46話 忘れたくない景色
湖畔に残った私とグリムさん。グリムさんはリュックを地面に横倒しで置いてくれた。
「アグリさんはリュックに座って描いてください」
私がリュックに座ったところで、紙とペンとインクを渡してくれた。私は数枚の紙を横に並べると今見渡している景色と同じになるよう工夫しながらスケッチを始めた。しばらくは黙々と描き続けたが、そろそろ仕上げと思い一度紙を横に並べてみることにした。下に置いた3枚の絵と、顔を上げて見る実物の景色、なかなかの出来栄えにホッとした。私の後ろから同じように絵と景色を見比べたグリムさん。
「アグリさん、この絵は素晴らしいです!部屋に飾れば、いつでも今日見た景色を思い浮かべられそうなほどの、素晴らしい出来栄えです!」
「ありがとうございます。私もこの景気を忘れないようにと思って描きました。もう1枚描きたいので、グリムさん協力してください」
私はグリムさんを水辺近くに行ってもらい、馬の手綱を持って馬と並んで立ってもらった。
「急いで描きますので、少々お待ちくださいね」
「そんなに焦らず、自分のペースで書いてください!」
しばらくはまた黙々と描き続けた。そして完成となり、私はグリムさんに見せるために歩いていグリムさんのそばへ行った。
グリムさんに絵を見せると、グリムさんは微動だにせず見続けて、ようやく私の方を向く。
「アグリさん、お願いがあります。この絵をもう1枚、私のために描いてくれませんか?」
「はい、喜んで!グリムさんもたまにこの絵を見て、今日のことを思い出してください」
私は再び絵を描き始め、しばらくして筆を置いた。グリムさん向けの絵には、一言書き添えた。
『グリムさん、いつも私を見守ってくれて、本当にありがとうございました。アグリ』
私は再びグリムさんのところへ歩いて行って、絵を渡した。
「グリムさんのために、精魂込めて描かせていただきました」
私はそう伝えて得意げな顔をしてみせた。
でも、グリムさんは真剣な顔でつきになった。
「本当にありがとうございました。一生大切にします」
まじめにお礼を言われてしまいました。そこまで言われると私も少々照れてしまいます。照れている自分をごまかすように、グリムさんにお願いをします。
「ねえ、グリムさん。私は夕日に照らされた湖の景色が1番好きなのです。馬をゆっくり歩かせながらの帰り道でもいいですか?」
「はい、もちろんです。景色を眺めながらのんびり帰りましょう」
そして馬に乗り、ゆっくり馬を歩かせながらの帰り道となりました。
別荘に戻ると、クリスさんが私たちを待ちつつ、剣の素振りをしていました。私たちの姿を見かけて、走って近寄ってきて馬の手綱を引いてくれる。
「ずいぶんお2人遅かったですね」
下世話な視線を向けられて、私は夢の世界から一気に現実の世界へ戻ってこれました。クリスさんナイスジョブです!(苦笑)
夕食をいただいていると、お母様がお父様に相談されていた。
「せっかく新しいお洋服を作ったのですが、着る機会がありません。この際、皆にもお休みを与えてはと考えたのですが、いかがでしょう?」
お母様の意見を聞いて、お父様が思案を始める。
「休みを与えるのは構わんが、どのように与えるかが問題だ。別荘内で与えてもあまり意味はないのだろう?」
その言葉に、お母様も考え込んでしまう……
そんなとき、グリムさんが発言する。
「侯爵様、私とクリスで街まで馬車を護衛していき、街では馬車の見張りと何かのトラブルの際の相談窓口役となり、帰りも馬車の護衛をして帰ってきます。この案はいかがでしょうか?」
「それを2人に頼んでしまって良いのか?」
「はい、問題なければご命じください。ただ、私とクリスが護衛ができないので、フィーネ様とアグリ様には別荘内でお過ごしいただくことになってしまいますが……」
「フィーネ、アグリ、3日間ほど皆のために別荘内で過ごしてもらえぬか?」
フィーネさんが私の方を見たので、私も頷き返す。
「お父様、私もアグリさんも異存はありません。皆さんに休暇を与えてあげてください」
「分かった。では明日より3交代で皆に休暇を与える。今年は休暇を1日しか与えられぬ代わりに、休暇手当を与える。毎朝9時に屋敷から馬車を出すので、皆はそれに乗って街へ行くように。17時に帰りの馬車が別荘へ向かうので、それまで街で各自自由に過ごすせ。街で何かトラブルとなったら、馬車で待機している、グリムとクリスに相談するように。グリムとクリスにも護衛手当を支給する。スミスこの段取りで進めよ」
「かしこまりました」
休暇が決まって、皆さんがウキウキしている雰囲気が別荘内に溢れている中、ミリンダさんと部屋に向かった。
「アグリさん、私は休暇を辞退しますので、何なりとご命じください」
「ミリンダさん、それは許しません!お父様が休暇を取るよう命じたのを無視することになりますから」
ミリンダさんが寂し気な顔をしながらぽつりと話す。
「私は4日もアグリさんのお世話ができていません。さらにもう1日は心苦しいです。それに着ていくお洋服をまだ完成していませんし……」
「私は明日から、部屋で刺しゅうをして過ごす予定です。ですから、ミリンダさんも私の部屋で、ご自分のお洋服を作ってください。休暇を3日目の組みにしてもらうようスミスさんと調整してください」
「はい、かしこまりました」
それから2日間かけて、私はハンカチをミリンダさんはワンピースを完成させました。
「いかがでしょう、アグリさん?」
ミリンダさんが仕立てたワンピースを着て、軽やかに私の前で1回転して見せてくれた。
「とてもきれいです……そしてミリンダさんにとてもお似合いです!」
「アグリさんに選んでいただいた生地ですもの、着こなさずになるものですか!」
2人で笑いあった。ミリンダさんの笑顔が使用人の笑顔ではなく、おしゃれをして嬉しそうな、普通の女性の笑顔だった。
「明日のお休みは、思う存分楽しんできてください。私はフィーネさんと立食パーティーの支度を進めているので心配いりませんから」
「はい、お言葉に甘えて楽しんでまいります」
これでミリンダさんも無事に休暇が過ごせそうです。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
5月のアクセス数が出たのでご報告します。PVが1430、ユニークが496でした。きっととても少ないのでしょうね(汗)
それでも、拙い文章にもかかわらず、読んでくださっている人たちに心から感謝しています。
また、5月にお1人がブックマークをしてくださいました。とても嬉しかったです。ありがとうございました。評価は0でした(苦笑)
1章は全90話となっていますので、ちょうど半分の掲載となりました。現在は3章を執筆中です。2章からはダンジョン内の冒険が中心となってきます。1章を読んでくださっている人たちからは?となるかもしれませんね!
今後も細々書き続けていきますので、皆さまにも楽しんでいただけたら幸いです。




