表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/336

32話 ライザさんとの出会い

 洋服選びを終えて、お店の4階へ上がった。4階も部屋の構造は一緒だが左の部屋は騒がしい。



「騒がしくて、すみません。左の部屋は職人の部屋でして、糸をつむいだり、生地を織ったり、裁縫や服の制作をしています」



 私たちは右側の部屋へ案内された。部屋に入るといろいろな素材と色の糸、それらで織られた生地、作成途中と思われる同じ形で色違いの服の数々とまさに倉庫だった。すると私たちの姿を見て、年配の女性が近寄ってきた。



「あれ、ミリンダさん?久しぶりだね」


「はい、ライザさんもお元気そうで何よりです」



 そんな挨拶を交わしていた。そしてミリンダさんが私を紹介した。



「こちらは侯爵家で静養されているアグリ様です。今日は生地や糸をいただきにまいりました」


「初めまして、アグリと申します。本日は、よろしくお願いいたします」


「ご丁寧にご挨拶をありがとうございます」



 お互いに挨拶を交わした。オスバンさんが先ほど選んだ服をライザさんに見せる。



「このレベルのお召し物を作りたいそうで、生地と糸をご案内してください。それと、ハンカチを作られるそうで、生地を織る糸と刺しゅう糸、かぎ針に刺しゅう針に刺しゅう枠もご所望です。それとこちらを」



 そう伝えて、ライザさんにメモも渡した。男性2人は用事がないので近くの席で休憩となり、女性3人で生地を見始めた。ライザさんは悩みながら話し始める。



「ちょうど品ぞろえの少ない生地なんだよ。庶民では高すぎるし、貴族様や大店のご家族では手を出さないし……」



 私はライザさんにも事情を説明した。



「ライザさん、私は庶民なのです。ですが事情があって国王家所有の静養所で生活することになりまして……」


「なるほど、事情は理解しました。お貴族様たちに不快感を与えず、庶民的な生地でということですね。はっきり言ってありません!」



 私とミリンダさんは、「そうですか……」と肩を落とした。そんな姿を見てライザさんは、「でも2人はついてますよ、お店では売られていなくても、ここにはあるのです」と言って奥の倉庫のような一画に案内してくれた。そこには所狭しと生地の巻物が置かれていた、でも先ほど見た巻物より明らかに細い。



「ここの生地は仕立ての注文で使った生地のあまり。なので生地はとても高級なのだけど、お金持ちの皆さま向けの服を作るには生地がたりない。でも、シンプルなワンピースを作るくらいなら問題ない。だけど庶民がこの生地の服を着るのは無理がある。だから、アグリ様に丁度良い生地ってことです。おまけにもうこの生地の代金は仕立ての時にいただいているので、格安で提供できますよ!」



 私とミリンダさんはにんまり笑顔になってしまいました(笑)



「先ほどの服を見る限り、シンプルでエレガントな感じが好みのようで。でしたら……」



 ライザさんが何本かの生地を見繕ってくれた。それをライザさんとミリンダさんで私の体に生地をあてがったり、2人で何やら言い合いあったりしながら2つの山に生地の巻物を分けていく。おまけに2人は棚の方まで行って、追加で山のような生地の巻物を抱えて戻ってくる。そしてまた、私の体に生地をあてて……これは完全に着せ替え人形でしょ!


 ようやくすべての生地の選別を終えると、なんと採用になった生地の巻物は20本ほどにもなっていた。



「いくら何でもこんなに買えません!お金は少ししか持っていないのですから……(涙)」


「ご心配には及びません。ライザさんのご厚意で、100シルのお支払をいすれば、気に入った生地を持っていきなさいとのことです」



 私がポカンとした顔でいると、ライザさんが語り始める。



「そのワンピースは私が作ったものです。侯爵家様のたくさんの洋服の中からアグリ様が選んでくださったと聞き、お礼がしたくなっただけです」



 にっこり笑顔を向けてくれた。さらにミリンダさん!



