33話 キツカお兄様との挑戦1
それからの私はめまぐるしいほどの忙しい毎日を過ごしていた。朝食が終わると、洗濯、掃除、裁縫、料理。昼食が終わると市場への買い物、ワンピースの仕立て、ハンカチの生地の作成。夕食後はエコとの調べ物、ハンカチの刺しゅう。もうおっかなびっくり歩いたり、魔手をそっと動かしていた頃が嘘のように、小走りするわ、魔手で裁縫するわと右腕を失ったことをすっかり忘れるほどでした。特にハンカチの生地を織る作業は小型の編み機と魔手で作成しているため、もう手作りとは呼べないのでは?と自分でも疑ってしまう程です。
そして私がここを去る前に、どうしてもやっておきたかった調べ物。エコを使って調査を続け、ようやく糸口がつかめてきた。そこで、思い切って三男のキツカお兄様に相談することにした。
私は夕食の後にキツカお兄様に教えていただきたいことがあると伝えると、後で部屋に来なさいと言われた。お許しをいただいて、私は差し入れのチョコレートケーキを持って、キツカお兄様の部屋へ伺った。甘いものが大好きなキツカお兄様はチョコレートケーキのお土産に喜び、お茶の用意を指示されて、私に何なりと質問しなさいと言ってくれた。
「キツカお兄様、短波の思念を長波の思念に変換して送信する方法をご存じですか?」
キツカお兄様は、幼い妹からのいきなり高度な質問に驚いた、しかし回答は実に明確なものだった。
「ある石を使うことで波長を変えることができる。その変えた波長を増幅して飛ばせば可能だよ」と答えてくれた。
「アグリがどうしてそんなことを知りたくなったの?」と逆に質問された。
そこで私は自分の考えを正直に話し始めた。
「魔法学校の校長先生から魔道具をいただきました。その魔道具は外部記憶装置です。この外部記憶装置と私は手に触れて思念で対話をしていますが、考えてみると、外部記憶装置同士は、触れ合うこともなく情報共有しているので、思念を長波で飛ばしてやり取りしているのではないかと考えたのです」
「アグリの今の話しは、かなり高度な話しで、一般の人では知りえない情報だ。どうやって手に入れたの?」
「外部記憶装置からです」
「アグリが管理者権限を持っているの?学校の外部記憶装置なんて図書室モードだろうに」
「はい、図書室モードでした。でも、私が管理者だったので、すべてを検索するモードに切り替えました」
「となると、アグリはこの王国の文献はほぼすべて閲覧可能ってことか!」
「ええと、そうなるのですか?」
「それも知らずに使っていたのか!」
キツカお兄様はしばらく頭を抱えていたけど、気を取り直して話しを戻した。
「それでアグリは長波の思念を飛ばして何をしたいの?」
「思念が飛ばせれば、私も外部記憶装置に触れることなく、外部記憶装置と対話できるのではないかと考えたのです」
「でも手で触れているのは、魔力の供給も同時に行っているからで……」
「はい、それも次の質問としてキツカお兄様に教えていただきたかったのです。魔力は何かに保存することができるのかと……」
「アグリは当家の白い杖を使っているのだから、何となく想像はできているでしょ?」
「はい、それでこの件は専門の方に伺えば実現可能ではないかと思い、キツカお兄様に質問にきました」
「なるほど、もうできると確信してここに来た訳か……はっきり答えるとできる!我が家の外部記憶装置は古いものだが……」
「ちょっとお待ちください、キツカお兄様。このお屋敷にも外部記憶装置があるのですか!」
「侯爵家の屋敷だもの、外部記憶装置くらいは備わっているよ。見たことない?地下に置いてあるのだけど」
「すみません、地下に行ったのは、杖をお借りしに行くときに1度だけなもので……キツカお兄様、もう1つ質問させてください!」
「いいよ、何でも聞いて」
「私の最終目的は、私とフィーネさんが遠隔でおしゃべりすることなのです。私が外部記憶装置に語り、私の外部記憶装置からフィーネさんの外部記憶装置に送られ、フィーネさんの外部記憶装置がフィーネさんに伝える。これなら手紙も送れれば、お話しすることもできます!」
「ハハハッ、アグリはずいぶんと壮大な夢を描いてるな、フィーネとのおしゃべりのために(笑)」
「はい、親友のフィーネさんとは遠く離れても、いつまでも親友でいたいですから」
「よしよし、そのアグリのやる気に免じて手伝ってやろう!ただ、かなり金がかかる」
私は一瞬にして血の気が引いた。
「キツカお兄様、お金がかかることは私には不可能です。今の私は一文無しですから……キツカお兄様、この件は諦めます。お忙しい中お時間をいただきありがとうございました」
私は一方的にそう伝え、がっくり肩を落としながら部屋を出ようとする……
「う~っ、分かった分かった。かわいい妹達のために私も協力する。白結晶石だな!私の個人研究用に持っているものを提供する。この家の外部記憶装置とアグリの外部記憶装置で実験してみよう」
私は嬉しさのあまり、キツカお兄様に抱きついた!
「キツカお兄様ありがとうございます。大好きです!」
だいたいそんな時なのです、お茶を持って使用人が戻ってくるのは……(笑)




