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43話 どんより気分

 ラビツの皮との格闘の後、グリムさんは荷物が多いので先に戻ると言って別荘へ向かった。どうも私が落ち込んでいる様子を察して、後のことはミリンダさんに任せたらしい……私はどうしてもクリスさんから聞いたグリムさんのことが頭から離れない。



「アグリさん、何かありましたか?」


「ごめんなさい。でもミリンダさんにもお話しすることができないことなのです……」


「誰にでも人に言えない悩みはありますよ、お気になさらずに」



 そう言ってミリンダさんは優しく肩を抱いてくれた。私はうつむいていることしかできなかった。



「私はミリンダさんとお別れしたら、辛いことがあっても誰からも慰めてはもらえなくなるのですね……」


「グリス侯爵家に残ることはできないのですか?一生でなくても、せめてアグリさんの生活基盤がしっかり整うまでとか」


「グリス侯爵家にいる日が長引けば長引くほど、お別れするのが難しくなると思います。それに1人になったときの辛さが耐え難いものになりそうな気がしてます。今でも身を引き裂かれる思いをしていますから」


「私がご一緒しましょうか?2人なら洋服作りや編み物をしながら細々生活していくことはできると思います」


「それはいけません。ミリンダさんが不幸になってしまいます。私はこんな体になって結婚も子供を授かることもあきらめました。だからこそ、ミリンダさんはお嫁さんになり、お母さんになり、子育てをしながら年をとっていく……そんな平凡な幸せをつかんで欲しいと心から願っているのです」


「アグリさんお1人だけが不幸を背負って去っていかれるおつもりですか?それは周りの人間も不幸にします!」


「そこまでこれからの人生を悲観していません。私は魔法を探求したい。片腕を失ってもやっていけると思えたのは魔法が使えたから。工夫とひらめきでできることがどんどん増えていきます。そのうち空も飛べるようになって、ミリンダさんのところへ気軽に会いに行けるようになるかもしれません!」


「そうですね、前を向いて生きていけるのが、アグリさんの強さで持ち味です」


「はい、生まれたときが最も不幸だった私は、残りの人生は幸せしかないのです。こう考えるとうらやましくなりませんか?」



 2人で泣き笑いです。話しをして落ち着いてきたところで、別荘に戻りました。




 その後、ミリンダさんと厨房へ行って、シリルさんと顔を合わせる。



「シリルさん、2点お願いがあります。お時間大丈夫ですか?」


「はい、アグリ様の料理指導の時間をもらっているので大丈夫です」


「では1点目、私の送別パーティーをお屋敷で開催する許可をお父様からいただきました。そしてパーティーは、お屋敷の食堂を使って立食パーティーをしたいと考えています。立食パーティーなら身分やマナーを気にせず済むかと思いまして」


「なるほど、良いお考えです。それでどのような方々をお招きするのですか?」


「侯爵家のご家族と、お屋敷でお勤めの皆さん、それと私の学校関係の人ですか……そうそうファプロ商会のお2人もお誘いしたいです」


「少々お待ちください!お屋敷でお勤めの皆さんとは……私やミリンダさんとかですか?」


「ええ、もちろんです。皆さんに招待状をお渡しします」


「私は人生初のパーティーの招待状です。何を着ればいいのでしょう?マナーなんて詳しくないですし……」


「だから立食パーティーです。着るものは、別荘滞在中に作るお洋服がいいかもしれません。皆さんでお披露目できますし」


「それは素敵なアイデアです!楽しみ過ぎて待ち遠しいです」



 シリルさんは大喜びで乗り気になってくれた。安心しました。



「それで、シリルさんと相談なのですが、全員をお呼びするので、料理や配膳、食器の片付けをどうしたらいいか悩んでます」


「なるほど、でもその心配は必要ありません。立食パーティーならある程度作り置きが可能なお料理となりますし、配膳や食器の片付けなど、皆が手の空いたところでササっとやってしまいます。そうですよね、ミリンダさん」


「はい、使い終えた食器やコップなど、私たちがそのまま放置などありえません。側仕え魂が放置を許しません!と冗談はさておき、皆で少しずつ協力して動くので、ご懸念にはおよびませんよ」


「はい、ではその点は皆さんを頼ってしまします。料理はフィーネさんも含めて、近いうちに相談させてください」


「かしこまりました」


「では2点目、シリルさんにお料理の基本を教えていただいていますが、保存がきくという観点も必要かと思い始めたのです。1人で作って食べるので、日持ちがしないと傷んでしまうのではと思いました。まぁ、庶民の生活に戻るので、パンとスープやシチューとたまに贅沢して干し肉やチーズをいただくくらいでしょうけど」


「アグリ様、本当に庶民の暮らしをされるのですね。分かりました、今後は昼食の素材に縛られず、メニューを決めて作っていきましょう。材料も手に入りやすいもので考えてみます。メニューは父とも相談してみます」


「はい、よろしくお願いします」



 今日の昼食はサンドイッチいうこともあり、メニューを決めた明日から料理指導再開とすることにして、厨房を後にしました。


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