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60話 パーティーの始まり

 リビングへ行くと、ご家族は皆さんそろっていた。軽装ということで、男性はズボンにシャツ、女性はワンピースで気分もゆったり。



「フィーネさん、髪飾りを貸していただいて、ありがとうございます。とても嬉しいです」


「アグリさん、よくお似合いですよ。どれをお貸しするか迷いましたが、正解でした!」



 私とフィーネさんが浮かれ気分でいると、お父様が私たちのところへ来られた。



「2人ともとても綺麗だよ。今日はフィーネが主催者でアグリが主役だ。2人でお客様をお迎えするように」


「はい、お父様」



 2人で気合を入れて、そろって返事をしました。




 その後、私は準備の様子を見るために食堂へ向かいます。使用人の女性の皆さんは別荘でお母様と仕立てたワンピースを着てとても華やかです。でもしっかりパーティーの準備をしてくれているのが、ちょっと不思議な光景です。そして私は厨房へも足を延ばし、中の様子を見ました。もうシェフの皆さんも着替えを終えていて、料理もほぼ完成しているようでした。シリルさんも鮮やかな青のワンピースを着て、お土産のケーキの箱をトレイに乗せているところでした。



「シリルさん、ケーキは間に合ったようですね、安心しました。それに箱にリボンをかけてくれてとても豪華で可愛らしくなりました」


「慌てて作り始めたとは思えない出来栄えです。使用人の皆さんも手伝ってくれたおかげです」



 シリルさんとおしゃべりをしていると、シルバ料理長が「料理を出すぞ!」と号令がかかりました。


 私もケーキを運ぼうとすると、「アグリ様は主役なのですから、お出迎えに行ってください」と言われました。


「はい、行ってきます」とお言葉に甘えることにしました。




 玄関を出るとテラスには人が集まっていました。


 来場者を眺めていると、お父様とお話しされているのは、メリル先生でした。私はたまらず、「メリル先生!」と叫び駆け寄ってしまいました。メリル先生も私を迎え入れるように抱きしめてくれました。



「アグリさん、驚くほど回復されましたね、体も心も」


「はい、メリル先生。侯爵家の皆さまが家族同然にお付き合いくださり、献身的に回復を支えてくださいました。メリル先生には落ち込んだ姿をお目にかけたきりになっていたので、今日は元気になった姿でお会いできて本当に嬉しいです」


「私も元気そうなアグリさんとお会いできて、心から安心しました。よく頑張りました。それにその右手も魔法でしょ?よく精進されたのですね」



 私はメリル先生の両手を私の両手で包むように握った。



「もうすっかり自分の手のように使えるようになりました」


「ちゃんと指も動くのですね、おまけに肌のように柔らかい。もう私には想像も及ばない魔法です」


「司書のお仕事をいただいて、白魔法の書物も黒魔法の書物も読みつくしたおかげです。いろいろ工夫をする知恵がついていました。初等部の授業を免除されたことも、結果的に私にとってはメリットが大きかったです。卒業できないまでも、高等部の教育まですべて受けることができましたから」


「そうですね、初めて会ったときは小さな少女でしたが、アグリさんは人一倍真摯に魔法に取り組んでいましたから……その結果が実を結んだのでしょう」


「はい、先生が温かく見守り続けてくださったおかげで、正規ではなくても魔法は使える人にはなれました。感謝しています」


 すると横にいたお父様が、「アグリ、積もるお話しはパーティーでしなさい。さあ、メリル先生、私がご案内しましょう」


「はい、お願いいたします」とメリル先生はお父様にエスコートされて屋敷に入っていきました。




 その後も多くの方が回復の喜びをご挨拶くださいました。そして順にパーティー会場へご案内しました。そして最後に現れたのはライザさんでした。



「ライザさん、よくお越しくださいました」



 私はライザさんの両手をつかんで感動の握手です。



「アグリ様、本日はお招きいただき、ありがとうございます」


「ライザさん、今日は様はダメですよ。アグリとお呼びください。それにしてもライザさんのお洋服はお見事ですね!」


「私の自信作だから!アグリさんにも型紙を書いてプレゼントしてあげるよ、出発前に取りにおいで!」



 といつものライザさんの口調になって、それがまた嬉しくなりました。



「はい、必ずいただきに伺います」



 私は近くにいたスミスさんに目配せすると、頷いてくれたのを確認。



「さあ、ライザさん。中へご案内します」



 最後のお客様のライザさんをお屋敷に招き入れました。




 一同が揃った様子にお父様がご挨拶をしようと前に出たところで、バタバタと忙しなく人が入ってきました。現れたのは、なんと皇太子様です!これには会場の皆が驚き、慌てて片膝をついて臣下の礼の姿勢をとりました。



「ここはアグリの送別パーティー会場ではなかったか?身分も関係ない気楽なプライベートパーティーと聞いていたのだが……」



 さすがに皆さんが困っているようなので、私は立ち上がって一言申し上げる。



「皇太子様!あまり皆さまを驚かすようなご登場の仕方はご遠慮ください。皆さまが思わずひざまずいてしまったではありませんか!」



 皇太子様はにやりと笑われた。



「それは予がすまないことをしたな。だが、予も招かれたので参ったのだ」



 そう言うと、ひまわりの刺しゅうのハンカチで手を振て皆さんに見せた。「皆もそうであろう?」と言われると、フィーネさんが立ち上がり、同じようにハンカチを持ち手を挙げて、「はい、わたくしもお招きいただいた参加者です」


 それにならって皆さんもハンカチを手に立ち上がってくれました。



「皇太子様、私の送別パーティーといえども、どうしても皇太子様のことはお名前でお呼びできませんので、皇太子様とお呼びするパーティールールでお願いいたします」


「主役に頼まれれば断り切れん、そのようにせよ」



 ようやく皆さんがホッとされたのをみて、再びお父様が挨拶に向かいました。



「今日は我が娘のアグリのためにお集まりいただき、ありがとうございます。アグリは国王陛下のご厚意で国王家の静養所で暮らすこととなり、王都を離れることとなりました。アグリの皆さまとのお別れの挨拶をしたいとの希望で、こうして皆さまにお集まりいただきました。今日は存分に別れを惜しんでいただければと思います」



 こうしてパーティーが盛大に始まりました。


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