44話 いざ、ハイキングへ
昼食後はお母様主催の女性のワンピース作成講座が開催されるとのこと。全員参加は難しいので3班に分かれて3日間で3回講座を開くことになっています。なんと講師役としてファプロ商会の職人さんをお招きしているようです。助手としてミリンダさんも参加です。
私はミリンダさんに心配をかけないためにも、自室でハンカチ作成を進めることにした。ハンカチの生地の作成中は魔手を複雑に変形させて、かつ、怪しげな動きをさせているので、あまり人様にはお見せしたくない。ミリンダさんがいない3日間で生地は作り終えるよう気合を入れる。
初日の講座を終えて、ミリンダさんが私の部屋へ戻ってきた。
「お1人にして、ご迷惑をおかけしました」
「ミリンダさんが講座に行かれている間は、部屋でハンカチ作りを進めるので、心配しないでください」
ミリンダさんにはアドバイスをもらう必要もあるので、私が作っているハンカチの生地も刺しゅうも見てもらう。ミリンダさんは本日の作成物の生地をじっくり確認。
「この質と量を今日1日で作られたのですか?もう職人のスピードすら超えていると思います」
そう言って驚かれた。やはり生地作成中の姿は見せられないようです。
その夜もフィーネさんと過ごしていた。寝る前は2人でベッドに寝そべってのおしゃべりが日課となっている。
「ねえ、アグリさん。明日は近くの草原にハイキングに行きませんか?」
「フィーネさん、ごめんなさい。明日と明後日でハンカチの生地作りを終えてしまいたいのです。生地作りはまとまった時間が必要で、途中で中断もしにくいので……」
「では3日後に行きましょう!私も明日と明後日は学校の課題を進めるようにします。別荘から戻ると王族教育を受けに王宮へ2週間行くことになっていますので」
「フィーネさんも王宮へ行かれる準備で忙しくなりますね。その前に、立食パーティーの料理と招待状のことは決めておきましょう」
「ハイキングを終えたら本格始動しましょう!」
せっかくの別荘での休暇ですが、何かとバタバタしている2人でした。
それから2日間、午前中はシリルさんにスープ作りの指導を受け、午後はハンカチの生地作りに励みと短期集中の日を過ごし、なかなかの成果をあげた。そして翌日、私とミリンダさんは朝食を済ませると、厨房へ向かい昼食のハンバーガーやおやつのドライフルーツのケーキを作っていました。今日のハイキングはミリンダさんは不参加です。昨日まででワンピース作成講座は無事に終了しましたが、もう少し教えて欲しい!との意見が多く、1日延長で質疑応答の日となったそうです。
昼食が完成して、グリムさんのリュックに昼食とおやつ、それにブドウジュースのビン2本とお水のビン2本を詰めた。担いでみると結構重い!こんな荷物を担いで馬に乗れるのかしら……と心配になるほどです。その後、ミリンダさんとフィーネさんのお部屋へ。ハイキングに着ていく服をお借りするためです。
ノックしてお部屋に入ると、フィーネさんが待ち構えていました。その目はときよりミリンダさんが見せる、着せ替え人形で遊びましょう!の目と同じです(涙)
しばらく2人でああだこうだとされた結果、ブラウスとガウチョパンツとカッターシューズに決定したようです。カッターシューズはとても履きやすくて歩きやすい。ミリンダさんは作り方を知っているかしら?
準備が整い、いよいよ出発!私はグリムさんの馬、フィーネさんはクリスさんの馬に乗せていただきました。今日は乗馬も草原を歩くことを想定してガウチョパンツを着てきたので、初めて馬にまたがっています。安定しているので、馬の速度もいつもより速く、景色が後方へ流れていくような感覚です。病みつきになりそうなスリルです(笑)
森を抜けると開けた小高い丘が見えました。丘の頂上が目的地です。緩い上り坂なので馬の速度を落として、のんびり登っていきました。丘の上に着くと、思ったよりも広い平地となっていて、確かにここはハイキングには最適な場所のようです。すでに何組かの集団やカップルが来ていたので、邪魔にならない場所へ移動して馬を止めました。馬から降ろしてもらって湖を見下ろすと、とても大きな湖だったことが分かりました。私が景色に見とれていると、フィーネさんも馬を降り私のところへ歩いてきました。
「フィーネさん、こんな素敵なところへ連れてきてくれて、ありがとうございます」
「いえいえ、私も別荘に来ると、必ず1度はここの景色を見に来ていますから」
「ボートに乗っている人たちもいるのですね、ボートにも乗ってみたかったです」
「ボートなら屋敷にもありますよ、後日、ボートにもお誘いしますね」
「本当ですか!嬉しいです♪」
私は目をキラキラさせながら、フィーネさんにお礼を言うのでした。
シートを敷いてくれたグリムさんから声がかかりました。クリスさんも馬を繋いで水をあげてから戻ってきました。
「まずはお茶を飲みながらひと休みしましょう」
フィーネさんがクリスさんのリュックから紅茶のビンとグラス、それと小さな包みを出してくれた。
「このリュックは、グリムさんとクリスさんでお揃いなのですね」
「はい、近衛兵団の支給品なのです。頑丈な作りなので、上に物を置いてテーブル代わりしたり、座ってしまう人もいます」
クリスさんがお茶の準備をしながら教えてくれました。
確かに、私とフィーネさんのグラスはクリスさんのリュックの上に、グリムさんとクリスさんのグラスはグリムさんのリュックの上にで丁度いい。2つ並べて置くと、ある程度の広さもあるでお菓子の包みは真ん中に置いてしまいました。
しばらくは4人でおしゃべりを続けていたのですが、私は昨日までのハンカチ作りの疲れが出たのかうとうとしはじめてしまったのです。フィーネさんはリュックからブランケットを出してくれてかけてくれたのですが、私はそれすら気が付かないほどでした。
「グリムさん、ちゃんと肩を貸してあげないと、アグリさん転がってしまいますよ」
フィーネさんに言われ、私の横に移動したグリムさんが、私をグリムさんの側へ傾けてくれた。
「アグリさんを起こすのはかわいそうね……仕方がないので1人で散歩してきます。クリスさん、護衛をお願いします」
「かしこまりました」
フィーネさんとクリスさんは2人で散歩へ行ってしまいました。




