56話 お母様のお許し
朝の支度をしながら、ミリンダさんの本日の都合を確認する。
「ファプロ商会のライザさんにお洋服を見せに行きたいのですけど、ご都合はどう伺えばいいですか?」
「今日は注文にファプロ商会へ行く使用人がいたと思うので、その方に伝えておきます。お返事は午後になりますけど、よろしいですか?」
「はい、お願いします。助かります」
話しをしながら支度も整い、食堂へ向かいました。食事が始まるとお父様がフィーネさんに質問をされました。
「フィーネが王宮に行くのは明日か?」
「はい、お父様。王宮へ行って王族教育の事前説明を受けます。ドレスの採寸もするそうです。1日かかってしまうと思います」
「いよいよフィーネさんも忙しくなってきますね」
「いえいえ、私は体一つで向かえば良いだけなので気楽です。支度はすべてあちらでしてもらえますので」
「王宮に行くのが苦にならないなんて、さすがは強気のフィーネさんです!」
家族の皆で爆笑です!
朝食を終えて、部屋へ戻るタイミングでミリンダさんに耳打ち。
「ミリンダさん、お仕事が落ち着いたらお部屋に来てください」
「私はアグリさんのご依頼が最優先なので、今からご一緒しましょうか?」
「では、お願いします」
ミリンダさんは、使用人の仲間に声をかけて、お茶の道具だけそろえて、私と部屋へ向かった。部屋に着くと、ミリンダさんがお茶をいれてくれて、いつもの、「ミリンダさんもご一緒に!」で自分の分も準備してもらい、席についてもらった。
「ミリンダさんに相談することではないのですけど、他の誰にも相談できなくて……」
「お力になれるかは分かりませんが、何なりとお話ししてください」
「はい、ありがとうございます。静養所へ行ってからのことを考えたのですが、生活が安定するまでのしばらくは、お金がないと日々を過ごすことができないと判断しました。それでどうすればお金を稼げるか、アイデアがあれば教えていただきたいのです」
「お金ですか……私が最もお役にたてそうにないご相談ですね」
2人でしばらく考えていると、ミリンダさんが少々言いにくそうにしながら話しをしてくれた。
「アグリさんが現在お持ちのもので、ご自分で売却が可能なものは、ご自分で購入されたものだと思います。そこで、作られたお洋服を売却されてはいかがでしょう?」
「確かにあれだけの数は1人では多すぎます。でも、ライザさんのご厚意で譲っていただいた生地で作ったワンピースですし、売却して良いものかどうか……」
「ですので、まずはライザさんにご相談して見ていただき、ライザさんが不要なら他の人に売却する許可をいただきましょう」
「少々心苦しいですが、今はそれ以外に方法がなさそうですね」
「では、アグリさん。ライザさんに見せに行かれるまで、丁寧に仕上げたり工夫をしてみたりしませんか?」
「でも、もう糸も生地も残っていませんよ……」
「このお屋敷の中で、使用していない布の端切れなどたくさんあるはずです。奥様にご相談してみませんか?」
「はい、では早速お母様のお部屋へ行ってみましょう」
こうして私とミリンダさんがお母様のお部屋へ向かうことになりました。
お母様のお部屋へ向かう途中、外からお母様の声が聞こえた。玄関から外へ出てみると、お母様はお出かけ前のご様子でした。それでもお母様が私に気付いてくれて、声をかけてくれました。
「アグリどうしたの?私に用事?」
「はい、お母様。すぐ済みますので、お話ししてもよろしいですか?」
「ええ、かまいませんよ。どのようなお話しかしら?」
「お屋敷にある布の端切れや使わない生地をいただきたいと思いまして……」
「倉庫にあるものは自由に使ってかまいません。ミリンダ、場所は分かりますね?」
「はい、奥様。倉庫の中のものは、どれをお使いいただいてもよろしいですか?」
「ええ、アグリに見せて必要なものを出してあげなさい」
「お母様、ありがとうございます。お気をつけていってらっしゃいませ」
「はい、行ってきます」
お母様は到着した馬車に乗り込み出かけられました。
私とミリンダさんはお母様に許可をいただいたことをスミスさんに伝えて、倉庫の鍵をお借りした。そして、ミリンダさんに案内されて倉庫の部屋に入る。そこには壁一面にびっしりと積み上げられている布の巻物の山。ファプロ商会で見たものの比ではない量でした。
「はっきり言って、この布をいただいてお洋服を作ればよかったですね」
私とミリンダさんは2人で苦笑いです。
「でも、アグリさん。今まで作ったワンピースは全部売却しても、こちらの布でまた作ることができます。それを知れただけでも安心できました」
私はざっと布を見てみると、明らかにフィーネさんの服を作った残りの布の一画があった。そして私のお気に入りのワンピースの布がありました!
「ミリンダさん、これこれ!あのワンピースの生地ですよね!」
ミリンダさんも布を確認してくれた。
「はい、あのワンピースの残りのようです。シンプルなワンピースならもう1着作れそうです……アグリさん、これらの布で王都にいる間に数着作って、残りは生地のままお運びして、あちらで作られてはいかがです?」
「そうですね、こちらで慌てて作るより、あちらでのんびり作る方がいいかもしれません」
「では方針としては、もう今まで作った服はそのまま売却して、こちらの生地で新しい服を作るでよろしいですね?」
「はい、その方針でお願いします」
「ではアグリさんに似合いそうな生地を選んで戻りましょう!」
そう言って、ミリンダさんは何本かの巻物を引っ張り出して、私の体に生地をあてて確認していく。結局ミリンダさんは5本の生地を選び出した。もちろん私のお気に入りの生地も含まれている。そして、生地に合わせて糸も選び出して倉庫をでた。
スミスさんに鍵を返し、「また、お借りすると思います」と伝えて別れ、私の部屋へ向かいました。




