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59話 パーティーの準備完了

 忙しい毎日を過ごしながら、ついに送別パーティー当日の朝を迎えた。朝食の席で、私はどうしてもお礼が言いたくて、お父様にお許しをいただいた。



「お父様、私のために大きなご負担をお願いしていまい、申し訳ありません。でも、このパーティの開催をお許しくださり、心から嬉しく思っております。そしてご家族の皆さまにも、いままで温かく見守っていただき、感謝しております」


「アグリ、そんなことは気にせず、存分に楽しめ。今生の別れとなってしまう者もいるかもしれん。今日を忘れられぬ日になるほど楽しめ」


「はい、お父様。皆さんと存分に楽しい時間を過ごします」




 朝食を終えると私とミリンダさんは厨房へ。まず、シルバ料理長の元へ向かう。



「シルバ料理長、今日はよろしくお願いします」と挨拶した。



 シルバ料理長も忙しい中、右手をあげて返礼してくれました。そして、いつもの調理台で準備を始めていたシリルさんと合流です。



「シリルさん、今日もよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。おいしいケーキを焼きあげて、皆さんを驚かせましょう!」



 いよいよ材料の用意が整い、調理開始となりました。しかしシリルさんの様子がどこかおかしい?



「アグリ様、その……大変申し上げにくいのですが、右手はいくら使ってもお疲れにならないのですか?」


「はい、疲れることはありませんよ。ですので何なりと申し付けてください」


「でしたら、アグリ様にはボウルの中の材料を混ぜる係をお願いしたいのです。材料を丁寧に均一に混ぜるのが味と焼き上がりに影響しますので。私とミリンダさんで材料の下ごしらえと準備の整った材料をアグリ様のボールへ入れる係をします」



 私は大きなボウルにふるいながら粉を落としていき、ミリンダさんはバターをとかし、砂糖やはちみつと混ぜていく、シリルさんは卵をときつつ全体の様子を見てくれています。



「アグリ様、そろそろ材料を入れていきますので、へらを持ってすくうように混ぜてください」


「はい」



 私は言われるまま混ぜ始めると、ミリンダさんが横からバターを少しずつボウルへ入れていく。すべてのバターを入れ終え、ボウルの中の粉気がなくなったころ、今度はシリルさんが卵を少しずつ様子を見ながら何度かに分けて入れる。十分混ざったところで、最後に細かくきざんだドライフルーツやレモン汁を入れていく……しばらく混ぜて生地は完成です。次に型が並べられ、シリルさんから指示がでます。



「私が生地を型に流し込みますので、お2人はドライフルーツを適度に置いてください」



 そう言って、シリルさんが型の底に生地を流し込む。約3分の1ほどまで流したところで手をとめて、ドライフルーツをパラパラ乗せる。



「ドライフルーツはこのくらい乗せてください」


「はい」



 そしてまた生地を3分の2ほどまで流し込む。



「アグリ様、先ほどと同じようにドライフルーツを乗せてください」


「はい」



 乗せ終えると、型が埋まるくらい生地を流し込む。



「ミリンダさん、ドライフルーツを乗せてください」


「はい」



 ミリンダさんがドライフルーツを乗せたところで、シリルさんがホッと一息。



「これで生地は完成です。後は1時間ほど焼けばケーキが完成です」



 3人で1つのケーキの下ごしらえを終えることができました。



「それではアグリ様とミリンダさんが私の両隣へ来てください。私が生地を流し入れたら、お2人はドライフルーツを乗せてください。流れ作業で一気にすべてを完成させます!」


「はい」



 シリルさんは、私の型へ生地を流し、流し終えるとミリンダさんの方へ流し、と交互に生地を流していく。私とミリンダさんは流された生地の上にドライフルーツを乗せていく……確かにとても効率よくあっという間にすべての型が完成です。



「ここまでとても順調ですし、生地も完璧にできてます。おまけにとても短い時間でここまできました。アグリ様、思い切ってお土産用のケーキも作ってみませんか?お時間は2時間ほどかかって生地まで作れますが、どうされますか?」



