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名もなき少女から始まった、魔法士の系譜  作者: みや本店
4章 大陸に生きる者編
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40話 王の資格と指輪

 僕とアスカは並んで壁の前に立つ。2人とも緊張している。



「アスカ、僕から試してみるよ」



 僕は恐る恐る手を伸ばすと、手は何の抵抗もなく壁をすり抜けた。そのまま歩いて中に入ると、神殿の導きの書の部屋とは比べ物にならないほど狭い部屋に入ることができた。机が1つ置いてあるだけで、イスは置いていなかった。机は奥の壁に押し付けてあるから、どうにか部屋で立っていられる空間がるだけ。はっきり言って窓もなく狭い閉ざされた空間は、この場所にいるのが苦痛なほどだ。僕はアスカが入ってきたときに邪魔にならないように、横に移動した。


 しばらくすると、アスカの手が見えた。僕と同じように手から試したようだ。そして、無事にアスカも入室してきた。アスカも部屋の狭さに驚いていた。



「旦那様、このお部屋は何のお部屋でしょうか?」


「僕にも分からない、部屋の中を探してみると言っても、正面の壁の地図と机の上の箱くらいだ」



 僕の言った地図は、正面の壁に2つ張り付けられていた。右側の地図は僕も見たことのある大陸の地図。ただ、とても詳細な地図。僕がダンジョンで書いた正確な地図のようだ。それも色も塗られていて、もう見たままをそのまま絵にしたよな精密な形も色もしている。左側の地図は明らかに人が描いたものだ。7つの石のようなものが書かれていて、1つは大陸の形に似ている。7つの石は大きいものから小さいものまでさまざま。この大陸に似た石は、地図の左下に書かれていて、大きさは中くらいの大きさ。何を意味しているものかは分からない。


 机の上の箱は、とても頑丈に作られている。木の箱を金属の帯のようなもので、しっかり補強されている感じ。今までみたこともない、がっしりとした印象を与える箱だ。机の上に置かれているので、思ったより小さい。アスカが両手の平に乗せるとちょうどいいくらいの大きさ。鍵はないので、箱を開けることは可能だ。僕は思い切って箱を開けてみることにした。


 箱は特に仕掛けもなく、ふたは普通に開けることができた。中には2つの指輪がはめ込まれていた。2つ?もともと2つだったのか?僕とアスカが入ってきたから2つなのか?まぁ、この部屋でできることと言ったら、もう指輪を手に取りはめてみることくらい。僕が1つの指輪を手に取ると、アスカももう1つを手に取った。まずはじっくり眺めてみる。金色の指輪には、石と金色の金属で文様のような形を表現していた。これはどうすれば作れるのか想像もできない。僕たちはお互いの指輪を交換して見てみると、アスカが手に取った指輪は、僕のより少し小さめだった。女性用にも見えるし、アスカ用にも見える。石と金属の文様は同じだった。


 もう僕たちに残されているのは、指にはめてみることだけ。僕とアスカは左手人差し指に、はめてみることにした。えい!




 景色は見慣れた大きな木がある草原の景色。でも、なぜわざわざ別の部屋から創造主様のところへ?僕もアスカも疑問しかない。とりあえず、創造主様に声をかけることにした。



『創造主様、グランとアスカが参りました。今回はその……こちらにきた理由が分かりません。神殿ではないお部屋からこちらに来ています』


『その指輪をはめたことで、ここへきたのです』


『創造主様、この指輪はなんなのですか?指輪が2つあったので、2人で指輪をはめてみたのですが……』


『あの部屋に入れた者に指輪が与えられます。グラン用とアスカ用です。2人は夫婦なので、同じ文様の指輪です』


『私とアスカで指輪を賜ったのですね、ありがとうございます』



 僕とアスカは2人そろってペコリと頭を下げてお礼をする。ただ、なぜ指輪がもらえるのかまでは分からない。



『創造主様、この指輪を賜ることで、私とアスカは何をすればよろしいでしょうか?』


『この大陸を治めなさい。グランとアスカにはその資格があります』


『創造主様の意に反したい気持ちはないのですが、そればかりはお受けできかねます』


『グランが抱える不安のためですか?』


『はい、その後の大陸が不安定となります。それに今の大陸の3王体制は、お互いの交流が始まりうまく機能するようになるでしょう。私はその調整役に徹するのが、創造主様のご希望に長く応える結果となるでしょう』



