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57話 ミリンダさんとのランチタイム

 ミリンダさんと自室へ向かう途中、ミリンダさんが別の使用人の方に呼び止められる。その後、ミリンダさんが私のところへ確認に戻ってくる。



「アグリ様、本日はご昼食がお1人のようなのです。自室でお召し上がりになりますか?」


「はい、自室でお願いします」



 私がそう答えると、使用人の方は会釈して厨房へ向かわた。



「ミリンダさんも一緒に食べられますよね」


「はい、でも本当はダメなんですよ」



 部屋に戻るとミリンダさんは布の巻物と糸を置き、「お昼の準備とお洋服作りの道具を持ってきます」と言い残して、そそくさと部屋を出ていった。




 しばらくしてワゴンを押してミリンダさんが戻ってくる。テーブルにテーブルクロスをかけて、食器を並べる。一連の動作がテキパキしていながら流れるようにしなやか。



「ミリンダさんのお仕事には見とれてしまいます」


「どうされたのですか、急に?」


「何でもこなせてしまいますね、ミリンダさんは」


「私は裁縫が得意で、食事の給仕はどちらかと言えば苦手です。ですので、今はアグリさんのお側にいて食堂にも入りますが、専属が解かれれば食堂には入りません」


「ええっ、これほどテキパキお仕事をして、私への気配りも完璧なのに?」


「いえいえ、私などはまだまだなのです。給仕はセシルさんがお得意で、セシルさんに教えていただくことが多いです」


「でも、裁縫についてはミリンダさんがセシルさんに教えてあげることがあるのでしょ?」


「ほとんどありません。私もセシルさんに教えていただくようになったのは、アグリさんの専属になってからです」


「では、ミリンダさんは私の専属になってご苦労が増えてしまったのですね、申し訳ありません」


「アグリさん、それは逆です。アグリさんの専属になれたことで、今まで関われなかったことにも関われるようになりました。私にとっては世界が広がったようで、とても喜ばしいのです」


「そう言っていただけると、救われます」



 急にミリンダさんが、うっかりしていたという顔をした。



「うっかりお伝えするのが遅れました。ファプロ商会のライザさんから、明日の午前中でお願いしますとのことです。開店と同時に入店しましょう」


「はい、ミリンダさんは洋服の支度をお願いします。それと、グリムさんへの連絡もお願いします」


「かしこまりました。ではアグリさん、テーブルの方へお願いします。昼食の準備が整いました」



 2人でテーブルについて食事を始める。やはりミリンダさんの昼食は私のものに比べると質素です。私は自分の料理の半分を、別のお皿へ取り分ける。



「ミリンダさん、どうぞ」



 私はそう言ってお皿をミリンダさんの方へ置く。ミリンダさんは驚いた顔で私を見ている。



「ミリンダさん、何度も言ってますが、私は貴族ではありません。家族で取り分けて食べるのは庶民では当たり前でしょ!」



 ミリンダさんは恐縮しつつも料理をひと口。



「やはりお貴族様のお料理はおいしいですね」


「はい、私もこんな贅沢を覚えてしまうと、今後の生活で困るのではないかと心配になります(笑)」



 食事が終わるとミリンダさんがお茶を入れてくれて、2人でお茶を飲んだ。



「アグリさん、お気に入りの生地はワンピースにするとして、その他の生地もワンピースでいいですか?」


「山を歩くことはありそうですが、馬に乗るのは静養所に向かうときだけだと思います。ですので、ワンピースでかまいません。型紙がそのまま使えますものね」


「はい、ではワンピースの型紙をそのまま写して使います」


「もうあまり時間もないので、ミリンダさんが服作りとご自分の仕事で負担になりませんか?」


「実はスミスさんから、別荘から戻ったらアグリさんの出発の準備をしなさいと言われています。他の仕事は手が空いているときにお手伝いする程度で、今の私は仕事は割り振られていません。ですので、服作りが私の最優先のお仕事なのです」


「では、お言葉に甘えて頑張っていただきましょう!もちろん私も一緒に作らせてもらいますので」


「アグリさんは服作りより新生活の準備をしてください。薬の調合?でしたか、それが新生活の糧になるのでしたら、素材の仕入れもされた方がいいと思います。王都でないと手に入らないものも多いですから」


「なるほど、確かに王都で買いそろえた方がいいものはありそうですね。事前に調べてみます」



 その後は、私がエコを使って調合の調べ物、ミリンダさんが服作りをして過ごしました……




 夕食が終わり、毎夜恒例の3人でのお風呂。



「フィーネさん、今日はずいぶんとお疲れのようですね」


「はい、招待状をすべて配ってきました。もうへとへとです」


「ええっ、全部ですか!10枚以上ありましたよ。そんなに無理をなさらなくても……」


「私も当初はのんびり配るつもりだったのですが、王族教育で事前準備が必要になるかなとも思い、決まっている用事は先に済ませることにしたのです」


「私のために無理をさせてしまって、本当にごめんなさい」


「いえいえ、私の都合で予定を変更しただけですから。それにもう1通お渡しすれば完了です」


「不参加の人は多いですか?」


「それが驚いたことに不参加は今のところゼロです!保留の人は数名いましたが、全員出席になると思います」



 皆さんとお別れのご挨拶ができそうで安心しました。


 お風呂を出て、フィーネさんのお部屋に行くと、フィーネさんはお疲れだったのか、すぐに眠ってしまいました。私もフィーネさんと手をつないで、心の中で感謝しながら眠りました。


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