14話 シャナ王妃様と白結晶石のブレスレット
やはり神殿長といえども、少々興奮気味だった。長年追い求めていた人との対話だ。無理もないのかもしれない。
「公爵様と奥方様のお導きにより、誤った教えより救われ創造主様とお会いすることが叶いました。お2人には心から感謝いたします」
「神殿長に資格があったからです。私と妻はただのきっかけに過ぎません。これからは多くの人を導いてあげてください」
「公爵様と奥方様は創造主様からお役目を受けているのですか?」
「明確に何をしなさいとは言われていないのです。フィル王国の神殿に来ることができるかもしれないと報告したときも、神殿長に導きの書の存在だけ知らせればいいとのお言葉でした」
僕たちが立ち話を終え階段を上っていく。すると祭壇の席に多くの人だかりができていた。その人だかりの中心にはシャナ王妃様がお座りになっていた。僕たち3人はすぐにおそばまで歩いていき、各々の礼を尽くして挨拶をした。
「グラン殿、アスカ殿、連絡もないのに会いにきた無礼をお詫びします。急ぎで内々にお話ししたいのです」
もちろん、僕とアスカに異存はない。神殿長が配慮してくださり、神殿長室をお使いくださいと言ってくれた。シャナ王妃様は頷き神殿長室に向かう。僕とアスカも後を追った。
神殿長室にはシャナ王妃様と僕とアスカの3人だけが入室した。これにはもちろんシャナ王妃様の護衛の国王軍が難色をしめした。でもシャナ王妃様はかたくなに拒み、外交上の重要なお話しですで押し切られた。その結果、部屋の外には多くの護衛の兵が固めていた。
「フィーネ様から賜った白結晶石のブレスレットには、フィーネ様からのお手紙も添えられていました。ただ、そのお手紙を読んでも、ブレスレットがどのよな物か理解できなかったのです。怪しい物は手にしなければいいのですが、さすがにフィーネ様からの贈り物を無視することもできなので、お2人にお話しを聞きにきました」
「それは、王妃様を不安にさせてしまい、申し訳ありません。少しお時間をいただくことになりますが、お話しをさせていただきます」
僕はそもそもこのブレスレットが誕生した経緯からお話しした。その話は母さんから聞かされた話なのだけどね。
「私の母は魔法学校の学生時代に図書館の司書をしていたそうです。最初は一般図書室の司書をしていたようですが、働きぶりが評価されて高等図書室の司書になったそうです。その際に、一般図書室に置かれていた外部記憶装置に登録した新書の情報が、触ったこともない高等図書室の外部記憶装置にも登録されていることを不思議に思ったようです。そして母は外部記憶装置同士で通信をしていることに気付いたのです。外部記憶装置間で通信が行われているのならと、母とフィーネ伯母上は外部記憶装置を介してメッセージのやり取りができるのではないかと考えました。そうして試行錯誤を繰り返し、完成させたのがこのブレスレットなのです」
「グラン殿、そうなるとこのブレスレットは外部記憶装置と通信するための魔道具となるのですね」
「はい、王妃様。えーと、王妃様の場合は……フィル王宮という名の外部記憶装置に登録がされているのですね」
「グラン殿はなぜそれを……」
「私の使用している外部記憶装置の名はエコ、フィーネ伯母上はロイヤルプレースです。私はエコに王妃様が登録されている外部記憶装置の名を聞いただけです。王妃様はブレスレットの石に思念を送れば、距離に関係なく外部記憶装置のフィル王宮と話しができます。フィーネ伯母上とお話しするかどうかは別にして、フィル王宮とお話ししてみることはお勧めします。どこからでも外部記憶装置が使えるのは、とても便利ですから」
ここで王妃様は迷われた。他国から送られてきた得体の知れない魔道具に思念を送るのは、一種の賭けのようなものだ。僕も無理にお勧めするのは良くないと考えた。
「得体の知れない魔道具ですから、王妃様のご心中はお察しします。フィーネ伯母上には王妃様が熟考された結果、お手に取られなかったと伝えておきます」
僕とアスカが会釈をして部屋の外へ出ようとすると、王妃様に待ってくださいと止められた。
「グラン殿、もう少し話しを聞かせてください。メリオス王国ではこのブレスレットが普及しているのですか?」
「王宮内の主要な人や、遠方の領地に配布されています。先ほどはメッセージとお伝えしましたが、今では直接話すことができるようになっています。距離に関係なく話せるので、とても重宝しています。ただ、1部の魔法士しか使えないのと、メリオス王国では白結晶石がとても貴重で高価な鉱物であるため、数を増やしたくても増やせないようです」
「そうなると、フィーネ様は私と直接話す機会を得るために、このブレスレットをお送りくださったのですね?」
「はい、そのようです。王妃様同士が直接お話しができる……それは王国にとっても国王陛下にとっても大きなメリットとなりますから。それとフィーネ伯母上はシャナ王妃様とお話しするのをとても楽しみにしていました。王妃の愚痴は王妃にしか聞いてもらえない!だそうです(笑)」
「あはは、なるほど。確かに私の愚痴はフィーネ様にしか理解してもらえませんね」
「機会があればとルディア共和国のメーリン王妃様の分も預かってきています。3人でお部屋でお酒でも飲みながら、王妃様トークをするのが楽しみと話していました」
「分かりました。フィーネ様のお気持ちを受け取らせていただきます」
王妃様はブレスレットを手にはめて、思念を送られている様子。うまくいっていないようです。僕は王妃様の許可をいただいて、王妃様のお手を拝借。思念の流れを石に向けさえることで、王妃様も無事にフィル王宮とお話しができたようです。ここで僕はエコにフィル王宮のシャナ王妃様と話したいと伝えた。
『シャナ王妃様、聞こえますでしょうか?グランです』
『はい、聞こえます。口に出さずともしゃべることができるのですね』
『はい、思念で対話しているので、声は不要です。距離も関係なくこのように話しができるので、フィル王国も遠隔地に配布することで、遠隔地の様子を直接知ることができます。災害のときなども現地の状況がリアルタイムに知ることができ、メリオス国王陛下が適切な救援の指示を出されていたこともありました』
『なるほど、確かにこれは使いこなせれば便利な魔道具ですね』
『ありがとうございます。では、通信はいったん切らせていただきます』
僕と王妃様は通信を終え、普通に話しを始めた。
「シャナ王妃様、フィーネ伯母上よりメッセージを送るように話しをしておきますので、まずは2人でお話ししてみてください」
「分かりました。フィーネ様とお話しできるのを楽しみにしていますとお伝えください」
話しを終えた僕たち3人はシャナ王妃様を先頭に部屋の外へ出た。お互いに馬車へ向けて歩いている間に、シャナ王妃様が耳寄りな情報を教えてくれた。
「グラン殿、フィル王国では白結晶石は潤沢とまではいかなくとも、ある程度の採掘量があります。メリオス王国で必要なら相談してくださいとも伝えてください」
「王妃様、ご配慮感謝いたします。その点もフィーネ伯母上に伝えさせていただきます」
王妃様が馬車に乗られて出発されるまで、僕たちも神殿の皆さんも礼の体勢でお見送りした。また、僕たちも馬車に乗り込み移動を始めた。




