69話 キツカお兄様ご出世!
ミリンダさんと過ごした日の夕方、キツカお兄様が大きな声を出しながらお屋敷にお戻りになりました。
「フィーネ、アグリいるか!」
この大きな声に驚いて私とフィーネさんは玄関に様子を見に向かう。何事かとお父様とお母様も玄関に来られていました。キツカお兄様は私とフィーネさん見かけると、駆け寄ってきて2人を抱きしめられながら、「フィーネとアグリに感謝している!」だそうです。私もフィーネさんも感謝される覚えはないのですけど……
キツカお兄様が少し落ち着いてから、今日あったことをお話しくださいました。
「今朝、研究所に行くと、王宮からの呼び出しが来ていたのだ。それで王宮へ出向くと、国王陛下が直々にお会いくだされ、お話しを聞かせよとの仰せ。聞かれたのは外部記憶装置の通信とフィーネとアグリの外部記憶装置を使っての対話についてだ!」
キツカお兄様は興奮がおさまらないまま、お話しを続けます。
「国王陛下は2人に聞いても詳しいことが分からず、私を呼び出したと言われた。そして今のところ分かっている内容をお伝えして、研究中の課題もお伝えした。すると国王陛下が、この件の研究を私が主任研究員として進めよとご命じいただいたのだ!」
私には詳しいことは分からなかったのですが、キツカお兄様くらいの年齢で主任研究員を任されることはないそうで、国王陛下による大抜擢とそれに加えて大変名誉なことだそうです。
「母上、フィーネとアグリにお礼がしたいので、母上の見立てで何なりと買い与えて欲しい」とまだまだ興奮気味に言われました。
お母様は、いいのね~という顔で、「お任せなさい、早速明日にも2人にプレゼントをしておきます!」
そして、お父様が、「今日はお祝いだな。スミス、急ですまないが、厨房へ祝いの席にして欲しいと伝えてくれ」となりました。
あらら、これで3日連続の大イベントが確定しました。
お父様が、「今夜も立食パーティーにして、皆でキツカを祝おう」となり。厨房も使用人も大忙しとなりました。でも皆さん楽しそうに大忙しです。
そして、お料理と飲み物が並べられ、お父様から屋敷の皆にもシャンパンが振る舞われました。
お父様がパーティ開幕の挨拶で、「キツカ、本当におめでとう。フィーネとアグリがきっかけを作ったとはいえ、キツカが日ごろから研究に取り組んできた成果だ。誇らしく思う。今後も研究に励んで欲しい。乾杯!」
「乾杯!」
皆でシャンパングラスを傾けグラスをテーブルに置くと、盛大な拍手が起こりました。皆がキツカお兄様のところへ行き、お祝いの挨拶をしていました。キツカお兄様の晴れやかな笑顔が素敵でした。
パーティーが始まりしばらくして、私はフィーネさんと使用人の女性が集まっている場所へ向かいました。
「皆さんで私のお洋服を作ってくれていると伺いました。本当にありがとうございます」
すると皆さんは、「アグリ様への送別のお品です。ハンカチのお礼です」と言ってくれました。
「作られたお洋服の出来栄えを投票をして順位を決められるそうですね。私が1位のチームに贈り物をさせていただきます。お楽しみにしてください」
「はい!」
皆さんはさらに気合を入れられたようでした(笑)
今日のパーティーは主役でもないので、お料理と飲み物を用意して、壁際の席に座ってのんびりパーティーの雰囲気を楽しんでいました。すると、隣にミリンダさんも来てくれて、2人でお料理をつまみながら、のんびりしていました。
「やはりこのお屋敷は、明るい雰囲気がよく似合いますね」
「アグリさんが来られて、だいぶお屋敷内の雰囲気が変わりました。フィーネ様もお兄様方とはあまりお話しをされていませんでしたから……」
「そうなのですか!ご兄弟で女の子お1人なので、遠慮されていたのかな?」
「フィーネ様は魔法学校に通われるようになって、ずいぶんと明るくなられたと思っていましたが、アグリさんが来れれてからは、さらに明るくなられました」
「私はフィーネさんと初めて会ったときから、フィーネさんの印象はあまり変わっていません。以前から明るく優しいご令嬢でした。フィーネさんだけが、クラスメイトで私を庶民の色眼鏡で見ることがありませんでした。それにならうように、他のクラスメイトも変わっていきました。感謝しています」
私はなんだかとてもミリンダさんと手をつなぎたくなって、ミリンダさんの右手を握ってしまいました。ミリンダさんも最初は驚いた様子でしたが、しっかりと私の左手を握り返してくれました。
「ミリンダさんとも親友です。ずっと親友です。決して忘れません。ずっとミリンダさんの幸せを遠くから祈っています」
「私も親友のアグリさんの幸せを、ここから祈っています。そして、私は必ず幸せになるとお約束します」
こうして周りの盛り上がりに反して、2人はしんみりとした時間を過ごしました……
ただ、しばらくとにフィーネさんが登場し、「何2人でしんみりしているのですか!パーティーは楽しむものです!」と絡まれました。フィーネさんがシャンパンを1杯飲んでいたことをすっかり忘れていました。
そしてまたしてもフィーネさんが眠気に抗えなくなったころで、私とミリンダさんでお部屋まで運び、その後2人でのんびりお風呂に入ることにしました。




