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71話 お母さんとの夜

 食事を終えると、フィーネさんと私は居間のソファーで食休み。使用人の皆さんが食事と後片付けを終え、作った服を食堂に飾り、お茶の準備が整うのを待っていました。


 しばらくフィーネさんとおしゃべりしながら待っていると、ミリンダさんから声がかかりました。



「フィーネ様、アグリ様、食堂へお越しください」



 食堂に入ると、前面に5着の服が並べて置かれ、皆さんはテーブルに着席して私たちを待っていました。フィーネさんが皆さんの前に立ちます。



「今日はお母様から差し入れがあります。お茶のお供に食べてくださいね」



 そう言うと、フィーネさんはミリンダさんへ箱を手渡します。ミリンダさんは1人1人に差し入れのチョコレートを、お茶のカップの皿の脇にのせていきました。その間に私がルール説明です。



「皆さんはお茶をいただきながら、投票する服をお選びくださいませ。皆さんから向かって左が1番で順に5番までとします。今回はご自分で作られた服への投票はできません。どの服に投票するかは私に伝えにきてください。では、皆さんゆっくりお茶を楽しみましょう」



 お茶を飲みながら相談する人もいれば、前に行ってじっくり服を見る人もいました。そして次第に私のところへ番号を伝えに来てくれる人が増えてきました。全員の投票が終わったところで、私とフィーネさんが前に出て、結果発表です。



「皆さんの投票で圧倒的な6票が投票されたのが3番のお洋服です!」



 すると2人の女性が手を取りながら喜びいっぱいに立ち上がりました。2人に前に来てもらって表彰式です。



「とても丁寧にかわいらしい服にしていただいて嬉しいです。大切に着させていただきます」



 そう言って、1人1人に景品のネックレスを着けました。ネックレスを着けられたお2人は、皆の前に並び喜びの様子でした。他の皆は拍手をして祝福していました。拍手が落ち着いたことろで、サプライズ!



「今回は特別に、フィーネ様が私に似合うと思われた服に特別賞をご用意くださいました。では、フィーネ様、発表をお願いします」


「発表します。5番のお洋服です。私はアグリさんに1番合うお色ではないかと思ったのと、ところどころにかわいらしい工夫がされていたのが気に入りました。どうぞお2人、前へお越しくださいませ」



 2人が前へでてきて、フィーネさんからブレスレットを着けてもらいます。そして2人並んで、皆にいただいたブレスレットを見せながら嬉しそうな笑顔でした。


 発表が終わると、またお茶とチョコレートに戻り、あるいは受賞した服を前に見に来たりと時間を過ごしました。


 そろそろお開きとなったところで、私は前にでて最後のご挨拶をします。



「私の出発に向けて、皆さんにお洋服を作っていただいて、本当に嬉しいです。すべてのお洋服をいただいていきます。そして静養所で着させていただきます。皆さんもお元気で日々を健やかにお過ごしください」



 私は皆さんに向かって頭を下げました。


 会もお開きとなったことで私は出口に立って、1人1人と握手しながらお礼を述べて、皆さんを送り出しました。


 そして最後に出口に来たミリンダさんに、「皆さんと最後に過ごす楽しい時間を作ってくれて、本当にありがとうございました」としっかり握手しました。




 楽しい時間を過ごした後は、3人でお風呂に入ります。そこに驚いたことにお母様もお風呂場に入ってこられたのです。



「今日は私もご一緒します。アグリの面倒はすべて私が見ますので!」



 お母様がそう宣言されて、魔法の手も消すように言われます。もう私は1人ではお風呂に入れなくなりました。


 お母様は洗い場に私を招き、体を洗いお湯で流してくれました。続いてシャンプーもしてくれて、またお湯で流してくださいました。



「アグリは先に湯船に入っていなさい」



 そうお母様に言われ、素直に従い湯船に浸かりました。


 私は先に入っていたフィーネさんとミリンダさんと共に湯船に浸かりながら、お母様がご自分を洗い終えるのを待ちました。しばらくしてお母様も湯船に浸かり、4人でのんびりお風呂でのおしゃべりをしました。そして、そろそろ上がりましょうとなって、皆でお風呂を出ました。


 お風呂を出ても私は自分では何もさせてもらえず、お母様が体を拭き、寝間着を着せてくれて、脱衣所のイスに座らされた後は、髪をタオルで丁寧に拭かれました。支度が終わりお風呂場を出たところでお母様が、「フィーネ、今夜はアグリは私の部屋で寝かせます」「はい、お母様」となって、私はお母様のお部屋へ招かれました。




 お部屋に入ると、私は鏡台の前に座らされて、髪をとかしてもらいました。最初は緊張していた私も、次第に気持ちがリラックスしてきて、とても心地良い気分になりました。



「お母様、フィーネさんにもこうして髪をとかしてあげていたのですか?」


「そうですよ、フィーネが小さな頃は毎日とかしていました。フィーネが1人で寝ると言い出すまで続けていました」


「お母様の優しい気持ちがひとくしひとくし伝わってきて、とても幸せな気持ちになります……お母様、これが母娘で過ごす時間というものですか?」


「どうなのでしょう?でもきっとそうなのでしょうね」


「私には両親がいなかったので、このような時間を過ごすことはありませんでした。母娘で過ごす時間はこのように穏やかで優しい時間だったのですね……私にもお母さんが欲しかったです」



 私は耐えきれなくなり、さめざめと泣きました。そんな私の様子を見て見ぬふりをしてくれたお母様。



「アグリ、あなたはもう私の娘よ。だからあなたにもこの時間を知っておいて欲しくて、今夜はここにお誘いしたのです」


「お母様は……本当に私のお母さんになってくれるのですか?」


「ずっとアグリに伝えてきましたよ、あなたの母になると」


「私にお母さんができるなんて、考えてみたこともありませんでした。だってそれを考えてしまったら、私はきっと壊れてしまったでしょうから……だから夢のようです。ずっと私のお母さんだと思い続けてもいいですか?」


「もちろんです。これからもずっと変わらずあなたの母ですよ」


「はい、ずっとずっと私のお母さんでいてください」



 そしてお母さんと2人でベッドに入り、お母さんは私を抱きしめてくれました。私もお母さんに甘えるように縋りつき眠りました。


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