 私はミリンダさんの方を見て確認すると、ミリンダさんが上目遣いで時間を計算していた。



「シリルさん、2時間ということは、この作業を後2回おこなうということですね?」


「はい、2回です」


「2回目の型に流し込む時間は厳しいので、そこから先は厨房のどなたかにお手伝いをお願いできますか?」


「はい、そのころには手が空いてくる者も出てきますから可能です」


「では、そこまでならお手伝い可能です。アグリ様どうされますか?」


「2人にご協力いただけるのなら、ぜひやらせていただきたいです」


「シリルさん、お土産用の箱は厨房で準備可能ですか?」


「箱は厨房にあります。箱詰めも厨房で担当できます」


「では、シリルさんは材料の準備を、私はメッセージカードを準備してきます。アグリさんはご自分のペンとインクを用意ください」



 こうして無謀とも思えるお土産用ケーキの作成がスタートしました……




 シリルさんとミリンダさんは相当疲労されていましたが、無事に2回目の生地を混ぜるところまで終了できました。ちなみに私は魔法の手のおかげで疲れることなく終了です(笑)



「アグリさん、あまりお時間がないので、申し訳ありませんが、先にお1人でお風呂へ行ってください。私はお着替えを準備してからお風呂に向かいます」



 そうミリンダさんに指示されて、私はお風呂、ミリンダさんは私の部屋へ向かいました。ミリンダさんが、相当慌てているようで、申し訳ないことをしてしまった気持ちでいっぱいです……お風呂はあの手でさっさと済ませましょう!そう考えて、私はお風呂に入ると大きな魔法の手に替え、魔法の手からお湯の雨を降らせるイメージで「これ!」と詠唱した。最近の私は魔法はイメージしたことを具現化するものと思い込んでいたので、頭でイメージしたものを、「これ!」で魔法を詠唱している。もう魔法の名前や詠唱文など意味がないのです(笑)


 魔手のシャワー?で全身を洗い流し、きれいになったところで、魔法の手から真夏の風、それも少し強めに吹く風をイメージして、「これ!」と詠唱した。魔手から風が吹き始めたので、全身くまなく風を当て、体も髪も乾かしてしまった。さすがに髪はぼさぼさになってしまいましたが(笑)




 私がお風呂を出て、脱衣所に戻ると、ミリンダさんもお風呂に入ってきた。



「アグリさん、お風呂まだですか!……?……お風呂はあがったのですか?」


「ミリンダさんが急がれていたので、魔法でちょちょっと洗ってしまいました」



 ミリンダさんは急いで私の着替えをさせてくれた。そして最後の仕上げです。



「魔法の手をお願いします」


「はい」



 魔法の手が出たところで手袋をかぶせてくれました。もうすっかり日常の光景です。そして私を鏡の前の席に座らせ髪をとかしながら、ようやくミリンダさんが世間話を始めました。



「アグリさん、魔法とはそれほど自由に何かができるものなのですか?」


「頭で思い浮かべたことをさせるだけです。私は魔法士なら誰でも簡単にできると思っているのですけど、フィーネさんにご説明しても理解していただけませんでした」


「それは、アグリさんが特別ということですね。他の魔法士様にお仕えするときは、『ご自分の魔法でお願いします』なんて気軽に言えないと覚えておきます(笑)」


「私が魔法を探求しようと思ったのは、私が魔法の工夫を続けることで右手のような魔法が使えるようになったことを、皆さんにお伝えしてお役に立てて欲しいからです」


「ご立派ですよ、アグリさん。さて、お仕度整いましたので、リビングに参りましょう」



 ミリンダさんが私を立たたせ、最終確認。最後に、ミリンダさんが仕立ててくれたお気に入りの水色のワンピースの胸に、ブローチを着けてくれて、髪に髪飾りを着けてくれました。



「ミリンダさん、この髪飾りは?」


「フィーネ様がアグリさんのお部屋に用意しておいてくれました。本日のためにお貸くださったのでしょう。とてもお似合いですよ」


「ありがとうございます。後でフィーネさんにもお礼を言っておきます」



 こうして支度が整ったのでリビングに向かいました。ミリンダさんには1人で向かうからと言って、自分の支度に向かってもらいました。


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