45話 協力タッグ結成
――しばらくは、フィーネさんとクリスさんのお散歩中の会話です。
「ねえ、クリスさん、グリムさんはどうされるおつもりなの?」
「……フィーネさんがお尋ねなのは、あの2人のことですか?」
「はい、もどかしくてもどかしくて……近衛兵団の騎士様はお嫁さんの家柄はこだわるものなのですか?」
「いいえ、近衛兵団は貴族出身の者が多いですが、2男や3男がほとんどです。ですので、独立すると貴族階級から外れ、近衛兵団の肩書だけになります。近衛兵団でお嫁さん候補の家柄にこだわる人の話しはほとんど聞きません」
「グリムさんも、恋~とまでではないにしても、アグリさんを一生守る覚悟はされているのですよね?」
「はい、フィーネさんもご覧になられた街からの帰り道での魔獣討伐の姿、あれはアグリさんをお守りする一念であの強さを身につけたのです」
「アグリさんはもう結婚もあきらめてしまったようですから、絶対にアグリさんからは何も言わないでしょう。そうなると、グリムさんをどうにかするしかありません!」
「グリム先輩も、アグリさんを一生お守りする覚悟はあっても、自分の伴侶にとは言いださないと思います。グリム先輩も、アグリさんをあのようなお姿にしてしまった責任を、一生背負われるお覚悟のようですから……」
フィーネさんとクリスさんがため息まじりに出した結論は……「あの2人は強情なだけに厄介だ!」だったそうです(笑)
「クリスさん、私は決心しました。もう奥の手を使います?」
「フィーネさんに奥の手があるのですか?」
「はい、私が皇太子妃として、グリムさんに命じます!」
「?」
「……」
「!」
「クリス、そこになおりなさい!」
「はっ。皇太子妃様」
クリスさんが慌てて片膝をついて臣下の礼をとる。
「クリスに命じます。あの2人が夫婦となるよう尽力なさい、これは私からの命令です!」
「はっ、謹んで拝命いたします」
クリスさんは深々と頭を下げる。
「これでいくのはどうでしょうね、クリスさん」
「はい、もうフィーネ様の強権を発動いただく以外、あの2人を夫婦にするのは無理だと思います」
「力を貸してくださいね、クリスさん!」
「はい、喜んでフィーネさん!」
こうして協力タッグが組まれることとなりました――
2人が散歩から戻っても、私はまだグリムさんの肩を借りて眠っていたようです。
「こんな幸せそうな寝顔のアグリさんは初めて見ました。でもそろそろ起きていただきましょう」
フィーネさんがトントンと肩を軽く叩いてくれて、私はようやく目を覚ます。
「アグリさん、そろそろ昼食にしませんか?」
「皆さん、ごめんなさい。すっかり寝込んでしまったようで。すぐに昼食をお出しします」
私はグリムさんにお願いして、お弁当の袋とブドウジュースのビンを出してもらった。リュックを2つ並べてテーブル代わりにして、4隅にブドウジュースのグラスと真ん中にハンバーガーを置いて準備完了。今回はハンバーグをはさんだものと、ローストビーフをはさんだものを用意した。それに男性向けには具沢山のとても大きなもの作ってきていた。
「どうぞ、召し上がってください。初めて作ったのでお口に合うか心配ですけど……」
「いただきます!」
男性2人は早速ガブリとほおばる。そしてトロ~ンとした表情に変わり、「これは絶品です!」と喜んでくれました。
フィーネさんもひと口食べて、「アグリさん、とてもおいしいです。お料理の腕をあげましたね」と褒めてくれました!
ローストビーフのハンバーガーも、男性向けにはお肉を厚切りにして食べ応えをこころがけたので、お2人が満足した様子で安心しました。
食事の後はフィーネさんが紅茶に入れ替えてくれたので、私もリュックからドライフルーツのケーキを出してもらった。
「このケーキも初めて作りました。お味の感想を聞かせてください」
「アグリさん、このケーキもとてもおいしいです!ケーキの甘さとドライフルーツの酸味でとてもお上品なお味になっていますよ」
「フィーネさんにそう言っていただけるなら、このケーキはマスターしたと思って大丈夫ですね」
私は嬉しくなってニコニコしてしまいました。横の男性2人はガツガツ食べてばかりでしたけど……(笑)
昼食を食べ終えてからしばらくして、湖畔の方へも行ってみよう!となり、この場所は撤収となった。再び馬に乗せてもらい、今度はのんびり歩く速度で馬を進める。
「グリムさん、静養所の近くには、湖や川はありますか?」
「はい、川は流れています。静養所は山のふもとにあるので、川の流れも見下ろせます」
「王族の皆さんが静養されていたのなら、景色は絶景なのでしょうね、楽しみです」
「山を少し登った先に温泉もあります。国王陛下も気に入られていましたから、よくお供で連れていかれました。あちらに行ったらご案内します」
おしゃべりをしているうちに、湖畔に到着。馬に揺られながら、キラキラした湖面を眺めていると、自分がおとぎ話の国に迷い込んでしまった錯覚をおこす。その錯覚はとても幸せなもので、つい口から「幸せだな~」と漏らしてしまいました。
「アグリさんが幸せを感じてくれて、私もうれしいです」
そう言われ、私の声がグリムさんにだだ洩れなのに気づいた。もちろん顔が真っ赤になってしまった(汗)グリムさんの前だといろいろな表情をしてしまって恥ずかしいな……それでも私はキラキラ景色から目が離せませんでした。そんな私の様子を見ていたフィーネさん。
「ねえ、アグリさん。せっかくだからスケッチしてから帰ったら?私はもう少し馬で走りたいので、クリスさんに乗せてもらってそのまま別荘に戻りますから」
私はどうしようかな?となりながら、後ろのグリムさんに振り向く。
「せっかくなのでフィーネさんのお言葉に甘えてはいかがですか。アグリさん描きたいのですよね?」
「はい、ぜひ描きたいです」
「では、私とアグリさんはここへ残ります」
結論がでたところで、クリスさんが馬を降り、リュックからブランケットを出してくれた。1枚はフィーネさん、1枚は私に手渡してくれた。
「そろそろ馬の上は風が冷たく感じるかもしれません。念のためお持ちください」
そして2人は私たちを残して馬を走らせていきました。あんなに早く走らせて、フィーネさん怖くないのかしら?と心配になりました。




