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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
4章 大陸に生きる者編
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48話 ラール港で過ごすルディア国王

 国王陛下と王妃様をお連れしているとはいえ、人気のない港町は穏やかな日差しに照らされて、時折吹く潮風と遠くに聞こえる波の音と海鳥の鳴き声が心地よささえ感じさせてくれる。2人の娘を連れてくれば、大はしゃぎで海や港町を駆け回ることだろう。こんな穏やかな港町を人々は命の危険を感じながら逃げるように去っていったとは、とても想像できなかった。


 この港町を国王陛下は本気で取り返すおつもりのようだ。もちろんルディア共和国だけで成し遂げるのは難しいだろう。そのための3国王が集まっての会議を開催されるお考えだ。


 ただ、僕の正直な考えは、この港町すら人の住める領地にするには、どれほどの年数が必要かも想像することができない。もちろん、ただ単に人を連れてきて、港の外から衣食住を提供すれば人は生きていくことはできるだろう。でもそれでは籠の中に住んでいる小鳥と大差ない。衣食は他国からの輸入に頼り、住環境の改善すら自らの手ではままならない。ハリメデ王国の元国民ですらこの港で暮らすのは厳しいと感じるだろう。


 少なくとも食は自ら生産しなければ、安心してこの港が自分の住まいとは思えないだろう。幸い海が近いので魚介類は食料として自給は可能だ。その反面、魚介類は主食にはならないだろう。どうしても小麦や米は必要になる。そうなると住人の1年を通して供給可能な量を生産できる広大な土地は必要だ。それも安心して農作業に取り組める安全な場所が。


 僕が少し思案してすらこれだけ難題が想像できる。国王陛下も同様にお考えだろう。さて、国王陛下のお話しを聞かせていただきましょうかね。




「まずは皆に礼を言いたい、ラール港の現状をこの目で見ることができるとは想像もしていなかった。ラール港は思いのほか荒廃はしていなかった。だが、人が住むとなるとかなりの整備は必要となるようだ。幸いなことは港としては簡単な修復で、すぐにでも使用できそうなので、物資の搬送は可能だろう。難易度はともかく、ラール港の復興が可能なことは確かなことだと認識できた」



 皆さんが真剣な表情で国王陛下のお言葉に聞き入っている。国王陛下のお言葉を精査してみても、国王陛下のお考えに異論はないだろう。さらに国王陛下がお言葉を続けられる。



「公爵、奥方、2人には港を人の手に取り戻す先兵として働いてもらうことになる。それは2人も想定されていただろう。そこで2人にはこの港を取り戻すために、どんな支援が必要かを聞かせて欲しい」



 やはり国王陛下もどこまでの支援が必要かを知りたいようです。うーん、この質問の答えはとても難しい。どこまでの健全な街としての回復を望まれるかによるからだ。まずはそこをお聞きしてみないとね。僕はアスカの顔を見ると、アスカは僕の手の上に手を乗せて、僕が自分の思いを発言するように促してくれる。



「国王陛下、ただ今のご質問にお答えするには、もう少し国王陛下のお考えをお伝えいただく必要があります。ご質問に質問でお答えする形になり恐縮ですが、まずは私の問いにお答えください」


「ああ、かまわない。何なりと尋ねるがよい」


「ありがとうございます。では、お答えをお願いします。国王陛下はラール港をハリメデ王国奪還の拠点としてのみお考えですか?それともこの街に住む者が、子供や孫の代までの繁栄を望めるような永続可能な街にしたいですか?」


「なるほど、儂の覚悟を聞いておるのだな。ラール港については手始めは拠点の役割になってしまうであろう。ラール港に住まう者は他国の支援によって生きることになる。だが、それはあくまでハリメデ王国再建がなるまでの話しだ。もちろんハリメデ王国だけの話しではない。デモーナ王国もリエット王国も人の住む国に再建する。ポージャ王国を再建するかは分からんが、北端の領域を人の住む領域に取り戻すまでが最終目的だ。それが大陸王の末裔である儂の使命だと覚悟している。もちろん儂の代ですべてを取り返せるほど簡単ではないことは承知をしている。そこは心配いらん」



 僕はその国王陛下のお答えを伺って、手に乗せられているアスカの手を、逆に僕が握り返す。アスカはピクリと反応したけど、僕の方を見ることもなく、正面の国王陛下を見ながら僕の発言を待っている。



「お答えをありがとうございます。そうなると、ラール港の機能回復と魔獣の討伐を並行して進めることになるでしょう。港の機能回復にはツバイスさんを責任者として動いてもらうのがいいでしょう。魔獣の討伐は私と妻で引き受けます。まだ他の人に任せるには荷が重いでしょうから。国王陛下をはじめとする3国王には、ラール港で人が住むための支援物資の準備と、魔獣討伐のための軍の人員手配と装備の準備をお願いします。ラール港が機能し始めたところで、ダンジョン近くに軍の拠点を築きます。ダンジョンの魔獣発生をコントロールできるようになれば、王国内を闊歩している魔獣を順次討伐していくことになるでしょう。これは現存の3王国が戦後長年やってきたことを始めるのと同じことです」


「公爵の意見は理解した。ただ、公爵の考えでは公爵と奥方の負担が大きいのではないか?」



 その国王陛下のお言葉には、アスカが答えてくれた。



「国王陛下のご心配はごもっともです。ただ、これを見越して創造主様は私と旦那様に多くのお力をお貸しくださり、また、夫婦として出会わせてくれたのでしょう。娘たちと会える時間が減るのは寂しい限りですが、創造主様のご期待にお応えしないわけにはいきません。人生をかける覚悟を持って、大陸を人の手に取り戻したいと思います」


「うむ、公爵と奥方の決意はしかと受け取った。ルディア共和国も公爵夫妻と同じ方針とし、メリオス国王とフィル国王に進言しよう」




 国王陛下はお茶を飲み終えると、港の脇にある岬の先に建つ城の視察も望まれた。飛び箱で城の庭まで飛んでいき、ここでも辺りを皆で最大限警戒しつつ着陸する。やはり城内もシーンと静まり返っており、生も動も感じるものは何もなかった。ざっと城内を見回った後、僕たちは再び飛び箱の前に戻ってくる。再び城を眺めながら国王陛下がゆっくり口を開かれる。



「この城はまだまだ使えるようだな。この城は公爵の城とし、今後はグラン城と名乗るとしよう。公爵、奥方、好きに使ってくれ。必要な物はルディア共和国で用意する」



 ええっ、僕とアスカのお城ですか!僕とアスカはポカンとした表情のまま、お礼だけ言うのが精いっぱいでした。王宮のお部屋ですら過分な賜りものなのに、僕とアスカのお城ですよ。どうすればよいのやら……


 僕とアスカはあわわしたまま、皆さんを飛び箱に乗せて、無事にルディア共和国の王都に帰還するのでした(汗)


いつも読んでいただき、ありがとうございます。

久しぶりに掲載することができ嬉しい限りです。

ストックはまったくないので、のんびりペースでの掲載再開になってしまいますが、これからも読んでいただければと思います。

これからもよろしくお願いいたします。

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