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30話 水色のワンピース

 私とミリンダさんはお屋敷の裏側出入口から外へ出てすぐの建物に入った。1階は部屋というより倉庫のような場所で大きな物が多かった。横の階段を2階に上がると廊下の両側に普通の部屋のように扉がいくつもある構造だった。その中の1つの部屋の中へミリンダさんに案内される。クローゼット部屋と同様、半分にドレス、半分に棚の巨大なタンスだった。ミリンダさんは吊るしの服の方へ行って、札を確認しながらある一画で止まった。



「この辺りが最近片づけた春用と夏用の服です。片手でも着やすいようワンピースにしようかと思いこちらにご案内しました」


「ミリンダさん、私はどの服が良いとかまったく分かりません。ミリンダさんが私に合いそうなものを選んでくれませんか?」


「かしこまりました」



 そう言ってミリンダさんがワンピースを選び始めてくれる。私も多くのワンピースをボーっと見ながらゆっくり歩いていた。その中に1つのワンピースを見つけた。子供の頃に孤児院に置いてあった数少ない絵本の中の1冊で、鳥の背に乗せてもらって、世界を旅するというお話しだったと思う。水色の生地にところどころ白い縁取りがされていた。大きくなったら私もこんな素敵なお洋服を着るんだ!と思って、その本を飽きもせず毎日のように見ていた。でも年を重ねるうちに孤児院がどんな場所かおぼろげながら理解して、夢を見ることも忘れてしまった。そんな1着のワンピースをボーっと見ている私の姿を見て、ミリンダさんはヒョイとそのワンピースを手に取ってしまった。その行為に私は呆然とした。



「アグリさん、こちらへお願いします。何点か出してみましたので」


「はい」



 ミリンダさんのところへ行くと、何の知識もない私ですら素敵と感じるワンピースが5着並べて吊るされていた。



「アグリさん、気に入られた服はありますか?」


「ねえ、ミリンダさん。これらの服は庶民では絶対に着ることができないものですよね」


「はい、私にはきっと一生着ることができない贅沢なものばかりです」


「私はこの服を着る資格があるのかしら?」


「そうですね、アグリさんはフィーネ様のお命をお救いすることで、夢の世界に招かれたのかもしれません」



 ミリンダさんがまるで私の頭の中を覗いたように言われて驚いた。



「だから、夢を見ていられる間だけでも、夢の世界の住人でいればいいと思います。夢はいつか覚めてしまうのですし……」


「ミリンダさんの言われるとおりです。私の子供の頃の夢を、ここで叶えてしましましょう!」



 そう決心して私は迷わず水色のワンピースを手に取るのでした。




 部屋でミリンダさんに手伝ってもらい、私はフィーネさんの水色のワンピースを着て食堂へ向かった。私の席に、スミスさんが用意してくれた手袋が3つ置かれていた。私はイスに腰かけてから右手に手袋をつける。頭の中でイメージしながら指を動かしてみる。指は想像したように動く。


 お母様は私がワンピースに着替えたことを喜んでいる様子。



「アグリ、とても良くお似合いよ」



 私は恥ずかしくなってうつむいてしまった。



「お母様、お褒めありがとうございます。嬉しいです」



 そう答えるのが精一杯だった。


 お母様が席に着くと料理が運ばれてきた。私は恐る恐る右手にナイフ、左手にフォークを持つ。グリルチキンをフォークで抑え、ゆっくりナイフを下ろす。肉とナイフが当たった後は、ナイフを少し前後に動かす。しばらくするとナイフがお皿に触れる。肉が切れた!ナイフに刺さっている鶏肉をゆっくり口の中へ運び、口を閉じる。手を失って以来、初めて自分で食事をした気分になった。食事ができるのなら生きていける。生きていたいと願う気持ちが体の中を走り回っている……そんな気分になれたのはいつぶりかしら?


 成長しているのか、前の状態に戻っている途中なのか、どちらかは分からなくても、前進していることだけは確かだ……嬉しい!




 食事を終えて自室に戻った。ミリンダさんとグリムさんには私の支度が終わるのを待ってもらい出発した。せっかく市場に行くので、私がお屋敷を去る前に、皆さんに私の回復をお知らせできる何かをプレゼントしたいと考えたのだ。そして思いついたのが刺しゅうのハンカチを送ること。私が自分で刺しゅうをするのはとても大変だと思う。ただ、できるようのなってしまえば誰よりも正確で速く刺しゅうができる自信がある。魔手ですから!時間があれば生地から編みたいけど、生地を編んで刺しゅうをするとなるとどのくらい時間がかかるのか……お店の人に聞いてみるしかない!取り急ぎエコで調べてみた結果、生地を編む糸とかぎ針。完成品のハンカチ。刺しゅうの糸と針。刺しゅう枠を試しに購入することにした。ハンカチを作るなどできるの?とか、そもそもお金が間に合うの?とか不安はいっぱいある。でも、どうにかして、感謝の気持ちは使えたい!それで決意を固めました。


 私は部屋を出て、ミリンダさんとグリムさんに声をかけ、屋敷を出るのでした。


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