法の手のおかげで、何とか人並みに暮らせるようになったの。それで国王陛下が静養所で静かに暮らせるようにしてくださったのです」


「私には魔法のことは分からないけど、この手があれば困ることはないのね?私は安心していていいのね?」


「はい、姉さんは安心して、私のことを見送ってください」



 こうして大切な人たちとの再会を終え、歓迎会へ向かうこととなりました。




 広場には村人皆が集まっていました。と言ってもホメト村は全村民でも50人いない小さな村です。


 私たちに気づいた村長が、手招きしてきました。村長さんは、「アグリ、せっかくなので挨拶しなさい」、「はい」、私は村人の前に立たされました。



「村の皆さま、アグリです。村の皆さまに王都へ送り出していただき、魔法学校へ入学しました。ですが残念なことに事故にあってしまい、魔法学校に通えない体となってしまいました。皆さんのご期待に応えられず、本当に申し訳ございません」



 私は深々と頭を下げて謝罪した。すると村人たちは、その声に応じてくれた。



「アグリのおかげで牧場をいただいたぞ!牛もヤギも羊もいる。村に将来の夢を与えてくれたのはアグリだ!」



 そう励ましてくれました。




 私の挨拶が終わると歓迎会が始まりました。驚いたことに村では考えられないほどの豪華なお食事です。どうしたのだろう?と疑問に思っていました。


 私の様子に村長がにこやかに教えてくれました。



「アグリ、驚いただろ。領主様が皆でアグリを歓迎してやれと、豚とビールの樽とソーセージを送ってくださったのだ」


「そうでしたか、私は昨夜も領主様にご馳走になってしまいました。ありがたいことです」



 村の集まりは立食パーティーのようなものですが、私とグリムさんにはテーブル席も用意されていました。お皿に取り分けられたお料理がのせられていました。



「グリムさん、今日は魔法の手を出すつもりがないので、申し訳ありませんが、お料理を切り分けていただけますか」


「はい、かまいませんよ。とりあえず一通り切り分けるので、食べたいものがあれば言ってください」



 そして手が不自由な私に料理を取り分けてくれました。それを見ていた村のおば様方が冷やかしにきました。



「皆さま、こちらの騎士様はご領主様よりもえらいご貴族様です。気分を害されると、ご領主様が謝られてもお許しにならないかもしれませんよ!」そう脅すと、皆さんはひれ伏して、「大変失礼しました」と言ってそそくさと退散していきました。


「アグリさんは手厳しいですね」


「はい、私の大切な護衛騎士様を冷やかすなどもってのほかです!」



 脅しがきいたのか、その後は村人もあまり近寄ってこなくなって、比較的のんびりと2人で過ごすことになりました。



「村は明かりがないので、夜は月明かりだけです。でも王都に慣れると、この暗さが幻想的にもみえます」


「さすがは絵描きのアグリさんです」


「はい、きっと2度と戻ることがない生まれ故郷を見て、感傷的になっているのです。私はこの短期間に大切なものをたくさん失いましたから……」


「新天地へ向かうのです。失うものはたくさんあります。でも新天地で得られるものもたくさんあるはずです」


「そうですね、気持ちをしっかり持たないと!まだ旅の途中ですし」



 こうして村での時間を楽しく過ごしました。




 その後は村長の家のお部屋を借りて眠り、明朝に朝ご飯をご馳走になって出発となりました。村長の家を出ると、村の皆さんがそろって見送りに出てきてくれました。



「昨夜は盛大な歓迎会をありがとうございました。皆さまに育てていただいて幸せでした。これからも村が平和であるようお祈りしております」



 そして私は、グリムさんに馬に乗せてもらい、馬がゆっくり歩き始めました。村の皆さんがフラワーシャワーで見送ってくれました。この光景はあの魔法学校に向かう日の光景と同じです。昔も今も村人は、私の将来が幸せであるように祈ってくれているのです。生まれ故郷はありがたいと痛感しました。


 私とグリムさんは皆さんに手を振られながら村を後にしました。


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