表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/336

42話 グリムさんの苦悩

 翌朝、朝食を終えた後、私はグリムさんに声をかけた。



「この後、フィーネさんと用事を済ませたら、昨日の皮を白くしてみたいので、湖畔までご同行をお願いします」


「了解しました。外で薪を割っていますので、用事が済んだら声をかけてください」



 そこでグリムさんと別れ、フィーネさんの部屋へ向かう。でも私はフィーネさんの部屋には向かわず、クリスさんの部屋へ向かう。



「クリスさん、アグリです。少々お話しをさせていただきたいのです」



 クリスさんが慌てた様子でドアを開けてくれた。



「アグリさん、どうされました?」


「クリスさんに伺いたいことがあるのです」



 クリスさんは私を部屋へ入れるかどうか迷ったようですが、私の真剣な表情に気圧されるように、中へどうぞと招き入れてくれた。部屋へ入ってドアを閉めると、私はクリスさんに早速確認します。



「クリスさん、騎士様の強さは短期間に急成長されることがありますか?」



 クリスさんは、何となく私が聞きたいことを理解されたようです。



「騎士は長年の鍛錬を積み重ねて少しずつ強くなっていきます。ただ、死ぬほど追い込まれるような場面で、自分の限界を突破したり、怒りに誘発されて力が湧き出たりすることはあります。でもその強さは一時的なものだと思います」


「その一時的な状態を何度も繰り返し行うと、限界を超えた力を自分の力にすることがありますか?」


「死ぬほど追い込まれた状態を、何度も繰り返すのですよ。精神が崩壊すると思います。常人ならば……」



 私はうつむいて考える、でも聞かずにいることはできない。



「クリスさん、グリムさんはそこまでの鍛錬を続けられているのですか?」


「お話ししないとダメですか……分かりました、これから正直にお話しします。でもアグリさんの心の中にだけ、留めるとお約束ください」


「はい、必ずここだけのお話しにするとお約束します」


「アグリさんが大怪我をされてからのグリム先輩の鍛錬は常軌を逸しています。鍛錬の量もですが、その質がとても濃密というか殺気すら感じさせるほどなのです。一振りの素振りが、まるで命をかけた真剣勝負の一振りのように、全身全霊をかけて振るのです。そんな素振りは私でも数回もすれば倒れてしまうほどの疲労を感じます。自分の持てるものをすべて吐き出して剣を振るのですから……でもグリム先輩はその素振りを毎日、何百回も何千回もするのです。途中で意識を失って倒れたり、体力が底をついて倒れたり、そんなグリム先輩の姿をもう見飽きるほど目にしています」


「私がそこまでグリムさんを追い込んでしまったのですね……」



 私は泣き崩れました。ただ、そんな私をどう慰めればよいか困りながらも、クリスさんは話しを続けてくれます。



「今度は確実にアグリさんをお守りする!その一念でグリム先輩は動いています。誰にも止められません。きっとアグリさんでも無理です。アグリさんをお守りするのが、グリム先輩の使命となってしまいましたから」


「私が死んでも止められませんか?」



 クリスさんはギョッとした顔で驚かれる。



「きっと無理でしょう、グリム先輩ですから。それよりも、アグリさんがこの世を去ることで、自分の役目を終えたとお思い、後を追われる可能性もあります。だからアグリさんも不用意な発言はお控えください」


「はい、分かりました。私はグリムさんに深い心の傷を負わせてしまったにもかかわらず、グリムさんのために何もしてあげられないようです」



 私はクリスさんに礼を述べ、部屋を後にした。気持ちを切り替えて平常心。私がグリムさんにしてあげられるのは知らん顔だけのようです。自分がとても情けない……




 私は別荘の裏の出入口から外へ出ると、薪割をしているグリムさんと、側で割った薪を運ぶミリンダさんの姿があった。



「お待たせしてごめんなさい。私の用事は済ませてきました」



 その声を聞いて、2人も薪を片付けて、3人で湖畔へ向かいました。3人で歩きながら、私は質問です。



「皮を白くするにはお湯で煮るのがいいとあったのですが、本当なのでしょうか?」


「私もお湯で煮ると聞いたような気がします。灰汁で煮るという話しもあったような……確かな記憶ではありません。グリム様はいかがですか?」


「私も正確な情報は持ち合わせていません。アグリさんは魔法を使って漂白を試みるのですよね?皮は6枚あるので、いろいろ試す方向でいきましょう。せっかくなので灰も持って行きましょう」



 グリムさんは私とミリンダさんを先に湖畔へ向かわせ、自分は準備のために別荘へ戻ってくれる。グリムさんは往復ダッシュで追いつくつもりのようです……ちゃんと追いつきましたね(笑)




 湖畔に着くと、グリムさんは皮を出してくれた。私は右の手のひらを上にして、手のひらを大きな円形にするイメージを浮かべる。魔手がそのように変化する。その手のひらの中央にグリムさんが1枚の皮をのせてくれる。さらに私は手のひらをボールにするイメージを浮かべる。手が変化する。ボールの中を熱湯で8割程度満たすイメージを浮かべ、「ボイル」と詠唱。今のところ想定した形は完成!



「この後は腕を振り回すようにして洗ってみましょうか?グリムさん、私をしっかり押さえてください」


「了解しました」



 グリムさんは踏ん張るようにしながら、左側から私をしっかり抱きしめてくれた。私もグリムさんの首元に左手を回ししっかりしがみつく。



「ではいきます」



 その掛け声で、私は右腕をブンブン回しはじめ、10回ほど回すと腕を止めた。手のボールを網のボールのイメージに変える。中の熱湯だけが下に落ちる。さらにボールの下から上へ向かって強風を吹かせるイメージを浮かべ、「ウインド」と詠唱。皮をボールの中を踊るように舞わせて、乾燥していく。頃合いをみて、最初の大きな手のひらの状態に戻すと、ミリンダさんとグリムさんが皮を確認してくれた。



「確かにきれいにはなりましたが、もう少し白くなって欲しいですね」



 それがミリンダさんの正直な意見。残る方法はミリンダさんの記憶にあった灰汁を使う方法。灰汁はないので、単純に灰と熱湯で皮を洗う方向で3人の意見がまとった。グリムさんは木箱に大量の炭と布袋を何枚か用意していて、布袋に炭を詰めてくれた。私は、大きな手の魔手を出して、ミリンダさんが1度洗った皮と、洗っていない皮の2枚をのせ、グリムさんが炭の詰まった布袋をのせる。



「では!」



 気合を入れて、ボールの形に変形させ、「ボイル」と詠唱。グリムさんに支えられながら、右腕をブンブン振り回す。10回振り回して、網のイメージで変形させてお湯を抜き、一旦大きな手のひらに戻す。グリムさんに布袋を取り除いてもらって、再びボールのイメージと、「ボイル」の詠唱を繰り返してすすぎをした。そして汚れも落ちたところで、網のイメージと「ウインド」と詠唱。大きな手の魔手に戻して2人に確認してもらう。



「2枚とも同じ白さです。それにこの白さなら合格です!」



 2人に太鼓判を押していただき、漂白レシピは確立です!


 ただこのレシピ、私は1人でラビツをやっつけることはできないと思うので、グリムさんに差し上げます。もらったグリムさんも魔法が使えないからレシピの使い道はないかもしれませんけど(笑)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