9話 フィル王国王宮に到着
戦闘が落ち着いたところで、王国軍の人たちに動いてもらうことにした。負傷者の救助と捕縛した盗賊を一か所に集めること。スピナさんに王国軍への依頼をお願いした。また、僕はリュックからテーブルを出し、ポーションの大量に入った箱を置いた。馬車の近くに来た王国軍の皆さんに数本ずつ持たせて、味方も敵も関係なく負傷した者は助けるようにお願いした。
僕とアスカがホイホイ配っているポーションが最上級ポーションなのを見抜いたスピナさんは、慌てて僕たちの配布を止めようとする。最上級ポーションの代金など請求されたら大変なことになると思ったのだろう。僕はスピナさんに自分で作ったポーションだから大丈夫と伝えたけど、それでもスピナさんはあわあわして真っ青な顔をしていた。後でアスカと慰めてあげるので、もう少し待っていてくださいね(笑)
戦闘は完全に終わったようで、怪我人の救助と盗賊の捕縛が中心になった頃、僕たちの前に立派な鎧をまとった騎士様が現れた。もちろん僕たちの前で右手を胸につけてのお辞儀です。
「公爵様、奥方様、国賓としてお迎えしておきながら、このような失態を申し訳ございません。私は第3王国軍の軍団長を務めるガラナと申します」
「ガラナ軍団長、そろそろ戦闘も落ち着いたようなので、私たちとスピナ様は王宮へ向かわせてもらいます。これ以上、フィル国王陛下をお待たせするのは心苦しいので」
「了解しました。護衛の準備をさせすぐに出発させます。どうぞ馬車の中でお待ちください」
僕とアスカはテーブルとポーションの箱はそのままにして馬車に乗り込んだ。レイナさんとリニアさんにも馬上で待機をお願いした。あわわ状態のスピナさんも馬車に乗せてしばらく待っていると、すぐに出発の号令が発せられた。僕とアスカに助けられた兵士さんは敬礼をして見送ってくれる人もいた。
無事にとは言いにくいけど、僕とアスカ、レイナさんとリニアさんも無傷でフィル国王の王都に到着することができた。
初めてみる異国の王都。メリオス王国の王都とはぜんぜん雰囲気が違う。メリオス王国の王都は一面が白。青い空の下でとても映える。フィル王国の王都は薄いベージュ色。それに建物は低い。すべてが2階建てだ。ただ、小高い山の山頂付近に立派な城が立っていて、城が王都を守っている安心感を与えてくれる。
馬車は王都への入り口の門を通り過ぎる。王城へ向けて進む僕たちの通る道には、人が1人もいない。通行規制をしてくれているのは間違いない。そうなると盗賊団と戦って到着が遅れたので、王都民には迷惑をかけてしまっただろう。申し訳ない!
どんどん道を進むが、なかなか王城に到着しない。確実にメリオス王国の王都よりも広く人も多い。大都市なのだろう。
城の壁にしては低めの門を通過する。ここから先は王城の敷地だろう。街のベージュ色の雰囲気からがらりと変わり、水と緑に溢れている素敵な城だった。ただ、城と王宮のような区別はないようで、巨大な城が1つ建っているだけに見える。
さらに先に進むと城を2階建ての建物が1周ぐるりと取り巻いている。この建物はきっと王都の運営をする役人たちの作業部屋だろう。さらにその建物を通り過ぎると、庭と呼べる広い空間がある。庭を抜けた先に城が建っていた。
馬車は城の入り口、玄関のような場所に横付けされて止まる。そして馬車の扉が開く。僕が先に降りて、アスカの降りるのをエスコート、続いてスピナさんをエスコートした。
僕たちが馬車を降りたところで、スピナさんが僕たちを先導して歩き始める。城の入り口までは敷かれている絨毯の上を歩いて進む。とても贅沢で豪華だ。
いよいよ城に入る。高い天井にキラキラのシャンデリア。床には一面に絨毯が敷かれている。やはり玄関も豪華の一言。
玄関では礼をして待っている人たちがいた。立っているのは僕とアスカとスピナさんだけだ。スピナさんが僕たちを紹介した。
