40話 リリアさんとの出会い
朝食を済ませた後、フィーネさんが私の部屋へ迎えにきてくれました。お父様にパーティーの相談に行くためです。フィーネさんは部屋から出てきた私の手をとり、手をつないでお父様の部屋へ向かいました。
フィーネさんは部屋の前でドアをノックします。
「フィーネとアグリさんです。お父様に相談があって参りました」
「どうぞ、お入り」
お父様は2人が手をつないで入室してくる姿に何かな?という様子で見ていましたが、「ソファーへどうぞ」とすすめてくれた。
ソファーへ座るとフィーネさんがしっかりお父様を見つめながらお願いを始める。
「アグリさんの送別パーティーをさせてください。そしてそのパーティーは私に任せてください」
お父様はまだ理解できていない様子だ。
「何か考えがあるのだろう?それをまず聞かせて欲しい」
今度は私が話し始める。別荘への移動時の昼食のこと。女性にはハンカチをプレゼントするが男性には何もないこと。皆との最後の思い出作りに立食パーティーにしたいこと。拙い部分もあったけれど、思いのたけはすべてお父様へお話しした。
お父様はうんうんと頷きながら私の話しを最後まで真剣に聞いてくださった。
「2人の気持ちはよく分かった。2人に送別パーティーは任せる。スミスとシルバには話しをしておくので、相談して進めなさい。それと、クラスメイトや他の人も参加して欲しい人がいれば、グリス家として招待状を出しなさい。服装は略装とすれば誰でも気軽に参加できるだろう」
私とフィーネさんは飛び上がらんばかりに喜んで、お父様へお礼を伝える。
するとお父様は言いにくそうに、話し始める。
「アグリ……私にもハンカチをプレゼントしてくれると嬉しいのだが……」
私は念のため持ってきたプレゼントのハンカチをお父様へ手渡した。
お父様は受け取り広げてみた。
「これをアグリが糸から作り出したのか?それにこの刺しゅうもアグリらしさが出ていてとても良い。ぜひ私の分もお願いしたい」
「お父様にもお作りします。ところでお父様、男性でもこのハンカチを喜んでいただけるのでしょうか?」
「もちろんだ。アグリが心を込めて作った品だ。男性でも嬉しく受け取るはずだよ」
「では、急いで男性の分もお作りして、皆さんへプレゼントします」
「楽しみにしているよ、パーティもプレゼントも」
こうしてお父様の許可をいただき、2人は満面の笑みでお部屋を後にした。そして、その足でお母様のお部屋へも行き、お父様からパーティーの許可をもらったことを伝えた。お母様のも協力してくださるとのことで安心しました。
お父様にハンカチのプレゼントをお約束したけど、材料の糸が足りない……どうしたものかしら?私が思案をしていると、フィーネさんが声をかけてくれた。
「アグリさん、どうされました?」
「男性の分のハンカチも作るとなると、材料が足りないのです……」
「それなら街に買い物に行きましょう!街にはファプロ商会の支店もありますから」
「別荘地に街があるのですか?」
「別荘地だからこそ街があります。多くの貴族や大店のご家族がここに来るので、街も大繁盛のようですよ」
「私とフィーネさんはグリムさんとクリスさんに連れて行ってもらえますが、ミリンダさんはどうしましょう?」
「それならキツカお兄様もお誘いして、ミリンダのこともお願いしましょう」
早速2人で、キツカお兄様のお部屋へ向かった。お兄様は読書をしてのんびりされていたが、「暇を持て余していた」と了承してくださった。
さらにその足で厨房へ行ってシリルさんに、今日は6人は昼食が不要なことと、料理の指導はお休みさせてくださいと伝えた。
皆の準備が整ったところで3頭の馬が街へ向けて歩き出しました。
馬を預け街に入る。街はそれほど大きくはないけれど、どの店もいわゆる高級店ばかり。別荘地向けの街だから庶民向けの店はいらないということなのでしょうか?まずは目的地のファプロ商会へ向かった。フィーネさんとキツカお兄様は何度か店に行ったことがあるようで、目的地まで迷いもなく案内してくれた。
店内には女性3人で入り、男性3人は近くの店を見物しているそうです。店内に入ると、案内係の女性が対応してくれた。ミリンダさんが必要な糸と量を伝えて店員さんが商品の準備を始めてくれた。私とフィーネさんは店内に飾られている洋服を見て回った。もちろん私は買う気はまったくないのですが、フィーネさんは目がキラキラしていて危険です(笑)
