表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/336

75話 育ててもらった村で1

 領主様ご家族と過ごした翌朝、朝食をご馳走になった後、育った村へ向かって出発です。領主様をはじめ、皆さまがお見送りしてくださいました。レイミ様も奥方様に抱きかかえられながら見送りに出てきてくれました。


 私はレイミ様のお側に行って、「レイミ様、昨夜はアグリと遊んでくださり、ありがとうございました。これはアグリからのお礼です。お受け取りください」と言って、レイミ様の手にハンカチをお渡ししました。


 レイミ様は喜んでくれて、「アグリ、また一緒に遊びましょう!」と言ってくれました。


 私とグリムさんは馬上から大きく手を振って、皆さんとお別れしました。




 村までは半日ほどの距離のようで、お昼を過ぎて間もなく村へ到着しました。私たちの姿を見かけた村の人たちが、村長の家周辺に集まってくれました。


 私は、集まってくれた皆さんにに向かって、「アグリです。ただ今戻って参りました」と挨拶をして、村長の家に入っていきました。村長の家の中には、村長と孤児院長が待っていてくれました。



「村の皆さまに送りだしていただきましたが、魔法学校に通えないこととなりました。皆さまのご期待にお応えできず、本当に申し訳ございません」



 私はそんな謝罪の言葉を口にしたところ、王都へ送り出してくれた日の村の皆さんの祝福を思い出し、急に涙が込み上げてきました。顔をあげられない私に、グリムさんが背中をさすりながら、「アグリさん、しっかりしなくては」と慰めてくれました。



「領主様がわざわざ村へ来られて、アグリが王都で立派なお役目を果たしたとお知らせくださった。しかし、その時の負傷で、魔法学校に通えなくなったことも聞かされている。だが、アグリの功績によって、国王陛下と皇太子様、それに領主様からもご褒美をいただき、村に牧場を作ることができた。皆がアグリ牧場と名付けて大切にしておる」


「はい、お言葉、痛み入ります」


 そして孤児院長には、「子供の時分は孤児院長と認識していましたが、神父様だったのですね。せっかく大切にお育ていただいたのですが、このように片腕を失う姿となってしまいました。申し訳ございません」


「アグリ、命があり、こうして村へも健やかな姿を見せてくれたのです。それで十分ではありませんか」



 私は、グリムさんが出してくれた子供服を神父様へ差し出して、「王都に向かうとき、村の皆様にご用意ただいたお洋服です。どうか孤児の子供たちでお使いください」


 しかし、神父様は、「アグリ、あの時の服を大切にしていたのですね。でも、孤児院はアグリを最後に孤児はいません。この辺も平和になり、親を亡くす子供がいなくなったおかげです」


 すると、村長が、「アグリをことのほか可愛がってくれた夫婦を覚えているか?」


「はい、ベン兄さんとジャスミン姉さんです」


「あの2人は結婚して、今は5つになる娘がいる。服はその子に渡してやってくれ。後で案内しよう」


「はい、分かりました」


 そして神父様が、「せっかく来たのです。教会へお越しなさい。アグリが育った場所なのですから」とお誘いくださいました。



 私たちは神父様に伴われ、教会へと向かいました。




 教会を見上げて、我が家に帰ってきた気分になりました。



 私は隣にいるグリムさんに、「この教会で育ち、この教会を囲む塀の中が私の世界でした」


 するとグリムさんは、「ここから王都へ来たのなら、さぞ驚かれたことでしょう。建物の多さも人の多さも」


「はい、確かに驚かされました。でも王都の真っ白な姿に、物語の世界なのではないかとも思いました」



 私たちは礼拝堂で礼拝を済ませ、奥の部屋へ向かいます。奥にはテーブルが置かれている広めの部屋があります。



「このお部屋で食事をしたり勉強をしたりしていました。さらに奥には子供の寝室、最も奥が神父様のお部屋がありました。伯爵家でお育ちになったグリムさんは驚かれるでしょう?」


