22話 遺志を継ぐ者たち
ダンジョン4日目は僕の予想通りに魔道具はあまりなく、ご遺体も少なかった。37階層まで順調に攻略を済ませ、いよいよ38階層です。ただ、僕は少し早いけど38階層入り口近くで昼食の休憩をとるよう指示する。皆さんは少し早いのではと思いながらも、公爵様の言うことだからと了解してくれた。
僕は昼食の準備を始める前に、スピナさんに声をかけた。シャナ王妃様へ午後から38階層に向かうことになったと報告してくださいと。僕のいつにない真剣な表情に、スピナさんもかしこまりましたと請け負ってくれた。
昼食はいつもの感じで始まり、僕は焼き菓子のいくつかをデザートとして振舞う。アスカが紅茶を入れてくれて、少しのんびりな昼休憩となった。
昼食の片づけを終えて出発準備が整う。僕は皆さんの前に立ってひと言言わせてもらった。38階層は悲惨な光景が予想されます、覚悟してくださいと。また、ボスの位置によってはいちど37階層に戻り、私と妻の2人で討伐した後、皆さんを迎えにくることもあります。そのおつもりでと。
僕の真剣な言葉に皆さんも背筋を伸ばし、気合を入れてくれた。飛び箱に乗り込んで38階層に降りようとしたが、やはり入り口近くにボスがいた。状況を注視していたアスカに声をかけられた。
「旦那様、飛び箱で飛んでボスの背後で降りましょう。そうすれば皆さんに安全に討伐の様子を見ていただけますから」
僕はアスカの意見に納得して、ダンジョンの天井近くを飛行して、ボスの背後の安全な距離で飛び箱を降ろした。毎回のお約束で身の危険を感じたら37階層を目指して逃げるようにと。その際はボスを大きく迂回して37階層の入り口に向かうことも追加で伝えた。皆さんが了解したところで僕とアスカが飛び箱を降りる。
僕もアスカも、もう38階層のボスを前にしても、特に感情の揺れも感じない。ただのボス扱いだ。いつものようにアスカが駆け寄ると、アスカに気付いたボスが剣を振り下ろした。皆さんはアスカが危ないとヒヤッとされたと思うけど、危ないのはボスの方です。アスカはボスの右腕の振り下ろしを、左手の剣で受ける。アスカの剣はそのままの位置を保ち、ボスの剣が弾き返された。ボスは体勢を崩す中、アスカはボスの魔石をめがけて2度の突きを放つ。ボスが光の粒となって消えていった。
僕もアスカもボスを倒したことにホッとはしたけど、改めて眺めた辺りの景色はひどいものだった。僕の予想したとおり、多くのご遺体は重なるよに倒れていた。数人で剣を受けようとして、そのまま倒されてしまったのかもしれない。そんな戦いの様子が想定できてしまうため、余計にこの無謀な戦いを指示した王国軍には猛省を促したい気分だ。
とりあえず戦利品を抱えて飛び箱にもどる。戦利品を物置にしまったところで今後の方針を説明する。
「この後は、38階層の魔獣を一掃して魔道具の回収も行います。安全を確保した後、最後にご遺体の埋葬と魔道具の回収を行います」
「かしこまりました」
いつものように階層中央の上空から階層全体をサーチ。合わせて魔道具もサーチ。魔道具はボスを倒した辺りに落ちているだけだった。このダンジョンで38階層のボスとの初めての遭遇が、階層間の坂道の近くだったのも不運だったのだろう。とても残念なことだ。
魔獣の討伐もいつものように、僕の魔弾で倒しては戦利品を回収した。すべての魔獣を倒したところで、ボスを倒した場所に向かう。
まずは作業の方針を決めることにした。階層間の坂道の脇は比較的冒険者も踏み込まない平らな場所だったので、ご遺体はそこに移動することにした。数が多いので僕とアスカが2人でご遺体を土でくるみ移動することにした。王国軍のお2人とレイナさんとリニアさんに遺品の回収や持ち主の確認をお願いして、終わったご遺体について僕とアスカで運ぶことにした。1人の魔法士さんには回収した遺品と持ち主について書き留めてもらった。もうお1の魔法士さんとスピナさんとフィーリさんには魔道具の回収をお願いした。皆が役割が決まり作業を始めた。
1時間ほど作業をしただろうか、皆がご遺体を並べた場所に集まった。僕はすべてのご遺体を覆うように土の山を魔法で作る。さらに僕はダイヤモンドを取り出して石碑のようなもを作る。フィル王国の勇者たちが、ここで戦い、ここに眠っていると書いた。山の脇に石碑を突き刺し、僕とアスカは跪いて祈りを捧げた。もちろん僕もアスカも創造主様にだ。安眠をもたらしてあげてくださいと。僕たちが祈り始めたことで、他の皆さんも祈り始めた。しばらく祈りが続いた。
皆が立ち上がると、スピナさんは石碑を確認にいく。
「公爵様、奥方様、我が王国の戦士のために、石碑をお建てくださったことを心より感謝いたします。我が王国はお2人のご好意を決して忘れることはありません。ありがとうございました」
「人の世の平和を守るために戦っている同士です。国は違えど心は同じです。彼らの遺志を受け継ぎ、彼らの守ろうとしたものを守り続けていくのが国や生き残った者の使命です。その遺志を継ぎ続けることで、ようやく彼らは安心して眠りについてくれるでしょう」
僕たちは37階層の昨夜野営した場所まで戻った。皆の気分が落ち込んでいるのもあるが、何よりも着ている服が血だらけなのです。まずは身も心も清めてからにしましょうとなった。
手分けして野営の準備を済ませ、まずはシャワーを浴びることにした。僕とアスカがゆっくり入ってくださいと声をかけて、のんびりシャワーを楽しんでもらった。体をきれいに洗い流し、洗い立てのきれいな服に袖を通す。それだけで気分は晴れやかになれる。もちろん僕とアスカも最後にシャワーを浴びて、きれいな服に着替えた。
皆さんにこれからどうしたいかを聞いてみた。今日この後に移動を始めて上層で野営をすれば、明日の夕方には地上に戻れること。ここでこのまま野営して、明日と明後日を帰還の移動に使うこと。皆さんの意見は全員一致で早く王都に帰りたいだった。もちろん僕もアスカも同じ気持ちです。
野営の後片付けをして飛び箱に乗り込む。もうダンジョン内には魔獣の1匹すらいないので、飛び箱をかなりの速度で飛ばした。もちろんサーチの魔法をサボることはしないですけどね。24階層まで戻ったところで野営して、翌日に地上に戻ったのがお昼を少し過ぎた時間。昼食は日の光を浴びながらと皆で決めたからだ。僕たちが地上に戻ることを予め王妃様にお伝えしておいたので、ダンジョンの外では王国軍の皆さんが食事を用意して待っていてくれた。僕たちはダンジョン入り口で飛び箱を降り。僕は飛び箱と物置を片付ける。皆で歩いて無事にダンジョンの外へ出た。王国軍の皆さんは大歓声で僕たちの帰りを祝福してくれた。




