6話 初めての種まき
夕方になり授業を終えて学生寮に戻って早速花壇で種まき作業!と意気込んでみたものの重大懸念発生。学校内は制服着用義務があったから制服で作業せざるを得ない。おろおろしている姿をたまたま通りかかったヒビキさんに見られてしまった。
「制服で花壇の手入れは無理ですよね……」
私はしょぼんと落ち込みながら独り言を吐いていた。そんな私の姿を見かけ、見かねた様子にヒビキさんが声をかけてくれた。私は事情をヒビキさんに説明する。するとヒビキさんはひらめいた!という様子。
「使わなくなったお古の割烹着をアグリさんにあげるよ。私のサイズに合った割烹着だから、アグリさんなら全身覆えるでしょ!」
豪快に笑われた……でも助かった!寮に戻ったヒビキさんが、しばらくして割烹着を持って戻ってきた。手渡された割烹着を着て全身武装?した私は早速花壇に向かう。まずは固くなっていた土をスコップでほじくりだした。そして等間隔にまるい穴を開け種をまく準備を始める。すると何やら後ろに人の気配が……後ろを振り向くとそこにいたのは、フィーネさんとがっしりした体形の騎士様?私は不意打ちを受けたように驚き顔になる。
「フィーネさん、こんなところにどうされたのですか?」
「アグリさんが昼間お持ちだった道具を見かけたのと、今の不思議なお姿を遠目に見かけて、興味津々で見に来てしまいました(笑)そうそう、アグリさんへの紹介が遅れました、こちらは私の護衛騎士をしていただいている騎士見習いのグリム様です」
がっしり体型の騎士様を紹介してくれた。見るからに強そう、目つきも鋭い、お友達になれそうもないタイプの男性……
「初めましてグリム様、フィーネさんのクラスメイトのアグリと申します。どうぞお見知りおきください」
私は丁寧な挨拶をして頭を下げた。
「騎士見習いのグリムです。こちらこそ、よろしくお願いします。ここではお嬢様同様グリムで結構です」
やはり騎士様の挨拶は少々ぶっきらぼうのようです(笑)
挨拶を済ませ作業に戻る。種をまく穴をあけ終え、いよいよ種を埋めていく。1つぶ1つぶ穴に落としていく。隣で見ていたフィーネさんは興味津々な表情。どうしたものかと思ってはいたけど、こうまで熱視線を送られると諦めた。
「フィーネさんもやってみます?」
「はい!ぜひお願いします」
満面の笑みのフィーネさん。念のためグリムさんの方も確認すると、グリムさんは頷いて許可してくれた。私はフィーネさんの手が汚れないように、自分の左手に麻袋から種を半分乗せ、麻袋はフィーネさんに渡す。『制服だけは汚さないで!』と祈るばかり。手を汚すだけの作業をお願いするよう心がけなければ……
「フィーネさんは右端から種を落としてください」
「はい!」
気合十分の返事を残し、フィーネさんも作業に取り掛かった。私は少々心配になりグリムさんのそばへ。
「お貴族様のご令嬢に土いじりをさせて、咎められたりしませんか?」
「ばれなければ大丈夫です!」
「それって、ばれたらお咎めってことですか……」
「……」
私はたまらず涙目になると、グリムさんの意地悪そうな笑顔!ますますグリムさんと仲良くなれる気がしません……
日もだいぶ傾いて夕焼けの時間となり、私とフィーネさんでちょうど半々くらいの割合で種まきが終わった。
「この後は土を上からかぶせます。これは汚れてしまうので、フィーネさんは見ているだけですよ!」
そう伝えて、私はスコップを右手に土をかけ、左手で軽くポンポンと抑えを繰り返し作業を終えた。私もやってみたい!オーラを背中にひしひしと感じてはいるものの、ばれればお咎め……が頭から離れず、無視して作業を急ぐことにした。そしてすべての穴に土をかけ終える。
「最後にジョーロで軽く水をかけてあげれば終わりです。これは汚れる作業でもないのでやってみますか?」
「はい、是非とも!」
張り切るフィーネさんにジョーロを渡し、一つの区画にだけ一緒に水をかける。
「このくらいの量でいいです。残りの部分もかけてあげてくださいね」
フィーネさんが作業を始めて、グリムさんが「お嬢様そのくらいでと」量の調整をしてくれた。私は井戸でバケツの水を汲み、戻るとフィーネさんのジョーロに水を補給しを2度ほど繰り返し作業が完了した。
「お疲れ様です。種まきの作業はこれで完了です。そのうち芽が出てきますので楽しみにしていてください。それと、ここで少々お待ちくださいね」
そう言い残し私は自室へ戻る。まだ使用していない新しいタオルを2本手に取り、井戸でタオルを濡らして2人の前に戻った。
「庶民はこんなタオルしか持ち合わせていなくて恐縮ですが、これで手を拭いてください」
2人にタオルを手渡した。
「ありがとう、アグリさん」
「助かります」
2人に感謝の言葉を聞かされ私はホッとした。こうして種まきは無事に終了。この日から私は字の練習を兼ねて、花の成長日記をつけることにした。