「いいえ、それよりも、アグリさんがここで育ったと思うと感無量です。フィーネさんやミリンダさんにも見せてあげたかったです」




 教会を出ると、せっかくだからと神父様が、ベン兄さんとジャスミン姉さんの家まで案内してくれました。



「ごめんください、アグリです」とドアをノックした。


 ドアが開かれ、ジャスミン姉さんが出てきて、「アグリなのね!」と私を見るなり抱きしめてくれました。


 私は、「ジャスミン姉さん、アグリです。ただ今帰ってまいりました」と挨拶しました。


 神父様は、「ジャスミン、後は頼んだよ」と教会に戻って行かれ、私たちはジャスミン姉さんに家の中へ招かれました。




 部屋に入ると、ジャスミン姉さんは、また私を抱きしめました。でも今度は私の体を確認するようにです。



「腕を失ったのは本当の話しだったのね……」


「はい、姉さん。賊に襲われて腕を失ってしまいました。でも、お隣にいる騎士のグリム様が私の命を救ってくださったのです」



 ジャスミン姉さんはグリムさんの手を取り、「アグリをお救いくださり、ありがとうございました」と感謝していた。



「姉さんが兄さんと結婚されて、お子さんがいると伺ったのですが……」


「うん、娘が1人いるのよ。クミン、出てきてアグリ姉さんにご挨拶しなさい」



 でもクミンは恥ずかしがって、奥の部屋から出てきませんでした。



「姉さん、クミンは出てこないようですから、クッキーは私たちだけで食べてしまいましょう!」



 そう言うと、恐る恐る部屋から出てきました。



「始めまして、クミン。私はアグリです。よろしくね」



 私はそう挨拶をして、クミンの頭を優しく撫でました。


 そして、私はグリムさんにお願いして、食料の中から紅茶の葉とクッキーを出してもらいました。村では紅茶の葉などありませんし、クッキーはお祭りでもなければ出てこないものです。


 ジャスミン姉さんには、「こんな貴重なものをいいの?」というので、「皆さんには内緒です」と答えました。


 紅茶を入れてもらって、クッキーをお皿に乗せて、席に着くとようやく落ち着いて話しが始まりました。私はまず服をジャスミン姉さんに差し出しました。



「私が王都へ向かうときに、村の皆さんで準備してくれたものです。村長に相談したらクミンに渡してあげなさいとのことでした」


「大切に保管してたのね、痛みもなく、きれいなままじゃない」


「はい、魔法学校は今着ているこの制服が無料で支給されたのです。村でいただいた服はほとんど着ることがなかったのですよ」


「ええっ、そのアグリが着ている立派な服が無料なの!」


「はい、魔法学校は国王陛下の学校なので、衣食住すべて無料ですし、勉強道具も無料でした。一部の教材だけ有料でしたが、学校内のお仕事のお手伝いをすることで、十分なお給料がいただけました」


「さすがに魔法学校はエリートの集まる学校だったのね」


「そうですよ、私のクラスは10人でしたが、私を除く他の皆さんはお貴族様でしたから……」


「ええっ、お貴族様と一緒に勉強していたの?」


「はい、魔法学校はほとんどがお貴族様で、一般庶民は数人だけでした。でも、貴族の皆さんも庶民の私にとても優しくしてくださいました」


「そうだったのね……でもそんな恵まれた学校で、どうしてアグリが怪我をすることになったの?」


「学校がお休みの日に、学校の貴重な品を盗みに、外国の盗賊が学校に侵入したのです。たまたま私がそれを見つけて、グリム様にお伝えしたのです。そのことを賊に気づかれ、私は腕を撃たれてしまいました。ただ、その後にグリム様に賊を打ち取っていただいたことで、命は失わずに済みました。グリム様は命の恩人なのです」



 ジャスミン姉さんに、ついつい力説してしまいました(汗)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