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41話 グリムさん強い!

 レストランへ向かう道すがら、ミリンダさんが私に耳打ちしてきました。



「アグリさん、そろそろ手元の資金がありません。ワンピースの仕立てで不足した場合の糸代程度を残すのみです」


「私がこちらを出発するまで間に合いそうですか?」


「はい、それは心配ないと思います。何かあればすぐにアグリさんへご相談します」


「はい、よろしくお願いします」



 しかし、ひそひそ話しは、フィーネさんの知るところとなっていたのでした……




 レストランへ着くと、テラス席は満席で店内の席になると言われ、席へ案内された。ミリンダさんはキツカお兄様もいるので、同席に躊躇していた。



「ミリンダ、かわいい妹たちの世話をいつもしてもらっているお礼だ、一緒に食事をしなさい」



 そう言ってくれた。ただ、さすがの私も、「お兄様ありがとうございます。大好きです!」は遠慮しておいた(笑)


 キツカお兄様は、パスタとラザニアとピザを適当に選んで、皆で取り分けて食べることにした。考えてみると、私は外食は初めてだった。興味がわいてきたので、メニューを見てみることにした。



 キツカお兄様は、「アグリ、何か追加で頼みたいのか?」と気にされてしまった。



「いいえ、キツカお兄様。私は外食が初めてなので、メニューとはどのように書かれてるものか確認しているところです」



 皆は私の初の外食発言に驚いていた。それで私は説明を始める。



「そもそも小さな村には、お店すらありません。ですので、村の中ではお金を使うことがありません」



 その説明を聞いて、皆はまた驚いていた。そしてキツカお兄様に質問される。



「では、どうやって欲しい物を手に入れるのだ?」


「収穫を終えると、各家に村の代表者から収穫物が支給されます。そしてそれを元手に、村人同士や行商の人相手に物々交換をして必要なものを手に入れます。私も王都を離れたら、きっと物々交換の世界に戻ることになると思います」



 私が存分に皆さんにカルチャーショックを与えていると、料理が次々に運ばれてきた。手慣れているので、料理はミリンダさんが取り分けてくれ、グリムさんがアイスティーをグラスに注ぎ、クリスさんがお皿とグラスを配膳してくれました。


 私とフィーネさん、女子力低いです……(涙)




 その後は、キツカお兄様が本が欲しい、フィーネさんはチョコレートケーキをお母様のお土産に、クリスさんが靴下に穴があいたので……それはミリンダさんが私が直します!となった(笑)各々の希望の店を回ってから、別荘に戻ることになりました。


 馬に揺られてのんびりの帰り道、突然グリムさんが右手を横に突き出して、「停止!」で馬の歩みが止まった。グリムさんが馬から降りながらクリスさんを見ると、クリスさんもうなずいて馬を降りた。「クリス、アグリさんを頼む」と言って、クリスさんに手綱を渡し走り出す。「了解しました」手綱を受け取ったクリスさんは2頭の手綱を両手で持ち、グリムさんの動きを注視していた。グリムさんの走りは、まるで風のようで、人とも思えない速度で森へ駆け行ってしまった。そして何かを見つけたようで、方向を変え腰の剣を抜きつつ何かに切りつけた。動きは無駄なく滑らかに、まるで風になびくような柔らかさなのに、そこには殺気からくる恐怖を感じさせた。グリムさんの動きは止まらず、振り下ろした剣を横に振り、さらに走ってまた縦に振り下ろした。それでグリムさんの動きは止まり、何かをした後、こちらに戻ってきた。



「グリム先輩、ラビツですか?」


「あぁ、6匹いた。近衛兵団に報告が必要だな。クリスはキツカ様と共に別荘へ戻ってくれ、私はアグリさんと街に戻り、近衛兵団に報告してくる」



 グリムさんの馬が元来た道を引き返すように走り出す。そしてグリムさんに謝罪される。



「お帰りが遅くなってしまい、ご迷惑をおかけします。どうしても魔獣を見つけたら報告が必要なので」




 そしてあっという間に街へ戻り、近衛兵団の出張所に向かった。出張所に着くと私を馬から降ろし、一緒に建物の中に入っていった。守衛が近寄ってきて、お互いに敬礼。



「近衛兵団第1騎兵連隊所属のグリム1等騎士です。グリス侯爵家の客人の護衛中にラビツを6匹仕留めたのでご報告にきました」


「ご報告感謝します。具体的なお話しをそちらでうかがわせてください」



 挨拶の後、個室に案内された。


 個室に入っても2人は座ることもなく、壁に掛けられて詳細な地図で場所や状況を共有しているようだった。そして袋から動物の皮のようなものをだして、守衛さんが数を確認、グリムさんがあちらの……のような仕草で、守衛さんも頷いていた。グリムさんは皮を袋に戻すと。私の方へ戻ってきた。



「お待たせしました、アグリ様、報告は済みましたので、別荘へお送りします。現場まで近衛兵2名が同行することをお許しください」と敬礼した。


「グリム、お勤めご苦労でした」



 私もグリムさんの調子に合わせておいた。


 そして3頭の馬で、先ほどの現場まで来て馬を降り、手綱を持ちながら、辺りを確認していた。そして、グリムさんと2人の兵は敬礼して、さらに2人の兵は私にも敬礼。



「ご協力に感謝いたします」



 近衛兵のお2人に感謝されたので、私は会釈を返しておいた。


 再びグリムさんが馬に乗り、ようやく帰途についた。別荘へ戻って馬を繋ぎ、別荘に歩いて向かう。その途中で私は尋ねた。



「グリムさん、報告の時に私が何かかかわったと報告されていましたね?」


「はい、アグリさんが第1発見者だと報告していました」


「第1発見者には何かあるのですか?」


「はい、魔獣から取れた素材は第1発見者が優先的に受け取ります。近衛兵団の関係者の場合は王国の物となってしまいますので」


「先ほど報告の際に袋から出していた皮のようなものが素材?ですか?」


「はい、ラビツの皮はうまく加工できれば白い毛皮になります。アグリさんの裁縫のお役に立つかと思い、第1発見者はアグリさんと報告したのです」


「そうでしたか、ありがとうございます。今夜にでも毛皮の加工方法を調べておきますので、明日はグリムさんも加工のお手伝いをお願いします」


「はい、了解しました」



 その日の夜は夕食後にフィーネさんとお風呂に入って、そのままフィーネさんの部屋へ。2人でベッドに寝転んでおしゃべりしていましたが、2人とも疲れていたらしく、いつのまにか眠っていました。


 日課は手付かずで、制作も進まぬまま、1日お買い物のみとなってしまいました。でも悪くない日だった気がしました。


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