26話 老剣士とアスカ
朝の訓練とお風呂を済ませて食堂へ。朝食もいつもの6人がそろっていただく。午前中の買い物も6人でアークさんの商会を訪れた。今回は食料品がメインなことをお伝えして、そちらを中心に案内をお願いした。僕は新しいタオルと新しい毛布も購入した。今回もスピナさんが同行となると、侯爵家のご令嬢には新品のタオルや毛布を使ってほしいですからね。買い物をしていて気になったことが。ナイアさんも一緒に買い物をしている。僕はナイアさんにこっそり聞いてみると、今回の遠征にはナイアさんも同行されるようだ。ただ、まだ発表前なので内緒とのこと。
今回は各々がアークさんの商会にお支払いをして、買った物は僕とアスカで物置に片付けてしまう。アークさんには次回のダンジョン攻略前にもお世話になりにくることも伝えて、部屋へ帰ってきた。昼食も6人でいただき、食事が終われば王宮へ向かう支度を始める。
支度が整ったところで馬車に乗り込み王宮へ。部屋に案内されると、すでに皆さまはお揃いで会議をされていた。僕たちが参加する会議の前に、別の会議も行われていたようだ。僕たちが席に着いたところで、宰相様が今回の参加者を発表する。スピナさんとスピナさんの護衛のフィーリさん。魔法士団からはナイアさんとナイアさんの妹のナーラさん。姉妹そろって大魔法士様とは恐ろしい家系です。王国軍からはこれも驚きの第3王国軍軍団長のガラナさん、それに第3王国軍からギラムさんが参加されるとのことだ。はっきり言って今回の遠征参加者は、フィル王国のかなりの要人。戦力の増強ではなく、その目でダンジョン攻略を見てこい!なのでしょうね。別に隠すこともないので問題ありません。
会議も無事に終え部屋へ戻る。アスカとお風呂に入り、のんびり居間でくつろいで、6人そろったところで夕食です。今夜がしっかりした食事が最後になるので、僕たちはしっかり飲んでしっかり食べて、しっかり騒いですごしました。
翌朝は王宮のお庭に集合するのは前回と同じ。そう、今回はメンバーが変わっただけで、あとはやることは同じです。飛び箱で半日ほど飛行をして無事にダンジョン入り口に到着です。移動も戦闘も魔道具確保も前回と同じ。残念ながらご遺体の埋葬の悲しみも前回と同じです。今回違ったことと言えば、僕が使っている魔道具やアスカの戦い方についてはいろいろ聞かれたこと。魔道具は使ってみていいかと聞かれることが多かったので、どうぞと言ってお貸しした。もちろんどれ1つ使うことはできなかった。今回は情報収集をする気が満々だったので、かえってこちらとしては気分は良くなかったです。だからこちらから詳しく説明することもしませんでした。長く僕とアスカと過ごしていたスピナさんとフィーリさんは、何となく僕とアスカの気持ちを察してくれているようではあったけどね。
そんな訳で、淡々と任務をこなし、淡々と王宮へ戻ってきて、淡々と報告を済ませました。そして僕からも会議の席で国王陛下に要望を伝えた。3回目のダンジョンには日を空けずに向かいたいと。もう危険がないのも伝わっているし、遺品の回収は誰でもできることだ。人がそろわないのならば、スピナさんたちと4人で向かっても問題はないと考えている。僕たちの様子が変わったことに気付いた国王陛下と王妃様は、スピナさんを呼んで事情を聞かれたようで、国王軍と魔法士団には厳重注意を与えたようです。興味を持つ気持ちも分かるのですが、これでもフィル王国からお願いされてきたお客様なのです。ほどほどにお願いしたいです!
