表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/336

47話 2輪のひまわり

 ミリンダさんが休暇の日、私は朝食を終えるとすぐにフィーネさんと合流した。



「まずはパーティへの招待状ですが、これはアグリさんから出されるのは不自然なので、主催者の私が準備しましょう。招待状と一緒にハンカチをプレゼントしてはどうですか?もしもパーティーに来れない方にもハンカチはお渡しすることができますから」


「はい、その方向でお願いします。フィーネさんと私で招待状を渡すのでいいですか?」


「はい、2人で直接渡して回りましょう!」



 そしてフィーネさんは招待状作りに取り掛かってくれたので、私もシリルさんのところに料理の相談に行くことにしました。




「シリルさん、パーティーのお料理の相談にきました」


「はい、お待ちしておりました。父とも相談して料理を検討してみました」



 メモも取りたいので食堂で話しをすることになり、2人で食堂へ移動。シリルさんはお茶もいれてくれて、準備が整ったところで2人並んで席についた。



「では、パーティーの料理についてご説明します。グリス侯爵家では立食パーティーのメニューが何通りか決まっています。この何通りかのメニューは立食パーティーが数日続いても、お客様に同じ料理をお出ししない配慮です。ですので今回は立食パーティーの1番目のメニューをお出しします」


「シリルさん、教えてください。グリス侯爵家の立食パーティーはこれだ!というメニューが毎回出されるということですか?」


「はい、でもここがポイントなのです。長年多くのお貴族様が各家のパーティーメニューを工夫され続け、その家の独自のメニューが確立されていったのです。グリス侯爵家は毎回このメニューなのですが、グリス侯爵家でのみ食べられるメニューでもあるのです」


「なるほど、皆さまはグリス侯爵家のお料理を楽しみに来られるということですね、納得しました」


「ここからがアグリ様とご相談になります。決まっているのは定番のメニューで、パーティーの趣向に合わせて追加でお料理をお出しすることはよくあります。例えば、フィーネ様のお誕生日のパーティーの場合は、バースデーケーキは追加でお出しすることになります」


「はい、今回のパーティーも独自にお料理を追加することが可能で、その料理をどうするかをシリルさんと決めるのですね!」


「はい、その通りです。お料理でもデザートでも。多くなければ数品追加も可能です」


「では、お言葉に甘えて2品お願いしたいです。1品は私のトレードマークにしたいと思っているひまわりの花をイメージできるお料理をシルバさんにお願いしたいです。2品目はシリルさんと私でデザートを作りたいです。私はパーティーを中座することはできないので、時間が経っても問題ないような……!ドライフルーツのケーキがいいですね、せっかくシリルさんに教えていただいたお料理ですからお披露目したいです♪」


「2品追加で承りました。ドライフルーツのケーキはパーティー当日の午前中、アグリ様の朝食が終わりましたら調理開始でお願いします。それとこれは私のわがままなのですが、ドライフルーツのケーキも少々工夫をしたいと思います。これはアグリ様にも当日までのお楽しみでお願いします」


「はい、当日を楽しみにしています。お忙しくさせてしまいますけど、よろしくお願いします」


「はい、お任せください。それとお気にされないでください。料理人はパーティーは腕の見せ所と張り切る場なのですから!」




 シリルさんとの打ち合わせを終えて、部屋に戻る。午後からはハンカチの刺しゅうをしたいのだが、まだ刺しゅうの絵で迷っていたため、昼食まではデザインを考えることにした。このハンカチはフィーネさんにだけお渡しする特別な物。私とフィーネさんとの親友の証のようなものにしたかったので、自分が納得するまで迷いたかった……


 おおよそのイメージは決まっています。初等部1年生の夏休み。2人で初めて種をまいたひまわりは無事に花を咲かせました。そして太陽に向かって咲く花を見ていると、不思議と勇気をもらっている気になりました。考えてみるとまだ2人とも子供で、悩みもなく、将来の不安もなく、2人がお別れする日がくるなんて考えてもいなかった。今のままがずっと続くのが将来くらいに考えていたのかもしれません。今の私からみれば、『考えが甘いわよ!』って皮肉も言えるけど、今のままが将来になるって考えられることがとても素敵に思えてならない……あらら、また思考が脱線!このデザインを考えているとついつい余計なことを考えてしまうから、いつまでも決めることができないのです。


 真っ青な空にキラキラ太陽、太陽に向けて咲く2輪のひまわり……あそこが2人の始まり、今から離れて暮らすことになる2人、しばらくすれば王妃様とひっそりと田舎で暮らす世捨て人のような私の2人……今でもこれからも、それでも私とフィーネさんは何があっても親友でいられる。その気持ちは始まりの2人の頃と変わらない。それでいい、それがいい、2輪のひまわりがいい!


 ようやくこのデザインでいく決心がつきました。午後からは張り切ってハンカチを仕上げるぞ!




 そろそろ王都へ戻る日が迫ってきた日の夕方、別荘に近衛兵団の皆さんが到着された。いよいよ明日、先行して使用人の3割がお屋敷に戻る。別荘での生活もあと3日となったしまった。


 その日の夜、フィーネさんが体調が優れないとのことで、今夜は自室で過ごすことにした。明日もフィーネさんが静養なら、私はリリアさんにお別れを言いに街へ行きたいと思い始める。夕食後にグリムさんに相談してみた。



「明日は街へ行きたいのですが、グリムさんのご予定はいかがですか?」


「近衛兵団が別荘を出てしまえば、その後は予定はありません。明日で問題はありません」


「では、皆さんが出発された後に、街へお連れください」



 別荘の使用人が減って、ミリンダさんも忙しくなるでしょうし、明日はグリムさんと2人でお出かけになりそうです……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