28話 フィル王国とのお別れ
ダンジョンから王都へ無事に帰還した。前もってお願いしていたこともあり、そのまま報告会を開催してもらった。今回は遺体の埋葬と魔道具の回収はなし、戦利品は過去の2回よりかなり多かった。合わせて39階層のボスまで討伐してきたことも報告した。ガラナ軍団長からは3つ目のダンジョンの駐屯地の増員を検討してほしいと依頼をしていた。メリオス王国を参考にダンジョンの20階層まで討伐対象にすることで、ダンジョンの外の魔獣の数を減らせる可能性が出てきたからだと報告していた。
僕からもフィル王国からの依頼をすべて完了させたのでメリオス王国に帰ることを伝えた。国王陛下からせめて数日間は滞在して、お別れの晩餐会には参加してほしいと頼まれた。さすがに国王陛下の頼みは断れないので、ありがたく参加させていただきますと伝えた。
報告会が終わり部屋へ戻ろうとしたところで、ガラナ軍団長に呼び止められた。約束していた武器と防具の店に、明日案内してくれるとのことだ。ありがたく申し出を受けることにした。
ナイアさんとスピナさんにもご自分のお屋敷でしっかり休暇を取ってと頼むと、代わりにナーラさんを案内役に派遣してくれるとのことで、了解しておいた。お2人を休ませるには、そうするしかないですからね。
翌日も僕とアスカは朝の訓練からスタート。食事を終えると馬車が用意されていて、武器と防具の店に向かうことになった。お店に到着するとガラナ軍団長がお店で待っていてくれた。僕たちも店内に入って武器や防具を見せてもらった。
フィル王国ではいくつかの金属を混ぜ合わせた合金によって丈夫な金属を作っているそうだ。ただ、職人さんの話しではメリオス王国のミスリルの装備の方が優れているとも言われた。僕もメリオス王国でもミスリルは貴重な金属で、近衛兵団と一部の冒険者だけがミスリルの武器や装備の使用を許可されているとお伝えした。職人さんもさもありなんという感じだった。
武器や防具としてみると、種類や形に違いはなかった。昔の戦争の中でそれぞれの国のいい物は他国に提供する方針で3国とも優れた同じ形状のものが流通したそうだ。ただ、素材についてはそれぞれの国で採れる金属が異なるため、独自の発展をしているそうだ。メリオス王国でも合金の研究を進めれば、冒険者に安価で今よりも丈夫な武器や防具が提供できるかもしれない。有益な情報をいただいた。
僕が武器や防具を購入して、メリオス王国に持ち帰ることは可能かをガラナ軍団長に確認すると、国王陛下の許可は得ているので問題ないとのことだ。それならと、既製品で最高級の武器と防具を在庫があるだけ購入することにした。さすがに全部買う!には職人さんが驚いていた。使用する目的ではなく、お土産目的ですからね。購入した武器や防具は次々と物置へ。物置は大きな物でもホイホイと片付けられてとても便利だった。
ガラナ軍団長とはお店で別れることにした。僕とアスカは握手を求められ握手を交わした。38階層のボスと戦う経験をしたことが何よりの収穫だったと喜んでくれていた。僕とアスカは晩餐会でまたお会いしましょうと言って、部屋へ帰った。
翌日の朝にアスカと訓練をしていると、スピナさんが僕たちのところへ来た。今日から復帰ですとのこと。僕とアスカはもう少し休んで!とお願いしたけど、スピナさんにはお2人と一緒に過ごせるのは後数日だからと押し切られてしまう。確かに今夜辺りが晩餐会で、晩餐会の翌日にメリオス王国に帰ることになるだろう。
朝食を食べていると、ナイアさんも部屋に来られた。ナイアさんは朝食は済ませてきたとのことで、お茶を飲んでもらっていた。ナイアさんから今夜が晩餐会ですと伝えられる。いよいよ明日が帰る日と決まった。
僕とアスカからお世話になった3人にダイヤモンドの杖をプレゼントした。3人はこんな高価な物を恐縮していたが、グラン侯爵家でお世話になっている人に渡している品だから気にしないでと伝えて受け取ってもらった。ちなみに横で見ていたレイナさんとリニアさんも、うらやましそうにしていたのでお2人にもプレゼントした。この杖はとても扱いやすく高性能ですよと伝えると、皆さんが杖を光らせながら、杖の性能の良さを確認していた。ちなみに僕も同じ杖ですと話すと、皆さんは精進すれば公爵様と同じ魔法が使えるかもしれませんねと変なスイッチが入っていた。皆さん魔法士でもあるから、やんちゃな面もお持ちのようです(笑)
今回の晩餐会では、大歓迎のムードで迎えられた。ご挨拶でも大歓声。その後もご挨拶に来てくれる人たちが後を絶たなかった。理由はとても簡単で、家族や祖先、友人の遺品を持ち帰ってくれたことへの感謝だった。無理だとあきらめていたものを、思いもよらず成し遂げてくれた異国の公爵に、ひと言感謝を述べたいと思ってくれたのだろう。僕とアスカもありがたくお礼の言葉を受け取った。饗応役で僕たちについていてくれたスピナさんは大忙しだった。挨拶に来てくれた人を僕たちに紹介し、僕たちのことをお相手に紹介していたからだ。ご苦労様でした。
晩餐会の最後には、国王陛下からまでお礼の言葉を賜った。そしてグラン公爵家として名誉王国民の称号を賜った。これは王国民の身分なのか国賓の身分なのか微妙なところだけど、そこはあえて触れないでおこう。ただ僕たち家族は自由にフィル王国に入国し、自由にフィル王国を移動する権利を得たのは間違いない。とてもありがたいことです。
晩餐会を終えて部屋に戻り、ナイアさんたちと最後の深酒飲み会をした。メイドさんたちにも無理のない範囲で参加してもらって、最後の夜を皆で楽しんだ。
翌朝もいつもと変わらず、朝の訓練とお風呂。朝食を皆で普通におしゃべりしながらいただいた。食事を終えれば帰り支度を整え、いよいよ出発です。僕は皆さん1人1人と握手とお礼の言葉。アスカは女生とは抱き合い、男性とは握手をしていた。
部屋を出ると多くの人が見送りに来てくれていた。僕は開けた場所に飛び箱を出し、中へ乗り込む。フィル王国の付き添い人は最後までスピナさんが勤めてくれた。皆さんに手を振りながらお礼に言葉を述べ、飛び箱をゆっくり上昇させる。高度がとれて方向も定まれば、国境門に向けて出発です。
国境門では、門の近くに飛び箱を着地させる許可が出ていた。お言葉に甘えて門のすぐそばに飛び箱を着陸させた。飛び箱を片付けてフィル王国の国境門を通過する。国境の壁の中に入ると、僕たちとスピナさんたちが一緒に居られるのはここまでだ。僕はフィーリさんとしっかり握手しスピナさんを守ってくださいと最後の挨拶。スピナさんとはまたお会いしましょうと握手した。アスカもフィーリさんと握手とお別れの挨拶。スピナさんとは抱き合いながらお互いに大泣きしていた。必ずまた会いましょうねと言いながら、2人はなかなか離れることができなかった。僕とフィーリさんで2人を引き離す。4人でまた会いましょうと最後の言葉を交わして、僕たちはメリオス王国の国境門に向かった……
物語としては、フィル王国編無事終了と言った雰囲気ですが、この4人は10日も経たずに再開することになります。それも物語の中でも数話後です。読者の皆さまからのお別れ詐欺とのお言葉は受け付けておりません(笑)