「メリオス王国公爵のグラン様と奥方のアスカ様をお連れしました」
「メリオス王国公爵のグランです。隣にいるのが妻のアスカです。フィル国王陛下に王城へお招きいただけたことを、心より光栄に思い感謝しております。滞在中はお世話になります。よろしくお願いします」
僕の挨拶が終わると、1人の女性が立ち上がった。
「グラン公爵様、奥方様。ようこそおいでくださいました。城内でお世話をさせていただきます、上級王国魔法士のナイアと申します」
「あなたがナイア様でしたか、お手紙では何度もやり取りをさせていただき、ありがとうございました。お会いできて嬉しい限りです」
「ありがたきお言葉、恐縮です。まずはお部屋にご案内します。しばらくはお部屋でおくつろぎください」
「分かりました。ご案内をお願いします」
今度はナイアさんが部屋までの先導をしてくれて、スピナさんは僕たちの後ろについてきた。階段を上り、2階のフロアをしばらく歩く。この城は、とにかくすべてがくるりと1周取り巻いている構造で、中は吹き抜けだった。
しばらく歩いて大きな扉の前。ナイアさんが思念を送って扉を開けた。ようやく部屋に到着だ。もちろん、部屋と言っても、僕とアスカが王宮に住んでいる部屋のことで、庶民の言い方ではお屋敷というものです。
玄関と広いフロアが一体となっていて、フロアにはソファーがいくつも置かれている。ほうほう、部屋の中まで招かなくても、フロアのソファーに座って簡単な話しは済ませられるのか、いいアイデアだ。僕がそんなことを考えていると、フロアの中の1つのソファーに案内される。僕とアスカはソファーに腰を下ろした。
僕たちの近くにはナイアさんを始め数名のメイドさんのような女性が控えてくれていた。
ナイアさんは床に膝立ちとなり、僕たちは話しを始める。
「公爵様、奥方様、しばらくはこちらでお待ちください。リニアさんがお部屋の中を確認しておりますので」
「ありがとうございます。他国に伺うのは初めてなのですが、いろいろやることがあるのですね」
「はい、何せ王国に来ていただいたお客様ですから」
「この部屋は私と妻が自室のように振る舞って問題ないお部屋だと思っていいですか?」
「もちろんです、何なりとお申し付けください」
「では早速。ナイアさん。落ち着かないので、ソファーに座ってください。我が王国の公爵家のしきたりに膝立ちした人とお話しする習慣はありません」
「……」
「えーと、ナイアさん。私たちが快適に過ごさせてくれるというお言葉は、社交辞令でしたか……」
僕が意地悪を言うと、お茶を運んできてくれたスピナさんがクスクス笑っていた。
「スピナ様もこの部屋ではスピナさんでいいですね。それとスピナさん、すみませんが、私の横で厳しい顔で立たれているレイナさんにもお茶をいれてあげてください」
「かしこまりました」
僕とアスカは知らん顔しながらお茶をいただく。うん、飲んだことないお茶でとてもおいしい。
「スピナさん、このお茶とてもおいしいですね。とても気に入りました」
「ありがとうございます。でも、先ほど奥方様にいれていただいたお茶もフィル王国では飲めない、とてもおいしいお茶でした」
「なるほど、それじゃ早速交易開始ですね。私とスピナさんでがっぽり儲けましょう(笑)」
「本気にしますからね、公爵様(笑)」
3人はここまでの道中でいろいろ話していたから軽口も軽快です。そんな僕たちの様子を見て、ナイアさんが渋々失礼しますと、ソファーに腰かけてくれた。レイナさんもあきらめて座ってくれて、お茶に口をつけてくれた。
「やっとこれでお話しできます。スピナさんも座られたら、今後のお話しをさせてください」
「かしこまりました」
アスカは横で相変わらずですねって僕を見ている。うん、どこにいてもマイペースだよ(笑)




