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50話 工房村

 別荘の大掃除と片付けをする日の朝。朝食を済ませると、お邪魔?な侯爵家のご家族は、早々に屋敷を後にした。私とフィーネさん、グリムさんとクリスさんの4人が庭に集まって、今日はどのように過ごすかを話していた。フィーネさんが街とは対岸のレストランへ行きたいとのこと。私は困ってしまって、フィーネさんにこっそり耳打ちした。



「フィーネさん、ごめんなさい。私はもうお金がないの」


「昨日の荷物の片付けのお礼です。気になさらないでください」



 私は、お断りすることもできないの、ありがたく受け入れた。



「お言葉に甘えさせてもらいます」



 そろそろ出発となったときに、フィーネさんが私に近寄ってきて、「アグリさん素敵なブローチですね!」と褒められた。今日はフィーネさんの水色のワンピースにひまわりのブローチをつけている。私としては夏空とひまわりをイメージして着ていた。



「昨日、ファプロ商会のリリアさんとグリムさんのお2人からプレゼントしていただいたのです……似合ってますか?」


「はい、とてもお似合いです!そのワンピースと合わせると、より引き立つ印象で素敵です」


「はい、お褒めいただき嬉しいです」



 私は嬉しい気分で馬に乗せてもらうのでした。




 このままレストランへ向かうと時間が早すぎるらしく、レストランから近い工房村へ寄ることとなった。工房村は職人が集まっている村で、別荘の修繕用の部品や観光客向けの工芸品を作って販売しているらしい。私も静養所に住めば服飾類も私の収入源になってくれればと考えていたので、職人さんの庶民的な作品には興味があった。


 今日も少々遠回りになるが、湖畔の道を進むことになった。昨日が見納めだと思っていたので得した気分にもなったが、グリムさんにあのようなことを言ったしまった後なので、少々気まずくもあった。そんな私の様子に気づいたグリムさんが声をかけてくる。



「アグリさん、しっかり景色を見ておいてください!」



 グリムさんは昨日のことなど気にする素振りもなく振る舞ってくれた。グリムさんらしくて、ありがたいです。




 工房村は私の想像を超えて立派な街の規模です。1店舗ごとの敷地が広くとられていて、その分野の品ぞろえが豊富なのが分かります。まずはどんな工房があるのか、ざっと見て回り、その後に興味のあった工房をじっくり見ることとなった。木工工房、金属工房、革工房、繊維服飾工房、陶磁器工房、園芸工房、そして工房ではないけれど大きな食料品店があった。フィーネさんとクリスさんは金属工房、私は繊維服飾工房、グリムさんは革工房を見たいとなったので、フィーネさんとクリスさん、私とグリムさんで別れて見物することになった。



「まずは革工房へ行きましょう。私も革製品で気になっていた物がありまして」


「アグリさんが革ですか?何か作りたい物でもあるのですか?」


「作れるかどうかは分からないのですが、靴の代用品になるような物を自分で何とかできるものなのか、見てみたかったのです」


「静養所近くの村にも革職人はいたので、購入や修理は問題ないと思いますが、それでもご自分で作りますか?」


「はい、可能なものは自分で作りたいです。例えば、村へ行くときは職人さんに作ってもらった靴をはくにしても、静養所や周辺では自分で作った靴をはけたらいいなと思っています。王都と違ってお金を得るのは苦労するでしょうから……」


「村で作っていない物は、他の村や大きな街から仕入れてきます。ですから、アグリさんが村で作っていない物を作れば、売ることは可能です」


「そうですね、私もお薬は手始めにちょうど良いと思ってます。山から材料を得られれば、値段も抑えて村の皆さんでも手が出しやすい薬を提供できるでしょう。ただ、薬は必需品かもしれませんが、そう数が売れる物ではないので、別の物も考えていかないと、きっと生活はできません」


