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37話 別荘とお洋服

 実験を終えて数日後の夕方、フィーネさんから次の休日から夏季休暇が取れると聞いたお父様が皆に告げられた。



「次の休日から別荘へ向かう。急で予定が合わない者は自分の都合で参加せよ。また、フィーネが8月中旬から王宮で過ごすこととなっている。よって7月いっぱいは別荘で過ごすつもりだ。また、アグリも8月上旬に出発させる。そのつもりでいてくれ」



 別荘は王都から北へ馬で1日の距離らしく、大きな湖の周りにお貴族様の別荘地が広がっているそうだ。カイトお兄様とレイスお兄様は仕事の関係で少し遅れて参加となるが、その他の予定に皆は異存はないようで、この計画で確定となった。驚いたことに、お貴族様の別荘地への移動には、近衛兵団の護衛がつくそうだ。


 また、お貴族様移動の前に使用人の3割が先に別荘地に行って別荘の支度をするそうで、貴重な荷物も運ぶために、近衛兵団に依頼して希望者を護衛として臨時に雇い移動の同行をしてもらう。お手当てが高いので人気のある依頼のようだ。グリス侯爵家では、レイスお兄様が近衛兵団所属なので、そちらの所属部隊を窓口に依頼をされる。今年はお父様がご自分で馬に乗られるそうなので、女性3人が馬車に乗って別荘地に向かうこととなった。




 自室に戻ったところで、私はミリンダさんに確認する。



「あちらで料理、裁縫、ワンピースの仕立て、ハンカチの生地の作成、ハンカチの刺しゅうはしたいと思っているのですけど、可能でしょうか?」


「料理は料理人と調整が必要ですが、その他の作業はアグリさんと私の2人でできますので、どれも可能です。お荷物も大きなものはありませんから」


「そろそろ支度も終盤です。ミリンダさんにも協力をお願いします」


「アグリさんに1つ提案があります。ハンカチは贈り物なので、アグリさんに頑張っていただくとして、ワンピースの仕立てはもうアグリさんも覚えられましたし、他の人にお手伝いをお願いされてはいかがでしょうか?」



 そう言われてみると、上手い下手はあるものの、これは訓練次第でどうにかなりそう。作成手順はもう覚えて1人でも問題はなくなっている。



「ミリンダさんの言われるとおりです。皆さんにお願いしたいと思います。ですが皆さんお時間はあるのかしら?」


「別荘に静養に行かれるので、侯爵家の皆さまはのんびりですし、使用人もお屋敷にいるよりも仕事は少なめです。希望者だけに空き時間でお願いするなら、負担になることはありません。奥様とご相談されるのが良いと思います」




 早速、昼食をいただきながら、お母様にお話しをしてみました。



「あら、楽しそう。私もフィーネも新しい服を作ろうかしら。思い切って、女性の使用人の私服を全員分作るのも楽しそうね!」



 もっと話しが大きくなってしまいました。お母様はファプロ商会のオスバンさんに使用人の私服を作るので、屋敷に採寸と生地を見繕って持ってきて欲しいと依頼、その時に可能ならライザさんも呼んで欲しいとお母様にお願いをした。お母様とフィーネさんはファプロ商会へ出向き、そちらで採寸と生地選びをすることになった。




 数日して、お屋敷の食堂にたくさんの生地の巻物が並べられ、その一画には採寸をしてくれる女性が数名控えていました。手が空いた人から順に食堂へ来てもらい、生地を選んだあと、採寸もしてもらう流れ作業になっていました。


 私はその合間に、ライザさんにこっそり自室に来てもらって、ハンカチやワンピースの出来栄えを確認してもらった。私とミリンダさんは試験結果の発表を待つような気分でライザさんの意見を待つ。そしてライザさんは、「大変良い出来です。お店で売れるレベル!」と褒めてくれた。特にハンカチの生地にも刺しゅうにも驚いていて、私が1人で作ったとは思えない出来栄えだと大絶賛!お貴族様にお渡ししても恥ずかしくない品だと言われて安心です。ライザさんには作ったワンピースのお披露目会は後日お店に伺ったときにと約束して、食堂の作業に戻っていただいた。




 私も食堂へ戻ると、そろそろ採寸も終わりの様子。



「ミリンダさん、採寸はまだでしたよね、私はここにいますから、採寸に行ってきてください」


「アグリさんにお願いがあります。私の服の生地を選んでいただけないでしょうか?」


「ええっ、ご存じのように私は服の善し悪しが分からないのですけど……」


「アグリさん、そんなことはございませんよ。ハンカチの刺しゅうを見れば分かります。アグリさんは素敵な感性をお持ちです。今回の服を私はアグリさんと過ごした日々の思い出にしたいと思っております」


「分かりました。では生地を一緒に見て回りましょう」




 そして生地を一通り見て回った結果、1つの生地を選んだ。



「この生地の色が私のミリンダさんの印象そのものです!」



 私は淡い黄色の生地を選んだ。



「優しく温かく、いつもそっと包み込んで守ってくれているような、そんな印象でした。ミリンダさんもこの生地も」



 ミリンダさんが目にいっぱいの涙をためて、私に抱きついてきた。



「いつもと逆になってますね」



 私もミリンダさんを抱きしめてしばらくの時間を過ごしました。




 しばらく経ってようやく、落ち着きを取り戻したミリンダさん。



「アグリさん、大変失礼いたしました」


「いいえ、ミリンダさん。私もきっとこれから何度もミリンダさんに同じことをしてしまうでしょうから……」



 そんな2人のそばに、お母様が近づいてきてきた。



「ミリンダはこの生地にするの?とてもお似合いよ。いっそこの生地でアグリもお洋服を作って、ミリンダとお揃いになさい」



 私とミリンダさんは揃って、「ありがとうございます」と言いながらお母様に頭を下げるのでした。




 採寸を終え、片付けも終わったところで、オスバンさんとライザさんがお母様に最後の挨拶をしに向かった。その時、お母様の表情が面白いことをひらめいた!となった。挨拶を受けると、2人に何やら話だし、オスバンさんとライザさんは驚きながらも、「かしこまりました」という感じで帰っていかれました。お母様は何を企んでおられるのやら……


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