2話 白魔法士アグリ
騎士様の後ろについていき、魔法学校の教員室に入室する。
「入学生のアグリさんをお連れしました!」
「ご苦労様です」
応対に年配のご婦人が出てきた。
騎士様は会釈をした後、書類をご婦人に手渡された。
「魔法の属性は……未確認なのですね。では、こちらへ来てください」
ご婦人が私と騎士様を先導して別の部屋へ案内してくれた。部屋へ向かう途中、「私は白魔法教員長のメリルと申します」と自己紹介してくれた。案内してくれた部屋の中には、見たこともない機材が所狭しと置かれていた。その中から天秤のような器具の前で止まり、「アグリさん、天秤の上の玉に手を置いてください」とメリル先生にうながされる。恐る恐る手を乗せると、右側に乗せられていた白い石は眩いばかりの光で発光し、左側に乗せられていた黒い石は若干明るくなった程度。騎士様とメリル先生はお互いの顔を見合い。
「白魔法士で間違いないですね!」
とお互いがお互いを確認する。そして交互に書類にサインを書き込む。その書類の1部を鞄にしまった騎士様。
「国務院に提出してきます。夕方にはアグリさんに王都民証をお届けします」
メリル先生にそう伝えて部屋を出る準備を整えた騎士様。私には片膝をつき目線を合わせてくれて、「これからメリル先生と学生寮の部屋へ案内してもらってください。私は夕方またこちらにお伺いします」と伝えられ、私に荷物のリュックを背負わせてくれてから部屋を出ていかれた。
「ではお部屋に案内しますね」とメリル先生と部屋を出る。
「魔法士候補はほぼ貴族のお子さんで、一般のお子さんは数人です。それも白魔法士となると全学年でアグリさんお1人です」
「貴族のお子さんは皆さん通学されているので、一般のお子さんだけが学生寮で生活しています。貴族のお子さんが学生寮に出入りすることは禁止ではありませんが、学生寮に来れれることはないと思います」
「制服は学校から支給されます。汚れたり痛んだりサイズが合わなくなった場合は、申請すれば交換してもらえます」
「学校内では制服着用が義務となっています。学生寮の自室内のみ私服の着用が許されています。ですが、学生寮の皆さんは寝るときに寝間着に着替える程度で、自室内でもほとんど制服で生活されているようです」
メリル先生は道すがら、そんな話しをしてくれた。
学生寮に入ると、まず広い部屋があり、「ここが食堂。食事以外にも皆さんが集まって雑談や勉強会をすることもあります。それと先生もこちらで食事をされることがあります」
さらに食堂の奥の方に視線を向け、「奥に洗面所、トイレ、浴室があり、通路右側が男性用、左側が女性用となってます」
階段を上がりながら、「2階は男性の部屋、3階は女性の部屋、男性は3階は立ち入り禁止です。女性も2階は階段のみ使用しフロアへの立ち入りは禁止です。ですので、皆が集まるのは食堂となっているのです」
3階に到着すると、「アグリさんのお部屋は305号室です」と言って、1つの部屋の扉を開け中へ私を招き入れた。部屋は左側にベッドに洋服ダンス。右側は勉強机と本棚。向かいの壁には大きなガラス窓があり玄関や中庭が見えた。こんなに大きくて透明なガラス窓を見たことがなかったので驚いた!
「夕方に騎士様が来られたら呼びますので、それまでお部屋でのんびり過ごしてください。そうそう、夕方に教科書や勉強道具も支給しますので、荷物は持たずに来てくださいね」
そう言い残し、メリル先生は部屋を出ていかれた。
贅沢な部屋とふかふかのベッドに驚きながら部屋を見まわす。荷物から洋服や肌着を洋服ダンスに片付けてしまえばやることはなくて、呼ばれるまでの時間を窓からの景色をボーっと眺めながら過ごした。『人も建物も多くて、息苦しい気持ちになっちゃうな……』それが私の第一印象だった。
夕方になるとドアがノックされ、メリル先生が迎えに来てくれた。階段を降りていくと、食堂に騎士様ともう一人の見知らぬ女性が待っていた。騎士様はプレートのついたネックレスを私に着けてくれた。
「王都で生活する人はこの王都民証のついたネックレスを着けている必要があります。まぁ、一度着けてしまうと国務院に行かないと外せないけど」
そう笑顔で説明してくれた。
「これで私のアグリさん移送任務は完了です。しっかり勉強して立派な魔法士になってください」
私の頭をワシワシと撫でて、「それでは!」と手を挙げて騎士様は去ってかれた。私は「ありがとうございました」と深々と頭を下げ見送った。
「では次に制服の採寸をしちゃいますね」
もう1人の女性が採寸紐を手に私の体の採寸を始める。
「丈は~、肩幅は~」
としゃべりながら次々体のあちこちに紐を押し当て、その結果はメリル先生がメモをとっていた。
「はい、お疲れ様!アグリさんは白魔法士さんだったわね、白魔法士の制服の仕立てなんて何年振りかしら?腕が鳴るわ!」
メリル先生からメモを受け取ると、この女性も部屋を出ていった。
「それでは学校についての説明をします」
メリル先生が私と隣合わせで席について、積んである数冊の本から1冊を手に取り本を開く。
「アグリさん、このページは読めますか?」
私はページの上から数行を音読する。
「もう大丈夫です。では次に……」別の本を開いて私の前に置く。
「今度はこの計算をしてみてください」
見せられた問題は「1冊15カパの本を3冊買い100カパ硬貨で支払いました。お釣りはいくら受け取ったでしょう?」というもの。
私は「55カパです」と答えた。
「入学前にしっかり勉強してきたようですね。これなら皆さんと一緒に授業を受けても問題ないです」
メリル先生がにこっり笑顔を見せてくれたので、私も少しホッとした。
「羽ペンとインクと紙は、使ったことがないでしょ?一般には高価なものですから……学校ではどれも支給される物です。慣れるまでどんどん使用してください。壊れたり不足した場合は教員室に取りに来てください」
そう話しながらメリル先生は肩掛けバックにすべての本と文房具一式を収めて、私に渡してくれた。
「明日からこのバックで学校に通ってください」
「はい、分かりました」
「では、これで失礼しますね」
そう言って、メリル先生とは食堂で別れた。
部屋に戻って夕食までの時間、羽ペンで字を書いてみた。思ったとおりに字を書くには慣れが必要!明日からは練習を日課にすることを決心した……