僕たちの希望が通ったのか、3カ所目のダンジョンには3日後に出発となった。前日の午後から会議が開かれるのも前回と同じです。会議の前に買い物に行きたいことはナイアさんとスピナさんにはお伝えをしておいた。
2回目の報告会を終えた夜は、僕たちとスピナさんたち4人はナイアさんのお屋敷に食事会に招かれた。その食事会にはナーラさんも来られていて、お2人には遠征のことを謝罪された。もちろん僕もアスカも謝罪を受け入れ、嫌なお話しはここまでと終わりにした。食事会はナイアさんの計らいで、フィル王国の郷土料理を中心のコース料理が提供された。お酒もフィル王国の伝統のものや、多くの人に飲まれている白ワインもいろいろご馳走になった。いくつかの料理は作り方も教えてもらったので、僕も母の得意料理だったと言ってコンソメスープの作り方を説明した。
帰り際にはお土産ですと、何種類もの白ワインを送られた。僕もメリオス国王陛下が飲まれているワインですと言って、何本かの赤ワインをプレゼントした。お屋敷にはナーラさんだけが残り、残りの皆は王宮の部屋に戻りました。
翌日の夜もガラナ軍団長のお屋敷に食事会に招かれた。ガラナ軍団長から謝罪を受けた。隣にいるナイアさんがクスクス笑っていた。私も昨夜謝罪をしましたと。皆がクスクス笑ったところで、難しい話しは終わりです。ただ、ガラテ軍団総長が来られて、アスカと立ち合ってみたいと言い出した。周りの人はひやひやしていたけど、アスカはにっこり笑顔でお受けしますとやる気になっていた。
庭に出た2人はある程度の距離を取って向かい合った。ガラテ軍団総長もアスカも自分の腰に差している剣を手にしての真剣勝負だ。アスカは両手に剣を持ってはいるが、構えたりはしていない。一方のガラテ軍団総長は今にも切りかかってきそうな殺気を放っている。先に仕掛けてきたのはガラテ軍団総長。振り下ろした剣はかなり早い。それでもアスカは落ち着いていて、少し身をそらして剣をよけた。なおもガラテ軍団総長が剣を振り続けるが、アスカはよけることをせず、左手の剣で受けたり払ったりしていた。ガラテ軍団総長の連続の攻撃が止まると、アスカはスッと前に出てガラテ軍団総長の目の前まで近寄ったところで両手の剣を鞘に収めた。ガラテ軍団総長も鞘に剣を収めて、お互いに礼をした。
「アスカ殿は気を操るのか」
「はい、軍団総長様。これを会得しなければ、38階層のボスには勝てません」
「うむ、まだ我が王国が挑むには早いと言われるのだな」
「それはフィル王国でお考えになることです。少なくともメリオス王国では38階層のボスを倒すための工夫を続けている段階です。戦いに行くのであって、死にに行くのではありませんから」
「うむ、アスカ殿のお言葉を王国軍の皆に伝えるとしよう。立ち合ってくれて感謝する」
「私も軍団総長様の剣さばきを見せていただき勉強になりました。これからも精進いたします」
うーん、達人同士の対話には一般人はついていけません。食事の最中も2人で剣について熱く語り合っていたけど、僕たち一般人はお料理とお酒をおいしくいただいて過ごしました。
いよいよ食事会も終わり帰り支度をしていると、アスカにお願いされて僕はリュックからアスカの細剣を1本取り出した。
「ガラテ軍団総長様、この剣は旦那様が私のために特別に作ってくださっているミスリル製の細剣です。この剣は40階層のボスと戦っても、傷1つつかない剣です。本日のお招きのお礼に、ぜひお受け取りください」
「アスカ殿、貴重な剣をかたじけない。ありがたく使わせてもらおう。ガラナあれを持ってこい」
そう言われてガラナ軍団長は部屋を出て、1本の見事な鞘に収められた剣を持って戻ってきた。
「アスカ殿、この細剣は我が家の家宝の1本で、大陸の戦争の中で活躍した剣だ。今夜の立ち合いの礼に持っていくがよい」
「ガラテ軍団総長様、貴重な剣をありがとうございます。ガラテ軍団総長様から賜った剣と代々まで伝え、我が家の家宝として大切にいたします」
「うむ、今宵は良い夜を過ごせた。グラン殿、アスカ殿、感謝をしている」
こうしてお屋敷を後にしました。王国の軍団総長様ともなると、威厳というか格というか違います。あれ、我が王国の近衛兵団長は……いい人なのは間違いないです(笑)