 ここで、アスカが大きな声を上げた。



『創造主様、旦那様の抱える不安とは何なのですか?』


『グラン、私は導かれた者に、隠さねばならないこと以外の問いには答えるのです。私から答えますか?』



 いつかアスカとは話さなければいけないことは分かっていた。でも、どうしよう、今は話したくない。でも、逆の立場だったら、僕もアスカから聞き出していたと思う。やっぱりどんなことでも、アスカには正直に話しておかないといけないか。アスカに辛い思いをさせたとしても……



『創造主様、アスカ、私は自分で余命は5、6年だと考えています。私が王となって生きている間は全力で大陸の平和のために働けても、私の亡き後はその後の大陸を治めるのは誰かと騒ぎが起こります。それでは創造主様に、またお心を痛めさせることとなります。なので、継続できる体制で大陸を治めていくのが、長く平穏を保つ結果になります。それに私は、体制が確立し大陸の平穏が取り戻せる目処がたてば、公爵職を返上し余生をひっそり過ごすつもりでいます。その内に、体がどんどん動かなくなっていくでしょう。私が徐々に存在意義を失っていくのは、私の代わりを誰かが務められるようになった証となるでしょう。創造主様、人はなかなか厄介な存在で、悪だくみをする者もいれば、平和な世の中になるよう努力している者もいます。そんな長い歴史を過ごしてきて、創造主様が想像されたよりも、少し違う方向に向かっていることが多かったと思います。ですがもう少し人を信じて見守ってください。今回の変化は、創造主様を失望させるような歴史にはならないよう、皆で力を合わせますので』


『創造主様、旦那様の余命は5年から6年で間違いないのですか?』


『アスカ、残念ですが私はその問いに答えられません。私にも分からないのです。ただ、長い歴史を鑑み、グランの答えはそう間違えてもいないでしょう』



 アスカがその場で泣き崩れてしまった。僕はアスカの背中をさすりながら、アスカを落ち着かせようとする。



『グラン、アスカ、2人が大陸の平穏につながると思うなら、そのようにしてみなさい。ただ、これは私にとっても大きな賭けになります。長い歴史の中でこの大陸の王の間に入れたのは、初代のルディアだけなのですから。なので1つだけ命じます。国王と呼ばれる人たちに指輪は見せなさい。それが2人に任せる条件です。エコリアス、あなたも2人に知恵を貸してあげなさい、いいですね』


『かしこまりました』



 エコの最後の声で、僕とアスカは部屋に戻った。アスカはうずくまって泣いたままだ。僕はアスカの手を取り、ゆっくり立ち上がらせて、アスカをギュッと抱きしめる。



「アスカ、先に死んでしまう僕と結婚したことを、後悔している?」


「私が旦那様と結婚したことを、後悔することなどあり得ません!」


「それなら、泣かないで欲しい。アスカの泣き顔を見るのは切なくなってしまう」


「でも、旦那様。私は旦那様のいなくなった世界で、どう生きていけばいいのでしょう」


「そうだね、僕がアスカと結婚するときの、ずっとそばにいるって約束は守らないといけない」


「そうですよ、旦那様。ずっとそばにいてくれなければ嫌です」


「分かった。アスカとの約束は必ず守る。だから今は先のことは考えずに、今やるべきことを一緒にやろう」


「約束は守ってくれるのですか?」


「うん、約束は守る。どんな形になるかは分からないけど、必ず守るから安心して」


「分かりました。旦那様を信じます。ただ、今まで黙っていたことの罰です。私をギュッとしながらキスをしてください」


「うん、それは僕にとっても嬉しい申し出だ」



 僕とアスカは抱き合ったまま、長いキスをした。2人の唇が離れても、アスカはキスの続きをねだった……




 アスカがようやく落ち着いた。でも、涙で顔はぐちゃぐちゃ。僕はハンカチを魔法で湿らせ、アスカの涙を拭いていく。アスカは僕のすることに黙って従っていた。目が真っ赤なのもヒールの魔法で少しは良くなった。外へ出ても大丈夫だろう。僕はアスカの手を引きながら、部屋を出るのでした。


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