「ただし、条件が1つあります。ここでいただいた生地で作ったワンピースは、アグリ様が着用されて、ライザさんにお見せするのです」



 あぁ、やっぱりこの2人に、着せ替え人形にされていたんだ……




 ライザさんは若い女性を呼んで、生地の巻物とメモを渡した。どうやら生地に合わせた糸の準備と型紙の作成を依頼したらしい。顔が引きつっていたのは、依頼された型紙の数ですよね、きっと!そしてライザさんから質問を受ける。



「最後はハンカチを作る材料ですが、糸から生地を織るのはとても大変で、もうどなたも生地を買われるご時世です。本当に作られますか?」


「実は私は右腕を失ってしまって、それで侯爵様のご厚意でお屋敷で静養させていただいているのです。そしてようやく体も回復したので、お屋敷を出ることになりました。それで皆さまに回復しましたと伝えたくて、手作りのものをお送りしたいと思いついたのです」



 ライザさんが驚いた様子で確認してくる。



「それでは、この前国王陛下から発表された魔法学校の事件の被害者ってアグリ様なのですか!」


「はい、お恥ずかしいですが、私です」



 ライザさんはキッとした顔つきになって、「分かりました、私にお任せください」と言い残し部屋を出ていった。


 そしてしばらく待つと、何やらいろいろ入った布袋を持ってきてくれた。



「これは私が仕事で使っていたもの、これでハンカチ作りも刺しゅうもできるでしょう!ハンカチの生地が織れる小型の編み機も入れておいたので、アグリ様でも時間をかければ片手でなんとか編めると思います。それと、この紙の束は私が職人の頃にメモして取っておいたもの。きっとお役に立ちます!道具の詳しい使い方はミリンダさんに教えてもらってください」



 そうまくしたてるようにしゃべり続けられてしまった。でも、ライザさんのご厚意に感謝です。その後、刺しゅう用の糸やタオルなどを作るための材料を購入した。そして最後に、オスバンさんたちのところへ戻り、オスバンさんとライザさんが何やらやり取を始めた。オスバンさんがもの凄い嫌な顔をしながら、結局了解した様子がこちらにも伝わってきた。


 ライザさんは一礼して仕事へ戻られたので、私たちも最初に案内された2階の部屋に戻った。オスバンさんはしばらく書類に何やら書き込み、書き終えると私の前に書類を向けた。



「本日のお買い物は合計で300シルでございます」



 私は驚いた顔で、「オスバンさん、金額をお間違えですよ。何か商品が抜けていないですか?」と言って、私たち3人も購入した商品の明細を確認した。確かに抜けはない。


 私はまた驚いて、「最初に購入したワンピースの値段が安くなってますね?」


 するとオスバンさんが、「ライザの指示で、少々古くなったワンピースなのでお値引きしないと……あのワンピースをこの値段で売ったとなれば、侯爵家様からお叱りを受けると脅されたもので……」


 私はせめてもと思い、「ファプロ商会さんのご厚意で、大変お安くしていただいて感謝しているとお母様にはお伝えしておきます」


 オスバンさんも、「アグリ様にそう言っていただけると、こちらとしても、とてもありがたいです」


 こうして初めてのおつかいは無事に?終わりました。大きな荷物を抱えたグリムさんがお気の毒なほどでした(笑)




 ちなみにこの日の夜、フィーネさんのお部屋にワンピース姿で伺い、ワンピースをお借りしたことを伝えました。



「アグリさん可愛い~!お似合いですし、アグリさんに差し上げます♪」



 だそうです。こんな高価なものはいただけません!


お金の単位ですが、お金にはカパ、シル、ゴルの3種類があり順に高価です。材質も順に高価な金属が使われています。1カパは1円で考えています。1000カパで1シル、1000シルで1ゴルになります。なので、1ゴルは100万円になります。ちなみに硬貨は1が穴あき、10が穴なし、100が大きい硬貨です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