私も洋服作りの参考にと真剣に見ていた。そんなとき、きちっとした服装の女性が私に声をかけてきた。
「失礼ですが、そのワンピースは私共の店でご購入いただいたものでしょうか?」
その日はたまたまフィーネさんからお借りしているお気に入りの水色のワンピースを着ていたからでしょう。
「はい、本店のライザさんが作られたと伺っています」
「突然ですみませんでした、私はこちらの店の支配人でリリアと申します。どうぞお見知りおきください」
お貴族様にされるような丁寧な挨拶をされた。まぁ、最初は仕方ないですね。
「初めまして、アグリと申します。グリス侯爵家でお世話になっておりますが、貴族ではありませんので、お気遣いは必要ありませんよ」
「そのワンピースを本店で見て、ぜひこちらで取り扱いとお願いしたのですが、お貴族様のご注文の品と聞いて残念に思っていたのです。こうして再び見ることができて嬉しいです」
私とリリアさんが話していると、そばにフィーネさんが戻ってきた。
「リリアさん、ご無沙汰しております」
「いつもごひいきいただき、ありがとうございます。少し大きくなられましたね、それに大人っぽくもなられて、よりおきれいになられました」
「リリアさんにそう言っていただけると、嬉しくなってしまいます。私を少女時代から見続けていただいていましたから……」
フィーネさんは子供の頃から毎年別荘に避暑にきているので、ファプロ商会にも毎年寄っていたそうです。なので、リリアさんはフィーネさんの成長を毎年見てこられたそうです。
「本日はどのようなご用向きで?」
「アグリさんのハンカチ作りに必要な糸をいただきにきたのです。今、商品をそろえていただいてます」
「奥でお待ちになりますか?」
リリアさんは個室をすすめてくれた。
「こちらの洋服を見せていただいているので、このままこちらでお願いします」
「この店では、アグリ様がお召のワンピースに勝るものは、残念ながらございません。ライザの渾身の作品ですので」
「はい、私もそう思います。生地といい、デザインといい、細かな飾りといい、さすがはお師匠様という感じです!」
「アグリ様はライザから洋服作りの手ほどきを受けているのですか?」
「アドバイスをいただく程度です。ただ、道具は一式頂戴しました」
リリアさんが驚きの表情に変わる。
「アグリ様はよほどライザから見込まれているのですね。ライザはあまり人に教えたりはしないので、道具まで譲るのはよほどのことです」
「私が体が不自由なのを知っているので、それで同情してくれているのでしょう。この間も作成中のワンピースやハンカチを確認してくださいました」
「失礼ですが、ライザはそのとき何と言っていましたか?」
「お店で売れるレベルとお世辞を言われました(笑)」
「いえいえ、アグリ様。ライザはおべっかは使いません。ライザが店に出せるというのなら、アグリ様の作られた物は、当店で扱わせていただいても問題ないものです。自信を持ってくださいませ」
私はそこまで言われて、嬉しいやら恥ずかしいやらになってしまう。
「リリアさん、そんなにお褒めにならないでくださいませ。照れて顔が赤くなってしまいます」
そんなおしゃべりをしていると、商品が入った袋を持ってミリンダさんが戻ってきた。
「お待たせしました。ご要望の物は一式揃いましたので、ご安心ください」
私たち3人がリリアさんに挨拶して店を出ようとすると、リリアさんは急に「もう少々お待ちください」と言って店の奥に消えていった。そしてしばらくして、袋を抱えて私たちのところに戻ってきた。
「アグリ様、これは私の私物なのですが、編み物の道具と毛糸が少々入っています。私は職人から支配人の職に仕事替えになりましたので、道具はアグリ様に使っていただきたいです」
「リリアさんにとって思い出のある大切な道具なのではないですか?」
「使われない道具こそ道具が可哀そうなので、ぜひアグリ様がこの子たちを使ってやってください」
「では、ありがたく頂戴します。必ず編み物もマスターして、いつか作品をリリアさんに披露させていただきます」
リリアさんのご厚意にお礼を述べて、ありがたくいただいて帰ることにした。
こうして買い物が終わり、私たちは店を出た。外には待ちくたびれた男性3人。次はランチのできるお店で決まりだそうです(笑)




