51話 湖畔のレストラン
工房村を後にして、湖畔のレストランへ移動。レストランは湖でとれたマス料理が有名で、特にマスのムニエルが自慢料理。近くでとれる玉ねぎのソースをかけていただくようだ。湖畔のテラス席に着くと、4人ともマスのムニエルを注文。そして間もなく料理が運ばれてくる。バターの香りと玉ねぎソースの香りで食欲がわいてくる。マスは香草で下処理されているようで、臭みもなく香り豊か。まさに絶品!
食事の後、食後のお茶をいただいているところで、フィーネさんが話しを始めた。
「アグリさんの立食パーティーは出発前の休日に開催します。学生もいるので昼間に軽装でのパーティーにしました。王都に戻り次第、招待状をお渡しして回ります。学校関係は私が渡すので良いですか?」
「はい、お願いします。ファプロ商会へは私が行って渡してきます。後はお屋敷の皆さんなので私が渡して回ります。グリムさんとクリスさんにもバタバタさせてしまいますが、よろしくお願いします」
食事を終えて、外へ向かう途中、フィーネさんが1枚のポスターに目を止める。
「ガラス工房オープン……見たい、ぜひ見たいです!」
かなりの興奮気味。ただ、ここから少し離れた場所のようです。
「私とグリムさんは先ほどの工房にリュックを取りに行かなければなりません。ここから別行動にしますか?」
「アグリさん、本当にごめんなさい。でも、どうしてもガラス工房は見逃せなくて!」
「お気になさらず、楽しんできてください。私も先ほどの工房村で行っていない工房を見て回りますのから」
「はい、お言葉に甘えて行ってきます!」
こうして別行動となりました。最近別行動が多いような……気のせいですよね?
私とグリムさんは再び工房村へ戻ってきました。
「アグリさん、先ほどはあまりじっくり見てませんでしたね。午後は時間もたっぷりありますから、ゆっくり見て回りましょう。リュックは荷物になるので帰り際に受け取ります」
「グリムさん、我がままを言って申し訳ないのですが、工房を見て回るより、湖畔へお散歩に連れて行っていただけませんか?」
「そうですね、散歩の方がアグリさんらしいです。でも湖畔に行く前に少々寄り道させてください」
それから革工房でリュックを受け取って、馬で移動を始める。グリムさんは山の手の方へ馬を進めていき、小高い丘で馬を止めた。ハイキングで行った丘とはまた違った景色。あちらは全景が見渡せるような景色でしたが、こちらは右側は小高い山が湖と接しているのが分かる。
「さらに進むと山から見下ろす景色が見られるのですね」
「はい、お貴族様の別荘は平地の景色の良い場所に建てられているので、全体を見渡すことができます。この先は山になっていくので建物は少なくなり、別荘を建てる場所も限られていくのです」
「この湖は1日で1周することはできるのですか?」
「かなり急ぎ足になりますから、観光なら途中で1泊することになります。お貴族様の別荘地のちょうど対岸辺りは、宿屋や貸別荘もあって、一般市民はそちらに泊まります。もちろんお貴族様が泊まれるような立派な宿もあります」
「一般市民も観光にくるのですか!王都民はやはり裕福なのですね。私もお金をためれば、またここへ来ることも可能なのですか?」
「はい、アグリさんでも可能です……考えてみると、アグリさんは王都民のまま?王領民となる?確認しておく必要があります。王都民のままなら、王都へはいつでも自由に帰ってこれますから」
「自由に帰れるなら、嬉しいです。私の商売が順調にいって、王都に仕入れに行くなんて日がきたら嬉しいです」
「はい、そしてお金を貯めて、ぜひまたここへ旅行に来てください。その時は私が護衛をしますので」
「嬉しいです、約束ですからね、グリムさん!」
「はい、騎士は約束は破りません。ご安心ください。それで、アグリさんの所属は国務院でも判断ができないと思うので、フィーネさんを通じて、皇太子様に確認いただくのが良いと思います。今日の夕食のときにでも、ご家族の皆様と相談してみてください」
「はい、今夜早速お伺いしてみます」
しばらく2人でおしゃべりしながら景色を堪能しました……
「グリムさん、湖畔にお連れいただけますか?」
「はい、喜んでお供します」
早速2人で馬に乗り、緩やかな坂道を下っていく。そして、道からそれて、林のようなところを抜けると小さな開けている一画がある。
「道もない林を抜けてきたので、どうみてもここは人が来ない場所です。誰にも邪魔されず、思う存分景色を堪能してください」
そう言うと、新しいリュックにしまっていた、いつものリュックを取り出した後、真新しいリュックを横倒しにして、私に腰かけるように促します。
「買ったばかりの新品のリュックに私が腰かけるのですか?うーん、さすがに申し訳ない気持ちがいっぱいです……」
「リュックは腰かける目的でもあるのですから、気にされなくても良いのですが……でもそれなら、2人で腰かけましょう。では!」
という掛け声で、2人で腰かける。
「記念すべき第1号にしていただけて、光栄に思います!」
「アグリさん、それはさすがに言いすぎです!」
そんな軽口も、2人の間には自然に出るようになったことを、知らないのは2人だけとなっていました(笑)




