58話 ご厚意で大金!
朝食の席で、「今日はファプロ商会へ行ってきます」と皆さんにお伝えした。
フィーネさんが、「私もご一緒したかたのに残念です!」と悔しがっていました。着せ替え人形参加者は1人でも少ないと、私としては助かります!
朝食を終えて、私とミリンダさんとグリムさんの3人でお屋敷を出ました。グリムさんが新しいリュックにすべての服を入れてくれたので、女性は手ぶらで楽ちんです。お店に着くとオスバンさんが店先で待っていてくれて、すぐに奥の部屋へ案内してくれました。用意されていたお部屋は広く、部屋の奥に更衣室まで設置されていて、お店で1番広い個室なのかもしれません。それに驚いたことにライザさんと一緒にリリアさんもいたのです!
「リリアさん、どうしてこちらに……」
「驚かせてしまって、ごめんなさい。昨日、仕入れで本店に来ていたのです。本日、アグリ様が来店されると聞いて1日出張を延期してもらいました」
「わざわざありがとうございます。リリアさんと再会できて嬉しいです」
挨拶が一通り済むと、ミリンダさんがリュックから服を出して、オスバンさんとリリアさんが壁際にハンガーでかけて並べていきました。並べるそばからライザさんが吟味を始めます。
「ミリンダさんは相変わらず見事な腕前!どれも素晴らしい出来栄えです」
「今回は私だけで作ってはいないのです。アグリ様もいくつかの服を作られています。アグリ様の腕前はお見事なのです」
「なるほど、どれがアグリ様のもので、どれがミリンダさんのものか判別が難しい。アグリ様の腕前も相当のようですね」
そして私は言いにくいけど、話しを切り出した。
「ライザさん、大変申し訳ないのですが、この洋服を売却したいと考えています。どうしてもお金が必要になりまして……せっかくのご厚意で安く生地を譲っていただいたのに、本当に申し訳ありません」
私は深く頭を下げて謝罪した。そんな私の姿を見てライザさんは恐縮する。
「アグリ様、気になさらないで。こうしてお約束どおり、わざわざ服を見せにきていただいたのですから……」
そしてライザさんはオスバンを見る。
「オスバン、どうなんだい?買い取れるのかい?」
しかし、オスバンさんが申し訳なさそうに返答する。
「以前もお話ししましたが、生地が最高級でカジュアルな既製服がなかなか売れないもので……」
すると横で聞いていたリリアさんが、手を上げながら発言を求める。
「本店が買い取らないなら、支店で買い取らせていただきます。支店はこういう服を求めていましたから!」
ライザさんがどういうこと?という感じでリリアさんに説明を求めた。
「支店は観光地なので、ドレスの需要はほとんどありません。そしてもちろん観光地に来られる皆さまは観光地で着る服は持ち込まれてきます。ただ、観光地特有の雰囲気で、気に入った服をさっと買われたりもするのです。今まではその『気に入った』が弱かったのです。品質が伴わないものはどうしてもお貴族様は手を出しませんから。ですがこの服は、生地は最高級でありながらカジュアルで、観光地ですぐに着るにはぴったりな服です。必ず売れます!」
「それでリリア、いくらで買い取る気だい?」
「ここに並んだ20着をすべて譲っていただけるなら、1ゴルです」
さすがにライザさんも驚いた顔をされた、でも商売人の顔に戻りひと言。
「リリア勝算ありなんだね」
「はい、確実に儲けてみせます」
「分かった、それならアグリ様からは2ゴルで買い取りなさい。この商売のアイデアはアグリ様からいただいたものだからね」
それにはリリアさんが驚かれた。
「2ゴルですか?売り上げを2ゴルと見込んだのですが……」
「だからだよ、この20着については利益は無用。その代わりこれからは、これと同品質の服を原価は低く卸してやる!」
「原価はいくらくらいで……」
「高くても30シルってとこかね。おまけにここで服を作るから、お客様のニーズに合わせて作り変えることもできる」
リリアさんがようやくライザさんの意図を理解したようだ。
「アグリ様に生地を安くお譲りできたのは、そういうことだったのですね。確かにアイデアの費用はお支払いするべきでしょう」
「リリア、逆に昨日仕入れた服で不要なものは置いていきな、この20着はすぐにでも店に並べないと、夏が終わっちまうから」
「はい、そうさせていただきます」
私とミリンダさんがポカンとた顔をしていると、リリアさんが説明してくれた。
「アグリ様は店では不良在庫のような生地を使って、高価な部類の服として売れる方法を教えてくださったのです。今後は店に大きな利益を生み出すことでしょう。そのお礼に今回はこちらの20着すべてで2ゴルで買い取らせていただきます」
「本当にありがとうございます。皆さんのご厚意を心から感謝します」
私はまた深々と頭を下げるのでした。
そしてしばらくすると、リリアさんはそそくさと帰って行かれ、オスバンさんはお金を準備してくれました。
私は残ったライザさんとオスバンさんに、「お2人に私の送別パーティーへご参加いただきたく、招待状をお持ちしました」と伝える。そして、お2人に招待状をお渡しした。ライザさんは同封したハンカチを見て驚かれ、オスバンさんは侯爵家からのパーティーの招待状に驚かれた。そしてお2人とも、「喜んで参加させていただきます」と答えてくれました。
私はまた、お2人にお礼を伝えて、店を後にするのでした。