「村へ行って村長と話しをすれば、村で欲しい物は教えてくれます。その中でアグリさんが作れそうな物を探しましょう」



 おしゃべりしていると、あっという間に革工房へ到着、店内に入ると素材の皮、加工済みの革、革製品が所狭しと並べられていた。



「グリムさんは何が見たかったのですか?」


「私は革のリュックが見たかったのです。近衛兵団の支給品より大きい物が欲しいのです。アグリさんは靴ですか?」


「はい、私は見るだけなので、リュックから先に見てみましょう」



 リュックのコーナーに来ると、大きさの違いや素材の違い、シンプルで頑丈そうな物から、おしゃれな物までさまざま。グリムさんは見るからに頑丈そうな物の列から、いくつかのリュックを手に取ったり戻したりしていた。そのうちに店員の1人が近寄ってきた。



「どのような物をお探しですか?」


「冒険者が持つようなリュックで、近衛兵団の支給の物より大きい物を探している」


「そうなると、こちらの辺りになります」



 店員が案内してくれたコーナーは、普段使うような物ではなく、戦いに向かう兵士が持つようなリュックだった。座ろうが、投げようが、蹴飛ばそうが、びくともしないようなしっかりした作りで、おまけにリュックの横には剣が複数個吊るせるようになっている。グリムさんがリュックを見ている間に、店員さんは木剣がささった鞘2つと、馬の鞍のような物を持ってきた。グリムさんはリュックを背負ったまま、鞘を腰に結び、剣を抜いたりしまったりしていた。次に馬の鞍のような物にまたがり、背負ったリュックと鞍の位置を確認していた。そして最後に紐のような物を引っ張って、肩掛けの紐が緩んで、リュックが肩からストンと抜けるかの確認をしていた。グリムさんは真剣そのもので、まるで戦いに行く準備をしているようでした。


 結局、グリムさんはそのリュックを購入しました。名前を刺しゅうするので、品物の受け取りは午後になるそうです。お支払いの様子を横で見ていましたが、驚くほど高価でビックリです!




「アグリさん、お待たせしました。靴を見に行きましょう」


「はい、お願いします」



 今度は靴のコーナーへ移動した。靴も実にいろいろな物が並べられていた。私は実用性重視のシンプルな靴を見ていた。ここは革工房だけに革靴ばかりで参考にならないかな……そんなことを考えながらプラプラ見て回っていると、面白い物が目に入る。革を布のように編んだ靴があったのです!もしかして、革も細く切って編んでしまえば布のように扱えるのかな?



「ひらめいたって顔をしていましたが、何か思いつきましたか?」


「革も細く切って、布のように編めば、布のように加工しやすいのかな?と思いまして……」


「なるほど、革なら丈夫ですし、編めば柔らかそうです」


「はい、いただいたラビツの革を使って試してみます」



 靴はすぐにはどうこうできないと分かったので、次の繊維服飾工房へ移動です。繊維服飾工房は、繊維、生地、服、アクセサリーがあった。繊維と生地は最高級の物まで取り扱っているようですが、服やアクセサリーは庶民向けに見える。ここではお貴族様は買い物をしないと思うので使用人の皆さんや別荘地で働く人向けかな?生地は編み方や色の確認、服はデザインと部分部分の工夫の確認、アクセサリーはどんなものがあるのかの確認。ここは庶民向けの品揃えが豊富で参考になる。あまりグリムさんを付き合わせるのも気の毒なので、ざっと回って、気になった物のみ手に取って見て回った。



「グリムさん、もう充分です。集合場所へ行きましょう」



 私とグリムさんは集合場所へ向かった。幸いフィーネさんとクリスさんはまだのようで、2人で近くのベンチに座った。



「グリムさんが買われたリュックは、ずいぶんとお高い物でしたね」


「あれでも、王都で買うよりも3割くらいは安いのです」


「王都は地方に比べると、物価が高いのですか?」


「あれだけ人が住んでいますから、どうしても物価は高くなります。特に食品は高いようです」


「お待たせしました!」



 フィーネさんとクリスさんが戻ってきました。フィーネさんとクリスさんも手ぶらです。



「お2人は何も買わなかったのですか?」


「私はアクセサリーを見たかっただけなので、買う気はありませんでしたから」


 一方のクリスさんは、「お金が足らなかったので諦めました」だそうです。


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