72話 グリムさんの本心
お母様と私がお母様のお部屋へ向かった一方、お風呂場を一度出たフィーネさんとミリンダさんは、再びお風呂場に戻りました。
「ミリンダ、私に協力してください」
「どのようなことでしょう?私にできることでしたら」
「アグリさんとグリムさんのことです」
「……全面的に協力させていただきます!」
「実はクリスさんも協力してくれることになっています。これからクリスさんのお部屋へ行きましょう」
2人はクリスさんの部屋へ向かいました。ドアをノックして、「フィーネです」と伝えると、「どうぞお入りください」と返事があり、2人は入室しました。
フィーネさんはクリスさんを見るなり、びしりと宣言。
「クリスさん、今夜決行です!」
「了解しました。フィーネさん」
3人はやる気に火がついたようでした(汗)
「ところでフィーネさん、何か策はお考えですか?」
「いいえ、この期に及んで気遣いは無用と思っています。ありのままをお伝えするのみです!」
「了解です。ではグリム先輩の部屋へご案内します」
3人はグリムさんのお部屋へ向かいました。
「グリム先輩、クリスです」
「どうぞ」
3人はなだれ込むように部屋へ入っていきました。話しを切り出したのはフィーネさんでした。
「グリムさん夜分失礼します。今日はどうしてもお話しがしたくて参りました」
「はい、何なりとお話しください」
「アグリさんのことはどうされるおつもりですか?」
「はい、命に代えても無事に静養所へお連れします……が?」
「そういうことを言っているのではありません!……分かりました、皇太子妃として命じます!」
その一言に部屋にいた3人が膝をついて臣下の礼をとります。
「グリムはアグリを妻として迎え入れたいと、アグリへ伝えなさい」
「はっ、謹んで拝命いたします……ですが皇太子妃様、ご命令には従いますが、このご命令は失敗に終わります。失敗の場合は私の命にて償うことでご了承いただけますか?」
「あなたが妻へと望んでも、アグリが納得しないと申すのですか?」
「はい、それは皇太子妃様も、うすうす気づかれているでは……」
「妻へとの打診はするのですね?」
「はい、ご命令ですので必ず!」
「……茶番はここまでにします。グリムさんは本当のところ、アグリさんをどう思われているのですか?」
「はい、心の底からお慕いしております……」
この言葉に3人は驚いた。でも納得でもあった。
「ただ、私が妻へと望んでも、アグリさんは絶対に受け入れてはくれません。必ず王国のために働けと言われます。それは私のためでもあれば、フィーネさんのためでもあります」
「私のため……どういうことでしょう?」
「皇太子様とフィーネさんの王国を、私に守れとご所望になります。それも他の者が及ばぬほどの貢献をせよと。つまり私には王国最強の剣士を目指せとのご要望をされるでしょう」
「……グリムさんの意見は最もですね。アグリさんならそう言いかねません。でもグリムさん、必ず求婚はしてください。それをアグリさんが受け入れないのであれば、私も納得します」
「はい、お伝えすることはお約束します。それはご命令でなくとも、私が自分の望みとして求婚するつもりでおりましたので、ご安心ください」
「グリムさん、もしアグリさんが受け入れてくれた場合は、静養所で2人で暮らしなさい。国王陛下と皇太子様へは私からお伝えしますので」
こうして、フィーネさんはグリムさんの真意を知ることとなりました。
翌朝になり、私は目を覚ましました。お母さんはもう起きていたようですが、私が目を覚ますのを待ってくれていたようです。
「昨夜のことは夢だと思っていました。でも目が覚めても、目の前にお母さんがいてくれました。なんて幸せなのでしょう」
「さあ、起きて支度をして、朝食へ向かいますよ。そして今日は、1日フィーネと過ごしなさい。今日がこの屋敷で過ごす最後の日なのですから……」
ベッドから出て、私は支度をするために自室に戻ることにしました。
「お母様、夢のような夜をありがとうございました。私の人生でもっとも素敵な夜を過ごせて幸せでした」
「アグリ、あなたが望めば、昨夜のことは毎夜にすることもできるのです。私とアグリは母娘なのですからね」
「はい、お母様。ありがとうございます。では、私は自室で支度を整えてまいります」
私がお母様のお部屋を出ると、ミリンダさんが部屋の外で待っていてくれました。
「ミリンダさん、ずっと待っていてくれたのですか?」
「それほど長い時間ではないです……」
「ミリンダさんは過保護ですね(笑)」
2人でうふふと笑いながら、私の部屋に向かいました。
朝食を終えるとフィーネさんに声をかけられました。
「アグリさん、今日のご予定は?」
「フィーネさんと1日一緒に過ごします!」
「はい、それでご予定は?」
「まずはお庭をお散歩したいと思っています」
「では、支度が整ったらテラスに集合にしましょう」
それで1度お互いがお部屋に戻りました。私はミリンダさんに頼んで布袋を用意してもらいました。布袋には皆さんに作っていただいた服とミリンダさんと作った服。肌着や靴下などの衣類。それにペンやアクセサリや私が作ったハンカチなどの小物類……それほどの量ではありませんでした。そして洋服ダンスから出したのは、白魔法士の制服と、子供の頃に村からもらった子供服。
白魔法士の制服は今回の旅の間は着用する予定でいます。静養所に着いたら白魔法士の制服は2度と袖を通さないつもりです。グリムさんが王都へ戻られたときに魔法学校へ退学届けを提出してもらうからです。
子供の頃の服は村へお返しします。孤児院の子供が着てくれたらと思っています。私も人のちょっとした善意に支えられて生きてきました。なので私もちょっとだけ、子供たちに喜んでもらえたら嬉しいです。
すべての荷物を大きな袋に詰めて、グリムさんのお部屋にお伺いし、部屋に通してもらいました。
「グリムさん、この袋がお願いしたい荷物になりますが、リュックに入りますか?」
グリムさんは念のため、リュックの中へ荷物を入れてみてくれました。
「この量なら問題ないです。もう少しなら増やしてもらっても大丈夫です」
荷物の確認を終えると、私はグリムさんから荷物を返してもらって、自室へ戻りました。これで荷造りは完了です。




